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第26章 紅茶を入れよう。そこの敷物に座っててくれ

26-3 道理

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 要するに、大日本帝国は英国のマレー諸島支配にひそかに揺さぶりをかけようとしており、そのために天皇の密命を受けてクンバンムラティ王国に肩入れするのが僕の任務なのだろう、というのがマコーミック氏の推理だった。

 そもそも僕がこの島にいるのが不自然なことだから、困ったことに妙に辻褄つじつまが合っていて、否定するのは意外に難しかった。
 しかし、彼の話の端々から、僕とアディが王女を連れて逃亡したことがすでに敵方に知られているらしいことが分かったのは有益だった。

「僕はただ、いろいろ力になってくれたこの子たちのために、できるだけのことをしてやりたいだけです」
「しかし、彼女はムラティ王女だ。そうだろう?」
「異国のお方」と、王女が口を開いた。「コルミックさんとおっしゃいましたね」
 あの力強い瞳で真っすぐに見つめられ、マコーミック氏は虚を突かれたみたいにたじろいだ。
「……マコーミックです。ケネス・マコーミック」
「マコルミックさん、わたくしたちが、あなたに助けられたことも、今あなたの手の中にあることも、認めないわけにはいきません」
 王女はターバンをするすると解いた。長い髪が肩に流れた。
「この上は、道理を尽くしてお話する他ないでしょう。いかにもわたくしは、王妹ラトゥ・ムダ・プトリ・グデ・ムラティ王女です」
「姫様、こいつは異人フランキですよ。話すだけ無駄です」
「どうして? わたしたちのミナミも、未知の国から来た外国人よ」
 王女はアディを黙らせ、マコーミック氏に向き直った。
「失礼ながら、マコルミックさん、あなたのお国、英国イングリスは道に反しています。ひとつ。我が国との交渉に、隣国の力を利用したこと。ひとつ。我が兄である国王殿下ヤン・ムリア使者ドゥタを送るべきところを、陪臣ハンバにすぎない港務長官を手先に取り込んだこと。ひとつ。一方的に強大な武力を用い、無辜むこの民衆を殺傷したこと。ひとつ。いまだ七歳に過ぎぬピピメラ姫に、本人が望むはずもない結婚を強いたこと。これらのことは、お国の国王陛下の関知するところですか?」

 マコーミック氏は怒りはしなかった。恥じ入りもしなかった。ただ王女の毅然とした態度に胸を打たれているのが僕らにも分かった。

「彼らのしていることは、キリスト教徒として恥ずべきことです」
 マコーミック氏は静かな声で言った。
「ミナミ、君なら分かるだろうか。俺は、本当は英国人イングリスじゃないんだ。アイルランド人だ」
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