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第25章 ジャスミンのノート(その1)
25-4 シンガポールでは 兄の夢を見たり 近くにいると感じたり
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シンガポールでは 兄の夢を見たり 近くにいると感じたり 見かけたと思ったことも あった。
たとえば 空港で。
たとえば 地下鉄で。
──────────────
空港ではゲートの待合室で ガラスの向こうをお兄ちゃんが通ったのを見たと 思った。
そう言ったら 由美子さんは悲しそうに
「ちがうわ 茉莉さん。今のは別の人よ。」
と言って 呼吸の乱れたわたしの 背中をさすってくれた。
──────────────
地下鉄では わたしは何も見なかった。
ただ 近くにお兄ちゃんがいる って 理由も無いのに思って
でもどうにもできなくて 由美子さんに もう何も言えなくて
ただじっと 暗いトンネルが流れていくのを
窓ガラスに 泣き疲れて やつれた わたしの顔が写ってるのを 見てるだけだった。
──────────────
わたしと兄は 趣味が合うとか 話が合うとかじゃない。
もし 兄妹じゃなかったら たぶん友達にも 恋人にも ならなかったと 思う。
(こんなことを言ったら お兄ちゃんは傷つくかもしれないけど。)
でも二十才すぎて 社会人になって 情けない 恥ずかしいけど わたしは兄がいないと だめだ。
わたし自身が だめだ。
夜の海に投げ出されたみたいに どこかに流されちゃいそうで 不安で さびしくて だめだ
お兄ちゃんに 捨てられることが この世でいちばん怖いみたいだ。
好きだから というのとは ちょっとちがう。
それは お兄ちゃんが わたしのお兄ちゃんだからだ。たったひとりの 最後のひとりだからだ。
(もちろん「お兄ちゃん大好き!」って思うしゅん間も 「死ぬほど うざい」ときもある。人の心だから 動く。)
──────────────
ほんとは 兄は ちょっと冷たい人だ。
わたしには すごい優しいけど それは わたしが妹だからだ。
お兄ちゃんにとっても わたしが たったひとりの 最後のひとりだからだ。
大人になって 分かった。
お兄ちゃんも 怖いのだ。
わたしを失うのが。
──────────────
だからわたしは お兄ちゃんが死んだなんて 受け入れるわけにいかない。
世界に わたしひとりだけでも 最後まで 信じてなきゃならない。
──────────────
7年間 お兄ちゃんは 自分独りの力で わたしの面倒を見ようと 一生剣命だった。
喜代子おばさんに頼るのを お兄ちゃんは すごく嫌がった。
だからわたしがナイショで ときどき電話して 相談したりしてたことは お兄ちゃんには言えない。
(父が死んだ時 おばさんが わたしを引き取ろうか って兄に提案したらしくて 兄はそのことをすごく怒っていた。)
──────────────
わたしに この年まで 彼氏がいないのは わたしのネガティブな性格のせいだと思う。
お兄ちゃんのせいとは 思ってない。
(容姿は きゃっ観的に言って地味だけど そんなにひどい顔ではないと思う。かわいいって 言われたことも ぜんぜん無いわけじゃない。諸説あります。)
けど 夜に男の子と遊んだりは 兄が心配するから(禁止とかは絶対に言わないんだけど 心配されると 罪悪感を感じてしまう。)しにくいっていうのは ある。
それに わたしを好きだっていう男の子と話しても 遊びに行っても
だれもみんな お兄ちゃんほどわたしのこと分かってないし 見てないし
わたしに興味も無いのに わたしの表面だけ見て 表面だけほしがって なのにわたしの内側まで 自分のものにしようとしてるみたいで
抱きしめられても キスされても つながらなくて 変な言い方だけど うらぎられたような 気がしてしまう。
わたしが そんなふうに感じているのを Tくんも 分かったのだろう。
「茉莉には まだ恋愛は無理なんだと思う。」
なんて言われて
傷ついて 号泣したけど わたしもTくんを 傷つけたのだと思う。
──────────────
家に帰って 兄と並んでテレビを見てる時 わたしは一番落ちつく。
そんなとき わたしも 兄も それ以上 何も求めていないから。
二人だけの家族は 閉じている。わたしもいつまでも 「お兄ちゃんの妹」のままじゃいけないのは 分かってた。
けど あの時間が どんなに大切なものだったかって 今は分かる。
たとえば 空港で。
たとえば 地下鉄で。
