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第26章 紅茶を入れよう。そこの敷物に座っててくれ

26-2 推理

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 アディは黙ったままだった。
 マコーミック氏は次に王女を、しばらく興味深そうに見つめていたが、ひょっと眉毛を上げると、冗談めかして片膝を立て、西洋の宮廷風の礼をした。

「こいつは、ジャワから売られて来たみなし子で……」
 アディが力の無い声で話し始めたが、どう見ても彼自身、自分の言葉を信じているようではなかった。
「言葉はできないが……男の子で……」
「そんな座り方では、仮に本当に男の子でも、女の子にしか見えませんよ、お嬢さんノナ」と、マコーミック氏は楽しそうに言った。「もっと両膝を開くべきです。肘ももうちょっと外側に出さないと。ためらわずに」
 僕らは黙っていた。マコーミック氏は僕に向かって言った。
「それに、肌が滑らか過ぎる。汚してごまかすのはいいが、かえって不自然だ。身長の割に手も小さい。労働していない手だ。しかし指にタコができている。何かテニスのようなスポーツ――いや、この国にスポーツというものは無いから、剣術だろう」
「……シャーロック・ホームズのつもりか」
 僕がつぶやくと、マコーミック氏はぱっと目を輝かせた。
「驚いたな。日本人の君がアーサー・コナン・ドイルを知っているのか。現代最高の作家だよ。政治的には意見が合わないが……」
「で、何が言いたいんです」
「では核心を言おうか。このレディこそ、他でもない、クンボカルノ王子と副王ラジャ ムダ殿下――つまり以前の港務長官シャーバンダル、君の義理の父上だよ――が血眼になって探している、さらわれた花嫁、ムラティ王女その人だ」

 ごそごそと武器の準備を始めたらしいアディを目顔で制して、僕はつとめて平静に尋ねた。

「僕らはどうするべきですか、ミスター・マコーミック」
「こちらも核心を聞きたい」マコーミック氏は声をひそめて英語で言った。「なぜこんなところに日本人がいるのか、あの飯屋で君と会ってからずっと考えてた。どこからともなく現れて、港務長官邸に入り込むなんて何者だ? ってね。俺は一つの仮説を立てたんだが、今日、プリンセスのお供をしている君を見て確信に変わった」
 どうやらマコーミック氏は楽しくて仕方がないらしく、少年のように頬を輝かせ、人差し指を立てて言った。
「君は、皇帝ミカドの密命でここにいるんだろう?」
「ミカド?」

 明治天皇の白黒写真が頭に浮かんできて、僕は声を出して笑ってしまった。
 しかし彼は真剣だった。

「ミナミ、俺は一匹狼の冒険商人だ。軍人でもなければ植民地省の役人でもない。君の邪魔をするつもりはないんだ。ただ真実を知りたいだけだ」
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