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戀王国の仲間達
剣義将の尻拭い、弟のご機嫌とり
しおりを挟む「マキュラ、イヒム、タカタァ、ヨゴの豪族連合は、営水が治める事となった三葉に移住した。
あの御方とナイツはヴァレオーレの宮殿に蓄えられた財宝の数々を売り払い、資金に変えるべく、盧慧港へ赴いた。
そこで司馬宜やダイサイロと出会い、前者には密輸港となっていた同地の改善を任せる。
また、後者から金色の盾を持つ少女の話を聞かされたバスナは、慌ててナイトやファーリム等に伝えに向かい、三葉にて調査を開始した。
あの御方もナイツと共に少女を探したが、この時はまだ実態を掴めなかったという。
二大英雄は調査を一旦断念し、父母やメスナと縁の深い戀王国へ向かった」
キュロ州南西部 三葉 盧慧港
ダイサイロとの取引の翌日。
「にぃにー! ばしゅな逃げた! 屋台食べさせてくれる言って……逃げたぁー!」
「ははっ……そうだな。ばしゅな酷いなぁ。あと屋台は食べられないからね」
ご褒美を忘れて何処かへ行ってしまったバスナのせいで、涼周は朝から不機嫌だった。
その穴埋めを行うべく、ナイツは涼周と稔寧を連れて昨日の屋台が出ていた通りまで赴いたのだが、今日は来ていないという仕打ちを受けて戻らざるを得ず、今に至る。
「あの屋台には何が、売られていたのです? 他の店に売っていれば、よいのですが」
涼周と手を繋いでいる稔寧が、空いている右手を使って慰める様に頭を撫でる。
浮き世ばなれした特徴を持つ二人が並んで歩くと、何処かしっくりとくる自然的な美しさが感じられ、本当の姉妹の様にも見えた。
「確か、花の形を模した飴細工だったよ。まぁ……他の店では見なかったね」
ナイツの返事を聞いて、姉の方は状況を把握するとともに困り顔を作り、妹の方は無情な現実を再認識して泣きそうになってしまう。
「涼周。ない物をねだっても仕方ないよ。帰ってプリンでも食べよう?」
「…………ぅぅう! ぅぅんぅ……!」
昨日から楽しみにしていただけに、涼周はとても納得できない様子で首を横に振る。
思えば甘味と花が好物な涼周の欲求を同時に満たす事が可能なのが飴細工だ。
これは大いに栄える義士城の城下町でも見る機会が少なく、地方の町ではもっと見掛けない。珍品を扱う貿易港ならではの商品と言えた。
然し、買えない状況は遺憾ともし難く、飴細工の屋台が何処の店から出ていたのかも分からない。屋台が出ていた周りにも商店と呼べる建物はなく、近隣住民に聞いても、あの屋台が町の至る所で気紛れに商売しているとかいないとか……信頼性に欠ける情報しか得られなかった。
ナイツは飴の代わりに涼周を肩車したり、稔寧と一緒に撫で撫でしたりするも、涼周の機嫌は良くならず、依然として半泣きの状態が続いていた。
「……困ったな……これじゃ聞き込みどころじゃないよ」
町へ出たついでに金色の盾を持つ少女についての情報も集めようとしたナイツ。
彼にとって涼周が駄々をこねる事は想定外であり、思わぬ事態に手を焼いてしまう。
「あれ? 涼周様にナイツ様、それに稔寧様ではありませんか。どうかしましたか?」
そんな時だった。背後から突然聞き覚えのある声が掛けられ、ナイツが振り返って稔寧が意識を集中させれば、そこに居たのは護衛兵を伴うレモネだった。
「あぁレモネか。いやね、実は斯々然々で…………」
ナイツは事の経緯を述べた。
「ちょうど良かった! それならば何とかなると思いますよ!」
するとレモネは満面の笑みを浮かべ、いとも簡単そうに涼周の機嫌取りを買ってでた。
ナイツはそう簡単に上手くいけば誰も苦労しないのだ、と言おうとして――
「おぉぉー! お花の飴、たくさん! レモネ、涼周これ欲しい!」
レモネのお供が持っていた木箱が開けられて中を見た瞬間、思考を停止させた。
「…………うっはぁ……これなんて反則アイテム?」
「とても甘い香りがします。レモネ様、ありがとうございます」
そう、運の良すぎる事にレモネが持参した土産が、花を模した飴細工そのものだった。
「お喜びいただけて何よりです! 涼周様は甘味と花がお好きだと聞きましたので、我が領内随一の職人に頼んで腕を奮った一品を拵えてもらいました!」
ナイツは何と抜け目のない奴だと微笑すると同時、レモネに貸しができたとも思った。
(貴族の子らしからぬ純朴さと剛毅さを持った人だと思えば、やり方はやっぱり貴族っぽいな。でもそれが良い方向である事に間違いはない……か)
「良かったな涼周。レモネもありがとう。お陰で助かったよ」
「ぅ、ありがとうレモネ!」
「はい。どういたしまして!」
礼を言われて喜ぶレモネの顔や目に、偽りの色は見られなかった。
「そうだ、ついでに聞きたい事があるんだ。金色の盾を持つ少女って知ってる?」
棒を握って飴細工を楽しむ涼周は稔寧に任せ、ナイツはもう一つの目的に切り替えた。
問われたレモネは僅かに押し黙り、記憶の中から該当する答えを探しだす。
やがて彼は表情に少しの闇を混ぜながらも、真摯になって話し始める。
「…………ヴァレオーレが過去に一度だけ、そんな様な言葉を口走っていました。捕まっていた私達の中の一人が、ヴァレオーレになぜ女性が嫌いなのかを尋ねたんです。するとヴァレオーレはいきなり発狂して……確か「あの女が悪いんだ、金の盾なんか持ってあたしの男を奪ったから、あたしは悪くない」……とか言って、尋ねた子を地下に落としたんです。……後は、言わずもがなです」
「ごめん……嫌な思い出を聞いたね」
レモネは小さく首を振り、笑みを浮かべ直して話を続ける。
「……いえ、気にしないでください。それとあと一つ、話していて思い出したんですが、ヴァレオーレが独り言の様に「あんな貧弱な小娘が生命の樹の守り手なんて、絶対に嘘」……みたいな事も言っていて、生命の樹が何を示すのかは分かりませんが、少年以外に関心を持たないヴァレオーレにとって珍しく露にした感情でした。あのただならない殺気はまさしく、女性嫌いを聞かれた時に見せたものと同じ。……そこから私が思うに、金色の盾を持つ少女と生命の樹は、何かしらの関わりを持っているのではないでしょうか?」
聞き覚えのない単語の出現に、ナイツは黙考した。
金色の盾を持つ少女は町一つを容易に救える程の治癒魔法使い。十年ほど前にこの三葉へ降り立ち、以降の消息は今のところ不明。
ヴァレオーレが少女に対して何らかの干渉を行った事は確かの様で、そこに少女が守る生命の樹という存在が関係しているとも思われた。
(営水に聞いても、彼は恐らくは知らないだろう。それなら一度泉葉城に戻って、三葉の地史を記した書物を漁ってみるべきだな)
「ありがとう。参考にさせてもらうよ」
ナイツは盧慧港の治安改善を営水と司馬宜に任せ、泉葉城へ戻る事を決めた。
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