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空港ではゲートの待合室で ガラスの向こうをお兄ちゃんが通ったのを見たと 思った。
そう言ったら 由美子さんは悲しそうに
「ちがうわ 茉莉さん。今のは別の人よ。」
と言って 呼吸の乱れたわたしの 背中をさすってくれた。
──────────────
地下鉄では わたしは何も見なかった。
ただ 近くにお兄ちゃんがいる って 理由も無いのに思って
でもどうにもできなくて 由美子さんに もう何も言えなくて
ただじっと 暗いトンネルが流れていくのを
窓ガラスに 泣き疲れて やつれた わたしの顔が写ってるのを 見てるだけだった。
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わたしと兄は 趣味が合うとか 話が合うとかじゃない。
もし 兄妹じゃなかったら たぶん友達にも 恋人にも ならなかったと 思う。
(こんなことを言ったら お兄ちゃんは傷つくかもしれないけど。)
でも二十才すぎて 社会人になって 情けない 恥ずかしいけど わたしは兄がいないと だめだ。
わたし自身が だめだ。
夜の海に投げ出されたみたいに どこかに流されちゃいそうで 不安で さびしくて だめだ
お兄ちゃんに 捨てられることが この世でいちばん怖いみたいだ。
好きだから というのとは ちょっとちがう。
それは お兄ちゃんが わたしのお兄ちゃんだからだ。たったひとりの 最後のひとりだからだ。
(もちろん「お兄ちゃん大好き!」って思うしゅん間も 「死ぬほど うざい」ときもある。人の心だから 動く。)
──────────────
ほんとは 兄は ちょっと冷たい人だ。
わたしには すごい優しいけど それは わたしが妹だからだ。
お兄ちゃんにとっても わたしが たったひとりの 最後のひとりだからだ。
大人になって 分かった。
お兄ちゃんも 怖いのだ。
わたしを失うのが。
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だからわたしは お兄ちゃんが死んだなんて 受け入れるわけにいかない。
世界に わたしひとりだけでも 最後まで 信じてなきゃならない。
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7年間 お兄ちゃんは 自分独りの力で わたしの面倒を見ようと 一生剣命だった。
喜代子おばさんに頼るのを お兄ちゃんは すごく嫌がった。
だからわたしがナイショで ときどき電話して 相談したりしてたことは お兄ちゃんには言えない。
(父が死んだ時 おばさんが わたしを引き取ろうか って兄に提案したらしくて 兄はそのことをすごく怒っていた。)
──────────────
わたしに この年まで 彼氏がいないのは わたしのネガティブな性格のせいだと思う。
お兄ちゃんのせいとは 思ってない。
(容姿は きゃっ観的に言って地味だけど そんなにひどい顔ではないと思う。かわいいって 言われたことも ぜんぜん無いわけじゃない。諸説あります。)
けど 夜に男の子と遊んだりは 兄が心配するから(禁止とかは絶対に言わないんだけど 心配されると 罪悪感を感じてしまう。)しにくいっていうのは ある。
それに わたしを好きだっていう男の子と話しても 遊びに行っても
だれもみんな お兄ちゃんほどわたしのこと分かってないし 見てないし
わたしに興味も無いのに わたしの表面だけ見て 表面だけほしがって なのにわたしの内側まで 自分のものにしようとしてるみたいで
抱きしめられても キスされても つながらなくて 変な言い方だけど うらぎられたような 気がしてしまう。
わたしが そんなふうに感じているのを Tくんも 分かったのだろう。
「茉莉には まだ恋愛は無理なんだと思う。」
なんて言われて
傷ついて 号泣したけど わたしもTくんを 傷つけたのだと思う。
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家に帰って 兄と並んでテレビを見てる時 わたしは一番落ちつく。
そんなとき わたしも 兄も それ以上 何も求めていないから。
二人だけの家族は 閉じている。わたしもいつまでも 「お兄ちゃんの妹」のままじゃいけないのは 分かってた。
けど あの時間が どんなに大切なものだったかって 今は分かる。
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