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第23章 キジャン、君にひとつお願いをしてもいいかな

23-4 帰京

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 夜明けとともに僕らはアディの実家を後にした。
 アディは王都への街道を西へ向かわず、夕べ来た道を引き返して内陸《ダラム》との境界の川に出た。その理由はすぐに分かった。

 川には、布製の雨覆いのついた小さな船が浮かび、見覚えのある五十過ぎの男が僕らに手を振り、合掌してお辞儀をした。
「これで三度目になりますかね、旦那」
 そして王女の姿に気づくと、船べりに膝をついて深々と頭を下げた。
「このようにみすぼらしい舟に神聖な姫様をお迎えできるとは、光栄の至りです」
「いいえ。素敵な舟だわ。どんな舟よりも速そう」
「もちろんです。姫様のような美人がお乗りになると、舟も喜んでいつにも増して速く走りますよ」
「余計な事言うな、おっさん」アディは船頭の肩を小突いた。「黙って舟を出せよ」

 王女を雨覆いの下に隠し、僕とアディは船の舳先《へさき》近くに乗った。朝日を背後に浴びながら、船が走り出す。流れは速い。

 この川が王都を経て港市までつながっていることは前に聞いたことがあった。王都から内陸を目指した時と逆に今度は下りだから、船を使えばかなり時間が短縮できる。

 王都まで川は森の中を流れており、人目に付くことはなかった。途中で漁師や商人の舟を何隻か追い越した。

 一度だけ、櫂《かい》を手にした十人ほどのドゥルハカ兵と黒人のイギリス水兵が乗った軍船が流れを遡って来るのとすれ違って緊張したが、彼らは前ばかり見て僕らに目もくれなかった。

 僕らの船は、昼過ぎに目的地に着いた。
 すっかり変わり果てた、王都に。
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