大戦乱記

バッファローウォーズ

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戀王国の仲間達

休憩点

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中枢大陸某所(義士城を出て数時間後)

 戀王国は中枢大陸南方に位置する新興国。
同国までの道のりは遠い。継承戦争より十年以上経過した現在、その道中は敵勢力の領内を通過する必要がある為、水路や空路で進む事は不可能に近かった。
故に慾彭の転移魔法を使って少人数で進むのだが、この経路だと魔力回復の為に何回か休憩を挟む必要があり、到着まで最低一日はかかる。
無論、それでも水路や空路よりは断然早い。

「そして休憩場所として、こういう中継地点が幾つかあるんだ。慾彭が実際に足を伸ばして、ここなら休むのに適していると覚えた場所なんだって」

「記憶の地図に標を打ち、そこへ飛ぶようなものよ。だから慾彭殿が実際に足を伸ばした場所である事が前提となるの」

「慾彭、凄く良い場所知ってる」

 ナイト達が休憩している場所は、とある勢力圏の山中だった。

 十数年前、剣合国との道を繋げる為に各地を行脚した慾彭。
敵の領内を休憩場所と定めるだけあって、かなり慎重かつ人気のない所を進んだ彼は、当然ながら街道ではない山中を突破する事もあったという。
その最中に見付け、記憶に深く刻んだ場所が…………現在休憩している天然温泉だ!
彼等は何と、敵地の一角で足湯を楽しみながら、まったりと茶や菓子を頂いているのだ!

「敵の領内だからな! 無防備になる訳はいかんが、これだけでも充分に気持ちいいだろ!」

「ぅん! ぽかぽかする! 慾彭、凄く良い場所!」

 ナイツ、キャンディ、ナイトの説明を聞いた涼周は足をパタパタさせて花を咲かし、慾彭も小さな一礼を以て「どういたしまして」を伝える。

「にぃに、王国、どんなとこ? 足湯ある?」

「こらこら涼周。遊びに行くわけじゃないんだよ。メスナのお父さんを含む、独立戦争の戦没者を追悼する為に行くんだよ」

「そうだった。メスナごめん」

「大丈夫大丈夫。父さんに至っては葬式なんて柄じゃないからね」

 謝る涼周に対し、メスナは手を軽く振って受け流す。
父・マノトであれば、寧ろ楽しむついでに来てくれ、そう言うだろうと彼女は思った。

 然し、けじめを付けるところは付ける。下手に勘違いさせる訳にもいかない。
メスナはちょっとした悪戯心を発揮するとともに、遠足気分を払拭させる。

「でも、他の亡くなった人にはちゃんと冥福を祈ってあげてね? 他の人を気にしてあげないとぉ……父さん達と一緒に、お化けになって夜中に出てくるかも!」

「にぃに、にぃに!? お化け、出る!?」

「真面目に手を合わせないと出てくるよー」

 メスナの冗談に、ナイツは敢えて乗った。乗って、涼周の気を引き締めさせる。
脅し効果は抜群であり、涼周はキャンディに抱き付いた。

「んにぃ……! にぃに、お化け。にぃにがお化けで出るって……!」

(おい勝手に殺すなよ。出るのは俺じゃないし)

「はふふっ! 大丈夫。良い子にしてれば出てこないわよ」

 膝元に縋り付く涼周の頭を撫で撫でするキャンディ。
彼女は仮にお化けが出ても涼周なら魔銃をぶっぱなすだろうと思っていたが、幼子特有の恐怖心に駆られる姿を見て純粋な可愛さを感じた。

「そうね……戀王国って所は、ちょっと前まで存在しなかったのよ。……旅をしていた私達が南方に君臨していた悪い王を退治して、その時に造ったの。現国王は旅仲間の一人、秦恵蘭シン・ケイラン殿。仁愛に満ちた綺麗な人で、元々は悪い王によって自分の国を滅ぼされた姫よ」

 秦恵蘭と慾彭を含む戀王国の仲間達は、後半旅の仲間に当たる。
彼女等は全員が大陸南方の出身者であり、秦恵蘭を盟主と仰ぐ形で結束していた。

「そして現在は志を同じくする周辺諸侯と共に、独立を望む従属勢力や、圧政に苦しむ民を助ける為に戦っている。所謂連合軍ね。彼女達に助けられた勢力や民は数知れず、連合に加わっている諸侯も十を超えているわ」

 戀王国軍を筆頭に、世の為、人の為に戦う王国連合軍。
大半の諸侯が秦恵蘭達に助けられた勢力である事から、連合内では強固な結束と意志の統一が自然と形成されており、戀王国軍単独でも強いところを更に強めていた。

「何だか童ちゃんの勢力みたいですねぇ」

「確かに涼周の仲間衆も、言わば多国籍連合軍だよね。営水は半分剣合国みたいなものだけど、他の人は飛刀香神衆だったり承土軍だったり豪族だったり」

 単独で戦わず、連合を成す事で真髄を発揮する勢力として、メスナは王国連合軍が涼周軍に似ていると発言した。

 ナイツがそれに賛同すると父母もつられて頷き、涼周軍結成のあらましを知らずに首を傾げる慾彭にも説明を始める。
初めてナイトと出会った時の様子、マドロトスや承咨を退けて兄やカイヨー民を助けた戦、楽瑜や稔寧に続いて魏儒や銹達や営水やルーキンを仲間に加えた事。

 ナイト、キャンディ、ナイツ、メスナが、互いの体験談を交えて熱心に語る。
聞き終えた慾彭は面白い幼子だと笑みを浮かべて興味を示すとともに、涼周の存在をどこかしら心配するように目を細めて見せた。

「………………」

「ふっはは、成る程な。第三者から見れば、涼周はそう映るか」

「……慾彭殿は何て言ったんですか?」

 ナイトの言葉から察するに、慾彭は涼周に別の見方をした様だ。
だがそれについて尋ねても、ナイトとキャンディは微笑を浮かべるだけで答えなかった。

 一行はもう暫くの休憩を経た後、再び戀王国へ向けて転移を始めた。

(…………慾彭は涼周の事をあいつに見立てたか。流石に大きく影響されているな)

(分かる人は分かってるのね。涼周が、如何に危ない判断を行う子なのかを……)

 死して英雄となった男は戀王国の仲間達の心に、多大な存在となって刻まれている。
ナイトとキャンディには、それが堪らなく嬉しく感じると同時に、彼を連想させる涼周の身を案じたという。
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