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第10章 何が起きたのか、その瞬間にはたぶん誰もわからなかった

10-2 処分

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 港務長官の部屋に入ると、窓際の長椅子に、四人姉妹が並んで座っていた。
 おそろいの薄紅色の巻衣をつけ、銀の花を髪に飾り、膝の上に一枚の大きな布を広げて、皆で刺繍をしているところらしかった。
 僕に気づくと、ファジャルがはっとしたように僕の顔を見上げ、泣きそうな顔になった。
 服も化粧も顔もそっくりで区別がつかないと思っていた四人だが、いちばん右のその娘がファジャルだと、瞬時に見分けがついた自分に僕は少し驚いた。

「お前たち、席を外しなさい」と、テーブルの向こうから港務長官が命じた。「ファジャルもだ。私はミナミ君と二人で話をしたい」

 三人の姉たちに促されて、ファジャルも一緒に部屋を出ていった。
 僕は大きなテーブルの前に、港務長官と向い合せに座った。港務長官は、フィリピンの正装に似た白いシャツクメジャ姿で、痩せた顔には心なしか疲労の色が見えた。

港市バンダルの治安を預かるものとして、私はまず君に謝罪せねばなるまい。二人の賊は既に衛士が捕縛ほばくした。君は彼らの死罪を望むかね?」
「いいえ」

 そう尋ねるということは、生きているのだろう。侍女が二人を殺してしまったのではないかと思っていたので少しほっとした。

「もっと早く注意を促しておくべきだった。君は珍しい国の人間だし、川での一件でちょっとした有名人だ。君を憎む者も、利用価値があると考える者も少なくない」
「この僕にどんな利用価値があるんです」
「考えることはそれぞれに違うだろう。とにかく、気をつけたまえ。案内人を振り払ったりされては、君の安全に責任を持つことは難しくなる」
 僕は頭を下げた。
「ご迷惑をおかけしました」
「アディには王都に帰ってもらうよ。王室の命をたがえ、客人の君をあえて危険にさらしたのだ。その罪は殿下ヤン・ムリアがお裁きになる」
「しかしあれは、僕のために……」
「なに、彼は王室の、ことに王女の覚えがめでたい」と言って港務長官は苦笑した。「厳罰に処せられることはなかろう」
「それならいいのですが」
「それより、君の帰国についてだが」港務長官はテーブルの上に少し身を乗り出した。「残念だが、今すぐにというのは少し難しい」

 それが残念なことなのかどうか、僕にはもうよく分からなくなっていた。
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