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第一部 サクセス編(改稿版)

5 リーチュンとシロマ

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「いてて、なんだこれ……頭痛いな……。」 


 朝目覚めた俺は、どうやらビール一杯で二日酔いをしてしまったらしい。 
 聞いた事はあったがまさか自分がなるとは……。 
 まぁ農家の人間なんて酒飲めることもほとんどないんだから、弱いのは遺伝だ。 

 さて諸君! 
 とりあえず今日から本格的にスライム撲滅ツアーに行こうではないか! 
 本当はもっと強い魔物を倒したいとも思わなくもないが命は一つ! 

 作戦は【いのちだいじに】だ! 

 早速俺は昨日と同じスライム天国である草原に向かう。 


「うわ、相変わらずウジャウジャいるなぁ……。 こいつらどっから湧いてくるんだ? それはともかくっと、殲滅開始!」  


 でゃぁ! とりゃ! あちょーーー! 


 俺はひたすら湧いているスライムを適当に剣を振り回して圧倒していく。 


 ブチャ! 
 べちゃ! 
 モチャ! 


 流石にレベル10並のステータスだとスライムは相手にならない。 
 狩っている間にレベルも上がるため、狩効率が時間と共に更に上がる。
 気付けば俺は、レベル4になっていた。

 ステータスはオール35。 
 全て平均的とはいえ、これはレベル31相当である。 

 アリエヘンのギルドの中で言えば既にベテランの域……いやエース級。 

 ただ一つ言うならば、戦士のくせに知力が35あってもあまり意味はないということ。
 なので、同じ30レベルの戦士と比べたら弱いかもしれない。 

 まぁそうは言っても、あっという間に追い抜くと思うけどね、テヘヘ。

 しばらく俺は、そのまま草原に無限に湧いて出るスライムをひたすら狩り続け、既に100匹は余裕で倒した。 

 これはもはや、作業である。モグラ叩きではなく、スライム叩き。 

 地面から

 ヌニョッ

と湧いた瞬間、

 ボゴっ

と滅する。 

 最初は快感だったが、今はもう、なんか飽きたわ。 


「とりあえずもっと湧くまでランチタイムにしますかねぇ。」 

 大草原の掃除を終えた俺は、そこに堂々とシートを広げると、具のないおにぎりを貪り、そして昼寝をする。 
 完全に無防備状態。 
 
 今回陣取った場所は、大草原の中で見つけた比較的大きな木の下であり、ここは日よけになっていて風が気持ちいい。 

 木陰に陣取った俺は、優しい風と暖かさに包まれ自然と眠くなってしまった。 

 こんな無防備で大丈夫か? 

と聞かれても、俺は大丈夫と答える。 

 なぜならば、既に防御力が高すぎて襲われてもダメージはほとんどないからだ。 
 そして、レベルが4を過ぎたところから、なぜかスライムが俺に気付くと逃げていく。 

 なので、まず襲われる心配はない。 

 といっても、実際には同じ冒険者から寝込みを襲われて装備を奪われたり、スライムに顔を塞がれて窒息って言う可能性はある……が、まぁまずそんな事は起きないだろう。 

 そんなこんなで、俺はしばらくそこでグースカ寝ていると、突然鬼気迫る声が聞こえてきた。 


「アタイはいいから逃げて!!」

「ダメ! 私が逃げたらリーチュンがやられます! 逃げながら助けを求めましょう!」 

「無理よ! 囲まれてるわ。お願い! 私が道を開くからアリエヘンまで走って!」 


 その声で目覚めた俺は、声のする方に目を向けると、そこには、赤いチャイナ服をきた若い女性と、水色の髪をしたおかっぱ頭の小さい少女がいた。 

 しかも、今まさに絶対絶命のピンチ。


「んん? 今の叫び声は……。え? 嘘だろ! 女の子がモンスターに襲われてる?」 

 
 彼女達は、現在この草原のレアモンスターであるニッカクラビットに囲まれている。 
 ニッカクラビットとはその名の通り、2つの角を持った兎でレベル10相当の魔物だ。 
 この辺で遭遇するのは珍しい。 

 こいつのタチが悪いのは、その凶悪な角で刺してくる突進と、集団行動のうまさにある……と昔、冒険者をやっていた叔父さんが言っていた。

 叔父さん曰く、


「1匹なら倒していい。だが、3匹以上見つけたら迷わず逃げろ。」 


だそうだ。 

 初心者が襲われたら例えパーティを組んでても全滅必須とのこと。 
 そういう理由から、俺は直ぐに助けに飛び出すことができないでいた。

 確かに自分は強くなったが、スライムとしか戦った事がないし、実際の自分の力がどの程度かわからない。 
 助けに行こうと奮い立たせてはいるのだが、なぜか足がすくんで動けない。

 すると、囲まれている女の子の一人が、ニッカクラビットの突撃により倒れてしまう。 


 ヤバイヤバイヤバイ! 
 早く助けなきゃ! 
 でも勝てるのか、俺に……? 
 誰か他に助けてくれる人はいないのか!? 


 そう思い、付近を見渡すも当然誰もいない。 

 そしてその時、倒れている女の子を必死庇おうと、両手を広げているオカッパの少女と目が合った――が、助けて欲しいとは言ってこない。 

 多分俺の見た目がボロ過ぎて、来ても死体を増やすだけだと思ったのだろう。 
 それどころか、その少女は俺に向かって……


「早く逃げて下さい!」


と叫んだのだ。 

 自分が死ぬ寸前にも関わらずに……。 


 それに比べて俺はなんだ? 


