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第19章 太陽に照りつけられた灰色の荒野が遠くまで広がって

19-3 遺跡

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 王女の足には小さな火ぶくれがいくつか出来ていて、痛みはかなり強いようだったが、とりあえずそれより悪化しそうではなかった。

 いよいよ夕暮れが近づき、雨の気配も漂い始め、気が焦り始めたころに、僕らは雨露をしのげる場所を見つけた。
 それまでにもいくつか見かけていた石造りの古代遺跡だが、そこだけは崩れずに原形を保っていたのだ。

 何段にもなった基壇の上に立方体の建物が乗り、頂部は少し崩れているが、いくつもの仏塔ストゥーパが折り重なったような複雑な形をしている。
 そして全体に、花や幾何学模様など、王都コタラジャの家々と同じようなモチーフの浮き彫りが刻まれていた。
 古典期に築かれた神殿チャンディだろう。ジャワ島やバリ島で同じようなものを見たことがある。

 窓は無く、扉の無い入り口が一つあるだけだった。基壇の階段に王女を降ろし、アディと僕で入ってみた。

 ちょうど雲の切れ間から差してきた西日のおかげで、中は真っ暗ではなかった。建物全体の大きさからは考えられないほど狭い、八畳ほどの石室の中央には、人の背丈の二倍はある巨大な石像があった。

「アイヌウェル様だ」
 とつぶやいて、アディは石像に手を合わせて軽く一礼した。
「島の神様かい?」
「俺の村にも古い像があるんだが、年寄りでも名前くらいしか知らない。内陸ダラムの神だろうな」

 誰が手向けたのか、干からびた花が像の足元に置かれていた。
 上の方は暗くてよく見えなかったが、首飾りや腕輪や足首飾りをつけた、豊満というより肥満に近い裸形らぎょうの女神像で、左右合わせて六本の腕に果物や稲穂や水瓶らしいものを持っていた。

「悪いけど、一晩泊めてもらいますよ」とアディは神像に言った。

 真っ暗になってしまわないうちに、僕らは石室の入り口近くに座って干飯や干魚の食事を取った。
 王女の火傷を冷やすために水を使ってしまったから、残った水を三人で分けるとわずかしかなかった。

 雨が降り始めた。
 石室のいちばん奥、神像の背後の少し広いところに、あるだけの布を敷いて王女を休ませ、僕とアディは像の横で壁にもたれた。

 やがて石室は、純粋な暗闇と雨音に満たされた。
 僕は気持ちがたかぶって眠れなかった。
 恐怖があり、悔いがあった。痛みをこらえている王女のことを思った。

 雨の降る音に隠されて寝息も聞こえないが、もう二人とも眠ったのだろうと思ったころ、王女の声が石室に響いた。
「アディ、ミナミ、そこにいる?」
「はい」
「姫様、俺はここです」
「よかった。あなたたちがいるなら」と王女は言った。「わたし何も怖くないわ」

 それからは静かな雨だけが、皆が眠りにつくまで続いた。
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