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第27章 ジャスミンのノート(その2)

27-3 深夜 布団の中で 目がさめた。

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 深夜 布団の中で 目がさめた。
 さめたのに 体が 動かない。
 全然。
 1ミリも。
 耳の奥で ひいいいぃぃん って聞こえる。
 貧血のときみたく 視界が 狭い。

 ああ あの感じだ。
 中 高のころはよく これがあった。
 金しばり っていうやつだ。

 目だけは動く。

 だから 動かせるところだけでも 動かして 何とか 金しばりを ほどこうとして 右を見たり 左見たり 必死でやるんだけど だめ。手も足も首も 動きそうなのに 動かない。

 人の影みたいなものが ぼんやりと 見えてくる。
 天井に ふわりと ただよってる。
 これも いつもと同じ。

 昔は こんなとき すごい 恐かった。

「お兄ちゃん! 来て! 助けて!」って 必死で さけぼうとしても 金しばりのときは 少しだけ 「んーっ」て 小さな声が のどから もれるだけだ。でも そうやって呼び続けてたら 必ず お兄ちゃんは 気づいてくれた。

 お兄ちゃんが わたしの肩を ゆり起こしてくれたら 金しばりは うそみたいに とけるのだ。

 そんな時 よく わたしは赤ちゃんみたいに お兄ちゃんの温かい胸に しがみついて 頭をなでてもらったりした。

 でもなぜだろう 布団の上で 汗だくの体を お兄ちゃんに 抱きしめてもらってるとき いつも うすうす分かってる当たり前の ことを いちばん強く 感じたのだ。
 いつかは お兄ちゃんと 離れなければならないと いうことを。

 でも今は 恐くない。
 天井でゆらゆらしてる その影が 何なのか 誰なのか わたしには分かったから。

 わたしは その影を 一生けん命 見つめて 声は出ないけど こころの中で うったえる。

 どこも行かないで。
 ここにいて。
 おねがい。

 でも 影は ゆらゆらして 近づいてきたり 天井に離れて行ったり しながら だんだん うすく なって行く。
 わたしは なんとか金しばりをほどいて お兄ちゃんに 「行かないで」って 言おうと思って 何度も深く 息をすって はいた。

 のどが ほどけて やっと声が出た。

「……お ……に ……いちゃ……。」

 そして こんな言葉が 胸からこみ上げて こぼれた。

「なんで……死んじゃった…の?」

 影は ふっと消えてしまった。

 なによりも わたしは 自分の言葉が ショックだった。

 自分がやっぱりもう お兄ちゃんは死んだと 本心では思ってるらしいことが 悲しくて 悔しくて 金しばりがとけても くたくたになった体で 横になったまま ぼう然と天井を見つめていた。

「行かないで。」って 言うつもりだったのに。
「大好きだよ。」って 言えばよかったのに。
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