116 / 140
第28章 半分崩れた赤茶色の石造りの円塔を探した
28-3 少女
しおりを挟む
眉の整った、美しい顔の子どもだった。似ているとまでは言えないにせよ、力強い瞳はムラティ王女と同じ血を感じさせる。
肌は日本でも色白で通りそうな明るい色で、血色がいいのか、それとも薄い痣なのか、左右の頬が赤みを帯びているのが、彼女をより子どもらしく、愛らしく見せていた。
僕もアディもマコーミック氏も、あどけない少女を前に気勢をそがれて、言葉も何も出なかった。
「あなたたちは、誰?」と少女は言った。
「わたしは、ラトゥ・ムダ・プトリ・グデ・ムラティ王女よ」王女の口調は優しかった。「この三人はお友だち」
「あなたがムラティ王女? わたし、アナック・アユ・ピピメラ公女」姫は嬉しそうに言った。「わたし、あなたのお姉さまになるのよ」
「でも今はまだ、わたしのほうがお姉さまよ。そうでしょ?」
「……うん」
「お兄様は――殿下は、あなたにお優しい?」
「殿下はご病気なの。それで、まだいちどしかお会いしたことがないの。でも今日、婚約式があるから会えるのよ」
「あら、知らなかった? 婚約式は明日になったのよ」と王女は言った。「今日は、お邸の中は式の準備でみんな忙しくて、怖いお顔をしてるから、どんなに騒がしくても、決してこの部屋から出てきちゃだめよ」
「……うん」
王女はベッドに上がり、ピピメラ姫の紅い頬をなでた。
「いい子ね。わたし、あなたにお姉さまになってもらうより、あなたのお姉さまでいたいわ」
「うん。わたし、どっちでもいいよ」とピピメラ姫はお菓子でも選ぶみたいに言った。「わたし、この国が好き。ここの人は、伯父さまみたいに怒鳴ったり、棒でぶったりしないもの」
王女はランプの森のような屋根裏を見上げて、ため息をついた。
「クンボカルノ王子のことね。あとでわたしからきつく言っておくわ」
「ありがとう。お姉さま」
「ねえ、ピピメラ公女、あなた、ファジャルさんっていうお姉さんを知ってる?」
「ファジャルは副王さまの娘よ。優しくて、きれいで、いい匂いがするわ。わたしに文字を教えてくれるの」
「ファジャルさんのお部屋はどこかしら? お姉さまは、ファジャルさんに大事なお話があるの」
「えーと、ひとつ、ふたつ……」ピピメラ姫はシーツから両手を出して、右手と左手を交互に見ながら指を折った。「このお部屋から、ななつ? やっつ? お隣。赤いとびらに、お日様の絵が描いてあるわ」
「夜明けの太陽ね。ありがとう、ピピメラ公女」王女は両腕で姫の肩を抱き寄せた。「きょう一日、絶対にこの部屋から出ちゃだめ。だれもこの部屋に入れちゃだめ。いいこと? お姉さまと約束して」
肌は日本でも色白で通りそうな明るい色で、血色がいいのか、それとも薄い痣なのか、左右の頬が赤みを帯びているのが、彼女をより子どもらしく、愛らしく見せていた。
僕もアディもマコーミック氏も、あどけない少女を前に気勢をそがれて、言葉も何も出なかった。
「あなたたちは、誰?」と少女は言った。
「わたしは、ラトゥ・ムダ・プトリ・グデ・ムラティ王女よ」王女の口調は優しかった。「この三人はお友だち」
「あなたがムラティ王女? わたし、アナック・アユ・ピピメラ公女」姫は嬉しそうに言った。「わたし、あなたのお姉さまになるのよ」
「でも今はまだ、わたしのほうがお姉さまよ。そうでしょ?」
「……うん」
「お兄様は――殿下は、あなたにお優しい?」
「殿下はご病気なの。それで、まだいちどしかお会いしたことがないの。でも今日、婚約式があるから会えるのよ」
「あら、知らなかった? 婚約式は明日になったのよ」と王女は言った。「今日は、お邸の中は式の準備でみんな忙しくて、怖いお顔をしてるから、どんなに騒がしくても、決してこの部屋から出てきちゃだめよ」
「……うん」
王女はベッドに上がり、ピピメラ姫の紅い頬をなでた。
「いい子ね。わたし、あなたにお姉さまになってもらうより、あなたのお姉さまでいたいわ」
「うん。わたし、どっちでもいいよ」とピピメラ姫はお菓子でも選ぶみたいに言った。「わたし、この国が好き。ここの人は、伯父さまみたいに怒鳴ったり、棒でぶったりしないもの」
王女はランプの森のような屋根裏を見上げて、ため息をついた。
「クンボカルノ王子のことね。あとでわたしからきつく言っておくわ」
「ありがとう。お姉さま」
