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第25章 ジャスミンのノート(その1)

25-3 夢の記録

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(夢の記録)

 わたしは お仏壇に向かって お経を上げていた。

 ほんとは わたしはお経なんて読めない。でも 夢ではなぜか読んでいた。
 でもお経はだんだん おんなじ言葉の くり返しになって来る。

「とらやとらや とらや とらや。とらや。」

 とらや とらや とらやとらや。わたしが 自分で読んでるのに なんか 変な感じがして来る。とらやとらや とらや。とらやとらやとらや。なんだか気持ち悪い。嫌なことが起こりそうで とらや とらやとらや 悪い予感 だんだん怖くなって わたしはお経をやめてしまう。

 やめると しーんと 静かになった。

 お仏だんから 音がする。

 かたっ かたっ って 小さく お仏だんが震えている。

 耳を近づけて よく聞いてみる。

 かたっ かたっ。

 とん とん。

 そして 人の声……?

 隣の部屋から? お仏だんの中から?

 小さくて 遠い声。
 遠い。とても遠い。ほとんど聞こえない。
 けど なにか言ってる。
 わたしになにか 言ってる。

 わたしは お仏だんの中に頭を入れて アミダ様の絵に耳を近づけた

「……に……。…こ……。」

 やっぱり 声は この奥から聞こえる。

「ま…り…ちゃ…。」

 いま わたしの名前をよんだ?

 お兄ちゃんだ。
 お兄ちゃんの声が この向こうで わたしを「まりちゃん」って呼んだ。

「お兄ちゃん!」

 わたしは お仏だんの奥の板を バンバンとたたいた。

「お兄ちゃん! お兄ちゃん!」

 へんじが ない。
 お兄ちゃんを助けなきゃ。

 痛そうだけどグーの手で 奥の壁の板をこわしてしまおうと思ったとき さっきとぜんぜん 様子がちがうのに気がついた。

 アミダ様の絵が 五枚 十枚 じゃない もっと何十枚にも増えていた。重なり合って びっしりと すき間も無く 貼ってあって

 それが 全員 

 わたしをじっと見ていた。

   ──────────────

 わたしは 長い悲鳴を上げて ベッドから飛び起きた。

 由美子さんが わたしの部屋のチャイムを押して ドアをノックした。
「茉莉さん? 茉莉さん? だいじょうぶ? 茉莉さん?」
 
 わたしは、シンガポールの ホテルの部屋にいた。
 ベッドの横の時計を見ると 7:77分に見えた。
 びっくりしてよく見ると 1:11分だった。


  深夜
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