 助けられるかもしれないのに、ただ足を震るわせて遠くで怯えているだけ。 
 更には、今にも死ぬかもしれないと思っている女の子に逃げろと言われる始末。 


 俺はなんだ? 
 スライム倒すためだけに冒険者になろうとしたのか? 
 違うだろ! 
 俺は……俺は強くなって、可愛い女の子を助け、その子とイチャラブしながら冒険がしたかったんだ!
 
 なら、行くしかねぇだろ! 

 そう思った瞬間、気付けば俺は、彼女達のところに向かって猛ダッシュしていた。 

 敵うか、敵わないかじゃない! 
 絶対助けるんだ! 
 美少女を! 

 素早さ35は伊達じゃなかった。逃げろと言われてから、ほんの数秒後にはその女の子たちの近くまで来ている。 

 オカッパの少女は、そのありえない光景に大きく目を開いた。 
 見るからにボロっちい革装備にボロボロの銅製の剣を持った弱そうな男が、凄い速さで自分達のところへ向かってくる。 


「ダメ! 無理です! 逃げて下さい!」 

 その子は、俺の救援を拒否した。 
 来たら俺まで死ぬと思ったのだろう。 

 だがかまうもんか! 
 ここで男を見せなきゃ、冒険者じゃない! 


「どりゃゃゃあ!!」 


 俺は無我夢中でニッカクラビットに斬りかかる――のだが、剣がなまくらなせいで斬る事はできない。

 しかし一撃撲殺! 

 レベル30相当のステータスは、俺が思っている以上に強かった。

 オカッパの少女は目を疑う。
 俺の出鱈目な強さと洗練されていない雑な動きに。 

 動きは明らかに素人。 
 装備もボロい。 

にもかかわらず、ニッカクラビットを一蹴している。


「どういうことですか? いえ、それどころではないです! リーチュン! 起きて下さいリーチュン! 癒やして! 【ヒール】【ヒール】【ヒール】」 


 危機が去ったと悟った少女は、倒れているチャイナ服の女に、何度も呼びかけながら回復呪文を唱えた。 

 すると、その少女の手が淡く光って、出血している腹部の傷が塞がっていく。 
 遂には、チャイナ服の女の目がゆっくりと開き始めた。 


「あれ? ここは? シロマ!? 敵は!? ニッカクラビットは!?」 


 その女はまだ混乱している。
 しかし目の前の状況を見て直ぐに気づいた。 
 目の前に立っているのは、魔物ではなくボロ装備の男。 
 そして彼の周りには魔石が沢山落ちていた。


「アタイ達……助かったのね……。」 


 自分達がそこにいる男に助けられたと知り、安心するチャイナ服の女。 


「よかった……。リーチュン……無事で……。」 


 オカッパ少女はそう言うと、回復魔法を行使し過ぎたせいで精神力が枯渇し、意識を失ってしまった。


「シロマ!? ちょっと、シロマしっかりして!」 


 リーチュンと呼ばれた女は、必死にシロマに呼びかける。 
 そしてその傍らで、息を荒げながらも立ち尽くす謎の男。

 そう、俺です。


「はぁはぁはぁはぁ……。やった! やったぞー! 俺は勝ったぞーー!」 


 俺は無我夢中で剣を振り回し続けていたら、いつの間にか全ての魔物を倒していた。 

 レベルも一気に7まで上がり、溢れ出てくる力に興奮が止まらない。
 故に助けたオカッパ少女が気絶している事にも、チャイナ服の女が意識を取り戻している事にも気づいていなかった。 


「あの……あんたは? アンタがアタイ達を救ってくれたの?」 


 不意に後ろから聞こえる声に振り返る俺。 
 そこにいたのはピンク色の髪に赤いチャイナドレスをきた美少女。 

 こんなべっぴんさんは村で見た事がない! 

 俺は、その女性のあまりの美しさと、突然声を掛けられた事で混乱し、とんでもない言葉を吐いてしまう。 


「お、オラと結婚してくれねぇっぺか!!」 


 そう……。 
 俺はいきなり求婚をしてしまったのだ。 
 しかも隠している田舎訛り全開で……。 
 流石にこれにはチャイナ女も戸惑う。 

 はっきり言って意味不明だ。 
 ボロい装備をした弱そうな男が、何故かあのニッカクラビットの大群を倒し、初めて会った自分にいきなりプロポーズ。 
 しかも告白の仕方も信じられない程ダサい……。 


 故に笑った。 
 その場の雰囲気とかけ離れていた言動に、リーチュンは腹を抱えて大爆笑する。 


「あはははは! 何それ、チョーうける! もしかして緊張をほぐそうとしてるの?」 


 その笑い声を聞いて冷静になる俺。 


 何を口走ってんだおれは!? 
 馬鹿か? 
 この一世一代のチャンスに何でとち狂ったようなことを口走ってんの!? 
 何が結婚してくれねぇっぺかだよ!! 
 死ぬ! 死ぬ! 恥ずかしくて死ぬ! 


「ねぇ、ちょっと大丈夫? とにかく助けてくれてありがとう! それと相棒が意識失っちゃったみたいだから、お助けついでに町まで案内してくれない?」 


 計算し尽くされたような上目遣いでのお願い。 
 断る理由などどこにもない。


「オラに任せてけろ!」 


 またやっちまった! 
 俺はどうやら極度の緊張状態になると田舎訛りが出てしまうようだ。 


「あははは! それまじウケる! アタイの名前はリーチュン、武闘家よ。この子は僧侶のシロマ。アンタは?」

「お、おら……俺はサクセスだべ……だ! よ、よろすこ!」 


 まともに話せない……。
 もうやだ……。
 何の呪いだよ! 


「アンタ、本当に面白いわね、まぁとにかく急ごうかサクセスくん!」 

 こうしてリーチュンはシロマをおんぶしながら、俺と共に町に向かって歩く。 
 ちなみに落ちていた魔石はちゃっかりリーチュンが拾っていたのであった……。
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