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第二次カイヨー解放戦
早朝の奇襲参戦
しおりを挟むカイヨー解放戦、二日目。
「綺麗な朝日だな軍師。昨夜と比べて雲一つない。……この戦も、晴れ晴れとした空の様な結果で終われば良いのだがな……」
剣合国軍と承土・トーチュー連合軍は、互いに距離を取り合った状態で朝日を迎えた。
戦おうと思えば即座に開戦できたが、両軍とも迂闊に動けない理由があったのだ。
「……弟君の軍勢が、どう動くかですね」
安楽武がに言う様に、カイヨー城攻略に当たっていた涼周軍がどう動くかが問題だった。
この時はまだ、剣合国軍にも承土軍にも、カイヨー城の結果がもたらされていなかった。
理由としては、涼周と楽瑜が休息を挟みつつ伝令を兼ねて進軍している事。
殷諞は涼周軍接近に伴い魏儒へ伝令を走らせたものの、包囲中及び陥落後は外部との連絡が取れる筈もなく、承土軍の補給路とともに完全な沈黙に陥った事が挙げられる。
「……ナイツ様、傷の具合は如何ほどに」
「悪くないよ。槍の一突きで寝込むぐらいに柔な体でもないしね」
ナイト、安楽武同様に、一番南東で布陣しているナイツ、韓任も朝日に照らされていた。
「……やはり、涼周殿の事が気になりますか?」
「かなりね。……無茶無理無謀で、楽瑜や飛蓮達を困らせていないと良いけど」
弟の身を案じるナイツへ、韓任は二人きりの状況を利用して思っていた事を口にする。
「涼周殿の事ですが、多少甘やかし過ぎるのでは? ……ナイツ様の涼周殿を想う気持ちは分かりますが、それが為にナイツ様が無茶をなさっている。私には、そんなふうに映っております」
ナイツは沈黙した。自身の純粋な弟愛が、他者の目からはその様に映っているのだと初めて聞かされ、返事に困ったのだ。
「涼周殿には楽瑜殿が居られます。彼は相当な実力者にして、嘘や偽りとは無縁の人物。ここは彼に、涼周殿を一任なされては――」
「韓任の言に誤りがない事は知っているよ。でもね、俺は涼周の兄であり、涼周は俺の弟だ。兄が弟の為に無茶をする……それのどこがおかしい?」
「…………失言、失礼いたしました。ですが私の申したい事だけは、心に留めておいてください。御自身の御身を大切になさられよ。……涼周殿では、ナイツ様の代わりにはなりません」
「……分かった。心に置いておくよ」
忠言を伝えた韓任は、ナイトの本幕舎へ一人で向かった。
負傷したナイツでは今戦の活躍が望めず、韓任が実質的な輝士隊々長となった事もそうだが、この機に第三者の意見も交えた考えをナイツにしてもらいたいと思ったからだ。
一方、涼周と楽瑜は七千の兵と共にナイト本軍との合流に急いでいた。
だが楽瑜は、急ぐ状況こそ慎重さを重視する将軍。広範囲の索敵に余念なく、休む時はとことん休み、駆けるべき時は疾風となって駆け抜ける。常に兵の体力と周辺状況を把握し、案内役のカイヨー兵の意見も参考にして、効率的な進路を以て北上していた。
「あれに見えるは魏儒とシセンの旗。涼周殿、遂に敵の背後へ回り込みましたぞ」
そして午前七時頃、涼周軍はナイツ隊に次ぐ第二の奇襲部隊となって、南東の彼方より魏儒・シセン隊の背後を密かに捉えた。
「にぃに、報せる?」
「伝令を飛ばすには迂回させる必要あり。その間に我等が見つかる恐れも、また然り」
楽瑜には自ずと分かっていた。味方すらも自分達の存在に気付いていない今が、奇襲を仕掛ける絶好の機会だと。報せのない涼周軍の出現にも、安楽武であれば呼応できると。
「騎馬五百、我に従え。歩兵は涼周殿を守りつつ、全力で我に続くのだ。魏儒の守りは承土軍随一を誇り、一時の遅れが己の終わりと心得よ」
楽瑜は各隊の隊長を集めて簡単な軍議を行い、速やか且つ静かに突撃態勢を取らせた。
「姿を現した後は足に風を纏え! 全騎、行くぞ!!」
「オオオォォーー!!」
涼周軍は盛大な鬨の声を上げて突撃を開始し、敵味方の度肝を抜いた。
承土軍兵の大半は目に見える当面の敵へ意識が向かっていた事もあり、殊更動揺する。
「んだんだ!? 魏儒どした!? 朝っぱらから何が起きた! 火山が噴火して金でも降ってきたのか!? ヨッシャやったぜ!」
「シセン殿は正面の突撃だけに注意しておけば良い」
「おっけ。さぁ来やがれメイセイ! 昨日の続きだ! カモンカモン!」
(…………この状況で敵を呼ぶな……馬鹿女)
魏儒は涼周軍の相手を担当し、正面をシセン隊に任せた。
「流石なり魏儒。汝の用兵、真に容赦なし」
全力疾走した騎馬に対応する魏儒と配下の将校。兵の動揺を素早く抑え、先ずは迎撃と時間稼ぎの為に後方予備隊を繰り出した。
然し両部隊が徐々に近づき、お互いの姿が鮮明に確認できるようになると、魏儒配下の将兵は今しがた現れた敵の先頭を駆ける将の存在に気が付いた。
「がっ……楽瑜将軍!? 楽瑜将軍が来てるぞ!」
「くそ……止められるのか! 俺達だけで!」
陣形を整え、平静を取り戻した予備隊兵士達に再び動揺の声が吹き荒れる。
高が知れた五百騎なら今の予備隊一千で充分だろうが、その五百騎を率いる将が問題だ。
何せ東部軍第二の実力者たる闘将・楽瑜であり、彼は魏儒とも親しかった故に、魏儒配下の将兵にも彼の強さは十二分に伝わっていた。
「皆動じるな! 今、魏儒様へ後詰めを要請した! 暫し耐えれば必ず加勢部隊がやって来る! それまで我々だけでも敵将・楽瑜を阻むのだ!」
予備隊の将校は魏儒への援軍要請を既に済ましていた。
ともすれば、楽瑜隊は尚のこと速度を上げる。後詰めが到着して進撃が困難となる前に、魏儒の備えが万全となる前に、何としても本陣近くまで突入を果たさなければならない。
「魏儒兵どもよ、退かねば命はない」
大気揺るがす一喝を放ちたいところだが、魏儒兵よりも間近で受ける味方兵の馬(カイヨー城に控えていた非軍馬)を思って堪えた楽瑜。代わりに背負っていた長剣を抜き取り、突入と同時に立ちはだかる魏儒兵を塵芥の如く吹き飛ばし、蜘蛛の子が如く追い散らす。
カイヨー騎兵二百、元承土軍騎兵三百もこれに続いて一気呵成に攻め立てる。
「一点突破でよい! 雑兵は後続軍に任せ、我等は敵陣を大いに揺する!」
擦れ違い様の一刀で敵将を討ち払った楽瑜は、勢いを緩める事なく前進。予備隊背後に控える、備え不充分な重装歩兵隊に突入した。
「逃げる敵無視! 楽瑜、追う!」
「承知ィ! おらおら、死にたくなけりゃ道を開けやがれ! 元同僚共!」
涼周も本隊に突破指示を出し、将を失って算を乱した敵部隊を適当に潰走させる。
敵味方の被害を可能な限り減らし、それでいて効率的に進撃する術を知った瞬間だった。
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