大戦乱記

バッファローウォーズ

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人の想い、絆の芽生え

絆の芽生え

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 フォンガン軍と別れた輝士隊・涼周連合軍は、カイヨーの河港から敵地に上陸。
雨は止み、雲の切れ間から月が覗く程に天候は回復していた。

「がっ……楽瑜! 稔寧!」

 連合軍全体が、続く作戦決行を前に迅速な部隊編成に移る最中、上陸したばかりの楽瑜隊に声を掛けるべく待ち構えていた人物が居た。
涼周と飛蓮、そして侶喧を筆頭とする飛刀香神衆の頭目達である。

 飛蓮はやや不機嫌そうな表情を浮かべているものの、自分から楽瑜と稔寧の許へと歩み寄り、楽瑜達も同じ様に距離を近付けた。

「飛蓮殿、水上戦の指揮ご苦労でござった。汝が我が言に応えてくれた事が、今宵の大勝利に繋がったものなり」

 会話を切り出したのは楽瑜だった。
彼は真に思う事のみを伝え、飛蓮達の奮闘を労う。

「……まだ喜ぶのは早い。カイヨー城を落として、国境の承土軍を蹴散らすまでが今回の作戦」

 表情を変える事なく、淡々と答える飛蓮。
だが彼女の目付きと声音に至っては、大分緩やかなものへと改善されていた。
忌み嫌う承土軍に所属していたという理由で、楽瑜隊を心底嫌っていた彼女だったが、助けられた恩を感じない程にできない人物ではないのだ。

「……でも、一先ずは……その……勝てたから……その……」

 然し、承土軍への恨みが払拭された訳ではなく、楽瑜がカイヨー陥落に参戦していたという事実も相俟って、そう簡単に心を許す訳にはいかなかった。
礼を述べたくても素直になれない彼女の姿が、そこにはある。

「みなまで言うことはなし。汝の気持ち、曇りなき眼から確かに受け取った」

 口ごもり、上手く想いを表せない飛蓮をフォローしたのは、他でもない楽瑜本人。
飛蓮の内面を黙って察し、己の目から視線を逸らさない彼女の目に感じ入った。

「我等、元は承土軍なり。その事実は覆らぬ。……だが、今は涼周殿を主と仰ぎ、涼周殿の仲間であり、汝等の仲間でもある。この事実もまた、未来永劫覆る事はなし」

 楽瑜の言葉に、目力に、飛蓮は感じ入らされた。自分の抱いていた敵対意識が間違いであると恥ずかしく思う程に。

「なら、これからも…………宜しく……! それと……あっ……ありがとう……!」

 飛蓮は何とか、それだけは言うことができた。
頬を染め、口ごもり、小さな声ながらも、目だけはしっかりと見据えている所に彼女の不器用な実直さが窺い知れる。

「うむ。承った!」

 対する楽瑜も晴れ晴れとした表情を浮かべて返し、稔寧や部下達も穏やかな顔を示す。
飛刀香神衆と元承土軍部隊。互いの確執が大きく解かれた瞬間であった。

「んっ! 楽瑜、飛蓮、お手て。お手て繋ぐ。涼周も繋ぐ!」

 事の成り行きを見届けた涼周も二人の間に入って、飛蓮の左手と楽瑜の右手を握った。

「あっ……はい。そうですね……えっと…………あっ……」

「ぬぅ……ぬぬぬ……!」

 和解したばかりの両者も握手を求められるのだが、ここで一つ問題が生じてしまう。
飛蓮は左手を、楽瑜は右手を涼周に取られている為、向かい合った両者の握手は握手に非ず。どちらかがどちらかの手を包み事になる。

「むぅぅ……! ……はいっ!」

 楽瑜と飛蓮が同時に手首を捻ろうとしたり、どちらかが一方的に握られる事に違和感を感じたりで中々握手をしない為、結局のところ涼周が手を離すという、お膳立ての失敗をお膳立てするという妙な形式となってしまった。
それでも涼周は顔に満開の花を咲かせ、空いた両手をブンブンと振って喜んでいる。

 楽瑜と飛蓮も微笑を浮かべ、改めて握手を行った。

「二人とも仲直りしたんだね。涼周も、良かったな」

 ナイツとメスナもそこへ現れ、ナイツに至っては抱き付いてくる涼周を肩車する。

「にぃに、にぃにも! にぃにも握手、する!」

「俺もなのか? まぁ……構わないけど」

 涼周に請われたナイツはまず最初に楽瑜と向き合い、彼と普通に握手を交わす。

「楽瑜! 今、楽筋見せる!」

「おおおぅ!!」

 その瞬間だった。ナイツの目の前に居る楽瑜が筋肉を隆起させて服を破り、上半身裸となって鍛えられし肉体を前面に押し出す。
盛り上がった筋肉は瞬時に膨大な運動エネルギーを発生・昇華し、楽瑜の体から光の柱を天へと届け、天空に割れ目を作ってそこから無精髭を生やした筋肉ムキムキ且つ片手に酒瓶を持った天使を召喚。

「おいおいおい!? 何を召喚したの涼周!? 楽瑜も、手を離せ手を! ちょ……来てる来てる来てる!!」

 楽瑜からはガッチリと手を掴まれ、涼周からは頭を天使の方へと固定される。
これこそ涼周と楽瑜が水軍訓練中に密かに編み出し、特訓に特訓を重ねた妙技「愛裸捕誘アイラブユウ」である!
裸になることで愛の筋肉をさらけ出し、拘束した相手を愛の筋肉道へと誘うのだ!

「わっ……いや……やめ……! くさっ! 咖喱くさっ!?」

 咖喱臭い天使の洗礼が、全身で拒絶するナイツの目前まで迫る。

「ふ……ははははー(諦めた)」

 バスナが味わった地獄に比べれば、今の状況は薔薇とペンペン草ほどの違いがあるものの、これもまた地獄。
だがナイツは、自分から精神を狂わせる事で何とか死線を潜り抜ける事に成功する。

 その後、要らぬ加護を与えた天使は、えくぼの入った自慢の尻をフリフリとちらつかせながら天空へと帰り、ナイツはカイヨーに先だって解放された。

「んっ! にぃに、どう? 気持ち良かった?」

 笑顔満開・気分極上の涼周が尋ねた。
前屈みになってナイツの顔を覗き込み、股間周りを何時も以上に押し付けながら。

「…………暫くの間肩車禁止……」

 ナイツは首裏に感じる天国を密かに楽しみつつ、「本当の天使の感触はきっとこれだ。決して先程の様なゴツゴツとしたものではない」そう思ったという。



「沈丁花の月、最後の週。
あの御方は飛昭の案内のもと、ナイツ、メスナ、客将として参加したマヤケイと共にカイヨーに侵入。ナイト、楽瑜、稔寧、侶喧が国境で承土軍を引き付ける間に、飛蓮の救出に当たろうとした。
然し、飛昭の立てた陽動作戦は飛刀香神衆の裏切り者・殷撰によって見破られる。
一行は飛蓮の救出に成功するものの、殿を務めていた飛昭が自らの撤退の最中、トーチュー騎軍を監視する承土軍部隊に捕縛されてしまう。
飛昭は甘録の協力を得て身分を偽り、一命を取り留めた。
だが彼はこの後、長期間に亘ってあの御方の傍を離れる事となった」
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