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第14章 大きな帆を張った彼らのアラブ式帆船が、水鳥の群れのように

14-4 準備

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 広間に戻ると、僕を見るなりファジャルが飛びついてきて、息が苦しくなるほど抱きしめられた。
「どこへいらっしゃってたんですか。わたくし恐ろしい夢を見たのです。父上も、お姉様たちも、ミナミ様も、皆……。そして目覚めるとミナミ様がいらっしゃらなくて……」
 ファジャルは僕の頭を両手で掴んで、涙に濡れた唇を僕の唇にぶつけるように、何度も押し付けた。
 いくら何でもみんなが起きてくると困る。僕は彼女の肩を僕の体から引き離した。
「大丈夫。僕はいつまでもあなたと一緒です」

 ファジャルは両腕で僕の左腕にしがみついた格好のまま、姉たちや使用人たちが目覚め、鶏粥ブブルアヤムだけの朝食が配られても、ずっと離れなかった。

 昼前に港務長官が姿を見せ、娘たちと僕を集めて告げた。
「これから船に乗る。昼には出発するから準備をしなさい。片手で持てる以上のものは持って来るな。どうしても持っていきたいものがあるなら、今すぐ部屋から取ってきて、ただちにここに戻るように」

 姉たちは口々に悲鳴のような嘆きの言葉を叫びながら広間を飛び出していった。
 ファジャルは両手で僕の頬を包んだ。そして港務長官の指揮で使用人たちが忙しく動き始めるのを横目でうかがいながら、僕の唇にまた口づけしようとしていたけど、さすがに皆の目が気になるらしく、何度か試みた末にあきらめた。
 そして、僕の両頬を撫でながら言った。
「指輪を取って参ります。ミナミ様もそうなさって」

 ファジャルと別れて部屋に戻りながら、僕は考えた。持って行かなければならないものって何だろう。彼女に言われたエメラルドの指輪。王女から賜ったお香。そして日本から持って来た唯一のものであるワイシャツ。
 その他には何も思いつかなかった。

 部屋に入って後ろ手で扉を閉じ、エメラルドの指輪を入れた箱を開けようとしたとき、背後から声がした。

「よう、ミナミ、生きてたか」

 驚いて振り返ると、衛士の服で短剣を帯びた青年が、戸口の横の壁にもたれて、腕組みして立っていた。
 その顔を見て、僕は一瞬、今置かれている状況を忘れそうになった。
「アディ! 元気だったか。王都コタラジャに呼び戻されたんじゃなかったのか」
 彼の表情には、しかし、何か見慣れない奇妙な印象があった。眼差しには以前のような親しみが無く、構えたような、緊張したような色があった。
「静かに。邸の連中に気づかれる。話は後だ」アディはつかつかと歩み寄ってきて、僕の手首をつかんだ。「今すぐ、このまま俺と一緒に来い。王都に帰るぞ」
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