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第9章 いくら歩き回っても同じような場所に出てきてしまい

9-4 刃先

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「ミナミ、下がれ。人間はワニより危ないぞ」
「どういうことだ。あいつらは何なんだ?」
「たぶん、狙いはあんただよ」
 言うが早いか、だっと土を蹴ってアディは前に飛び出した。

 僕は訳もわからないまま、突っ立って眺めているだけだった。
 アディが斜めに短剣を振り下ろすと、背の低い男はいったん飛び退き、短剣を構えてアディめがけてジャンプした。アディは剣を返してその切っ先を払いのけ、同時に相手の腹に蹴りを入れる。
 呆然と見ているうちに、僕は背の高い方の男の姿がいつの間にか消えているのに気づいた。
 アディに警告しなければ、と思いながらタイミングがつかめずにいるうちに、僕とアディの真ん中あたりで古家の板戸が開いた。
「アディ、後ろだ、後ろ!」
 僕は叫んだが、中から現れた長身の男はアディには向かわず、短剣をぎらつかせながら僕の方へ足早に歩いてきた。口元を隠し、表情のない目でまっすぐに僕の顔を見ている。

「わっ」

 茉莉に会うまでは、僕は死ねない。あの子を思いっきり抱きしめて頭を撫でてやるまでは、僕は死ぬわけにはいかないのだ。しかし逃げようにも足が動かず、僕は何か投げつけるものを探してきょろきょろするばかりだった。

 でもたぶんそれは数秒間だったのだろう。アディは小男の顎に回し蹴りを入れると、身を翻して走り出し、背後から長身の男に斬りかかった。男は身を屈めてそれを避け、後ろ蹴りでアディの足元を払った。
 バランスを崩して仕舞屋しもたやの板戸に身体を打ち付けられたアディは、すぐさま体勢を立て直し、男が振り下ろした刃を短剣で振り払おうとした。
 耳をつんざくような金属音がして、なにか鋭いものが風車のようにくるくる回りながら宙に舞った。

 何が起こった?

 目を凝らすと、アディの短剣の先端、三分の一くらいが折れて無くなっていた。一瞬たじろいだところに足払いをかけられたアディは、板戸に背中をもたせてようやく身体を支えた。長身の男はアディの胸に剣先を向けて狙いを定めた。小柄な男も追いついてくる。

 ああ、これはもうだめだ、と僕は思った。
 アディは殺される。彼が誰よりも崇拝し、愛するムラティ王女にひと目会うこともできないまま、赤の他人の、外国人の僕を守ろうとしたために。
 僕は思わず目をつぶった。

 その時、僕の頭上で、能楽師が舞台を踏み鳴らすような、だん! という大きな音が響いた。
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