「ねえ、ピピメラ公女、あなた、ファジャルさんっていうお姉さんを知ってる?」
「ファジャルは副王さまの娘よ。優しくて、きれいで、いい匂いがするわ。わたしに文字を教えてくれるの」
「ファジャルさんのお部屋はどこかしら? お姉さまは、ファジャルさんに大事なお話があるの」
「えーと、ひとつ、ふたつ……」ピピメラ姫はシーツから両手を出して、右手と左手を交互に見ながら指を折った。「このお部屋から、ななつ? やっつ? お隣。赤いとびらに、お日様の絵が描いてあるわ」
「夜明けの太陽ね。ありがとう、ピピメラ公女」王女は両腕で姫の肩を抱き寄せた。「きょう一日、絶対にこの部屋から出ちゃだめ。だれもこの部屋に入れちゃだめ。いいこと? お姉さまと約束して」
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
異世界で夢の人気者に!帰りたくないんですけど!
だましだまし
ファンタジー
アルバイトと同人イベントの売り上げで生活費を稼ぎ、実家で暮らすマヤ。
漫画家デビューを目指すけど雑誌の入賞すら引っかからないし、SNSのフォロワーは増えないし…最近就職しろって親の圧が強すぎるー!
そんな圧から逃げてコンビニに向かってたら穴に落っこちた!
え!?道路に穴!?顔を上げたらまさかの異世界!?
こんな人気者になったのに帰りたくないんですけどー!?
僻地に追放されたうつけ領主、鑑定スキルで最強武将と共に超大国を創る
瀬戸夏樹
ファンタジー
時は乱世。
ユーベル大公国領主フリードには4人の息子がいた。
長男アルベルトは武勇に優れ、次男イアンは学識豊か、3男ルドルフは才覚持ち。
4男ノアのみ何の取り柄もなく奇矯な行動ばかり起こす「うつけ」として名が通っていた。
3人の優秀な息子達はそれぞれその評判に見合う当たりギフトを授かるが、ノアはギフト判定においてもハズレギフト【鑑定士】を授かってしまう。
「このうつけが!」
そう言ってノアに失望した大公は、ノアを僻地へと追放する。
しかし、人々は知らない。
ノアがうつけではなく王の器であることを。
ノアには自身の戦闘能力は無くとも、鑑定スキルによって他者の才を見出し活かす力があったのである。
ノアは女騎士オフィーリアをはじめ、大公領で埋もれていた才や僻地に眠る才を掘り起こし富国強兵の道を歩む。
有能な武将達を率いる彼は、やがて大陸を席巻する超大国を創り出す。
なろう、カクヨムにも掲載中。
貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!
やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり
目覚めると20歳無職だった主人公。
転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。
”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。
これではまともな生活ができない。
――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう!
こうして彼の転生生活が幕を開けた。
はぁ?とりあえず寝てていい?
夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。
※第二章は全体的に説明回が多いです。
<<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>
女子力の高い僕は異世界でお菓子屋さんになりました
初昔 茶ノ介
ファンタジー
昔から低身長、童顔、お料理上手、家がお菓子屋さん、etc.と女子力満載の高校2年の冬樹 幸(ふゆき ゆき)は男子なのに周りからのヒロインのような扱いに日々悩んでいた。
ある日、学校の帰りに道に悩んでいるおばあさんを助けると、そのおばあさんはただのおばあさんではなく女神様だった。
冗談半分で言ったことを叶えると言い出し、目が覚めた先は見覚えのない森の中で…。
のんびり書いていきたいと思います。
よければ感想等お願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる