36 / 140
第9章 いくら歩き回っても同じような場所に出てきてしまい
9-4 刃先
しおりを挟む
「ミナミ、下がれ。人間はワニより危ないぞ」
「どういうことだ。あいつらは何なんだ?」
「たぶん、狙いはあんただよ」
言うが早いか、だっと土を蹴ってアディは前に飛び出した。
僕は訳もわからないまま、突っ立って眺めているだけだった。
アディが斜めに短剣を振り下ろすと、背の低い男はいったん飛び退き、短剣を構えてアディめがけてジャンプした。アディは剣を返してその切っ先を払いのけ、同時に相手の腹に蹴りを入れる。
呆然と見ているうちに、僕は背の高い方の男の姿がいつの間にか消えているのに気づいた。
アディに警告しなければ、と思いながらタイミングがつかめずにいるうちに、僕とアディの真ん中あたりで古家の板戸が開いた。
「アディ、後ろだ、後ろ!」
僕は叫んだが、中から現れた長身の男はアディには向かわず、短剣をぎらつかせながら僕の方へ足早に歩いてきた。口元を隠し、表情のない目でまっすぐに僕の顔を見ている。
「わっ」
茉莉に会うまでは、僕は死ねない。あの子を思いっきり抱きしめて頭を撫でてやるまでは、僕は死ぬわけにはいかないのだ。しかし逃げようにも足が動かず、僕は何か投げつけるものを探してきょろきょろするばかりだった。
でもたぶんそれは数秒間だったのだろう。アディは小男の顎に回し蹴りを入れると、身を翻して走り出し、背後から長身の男に斬りかかった。男は身を屈めてそれを避け、後ろ蹴りでアディの足元を払った。
バランスを崩して仕舞屋の板戸に身体を打ち付けられたアディは、すぐさま体勢を立て直し、男が振り下ろした刃を短剣で振り払おうとした。
耳をつんざくような金属音がして、なにか鋭いものが風車のようにくるくる回りながら宙に舞った。
何が起こった?
目を凝らすと、アディの短剣の先端、三分の一くらいが折れて無くなっていた。一瞬たじろいだところに足払いをかけられたアディは、板戸に背中をもたせてようやく身体を支えた。長身の男はアディの胸に剣先を向けて狙いを定めた。小柄な男も追いついてくる。
ああ、これはもうだめだ、と僕は思った。
アディは殺される。彼が誰よりも崇拝し、愛するムラティ王女にひと目会うこともできないまま、赤の他人の、外国人の僕を守ろうとしたために。
僕は思わず目をつぶった。
その時、僕の頭上で、能楽師が舞台を踏み鳴らすような、だん! という大きな音が響いた。
「どういうことだ。あいつらは何なんだ?」
「たぶん、狙いはあんただよ」
言うが早いか、だっと土を蹴ってアディは前に飛び出した。
僕は訳もわからないまま、突っ立って眺めているだけだった。
アディが斜めに短剣を振り下ろすと、背の低い男はいったん飛び退き、短剣を構えてアディめがけてジャンプした。アディは剣を返してその切っ先を払いのけ、同時に相手の腹に蹴りを入れる。
呆然と見ているうちに、僕は背の高い方の男の姿がいつの間にか消えているのに気づいた。
アディに警告しなければ、と思いながらタイミングがつかめずにいるうちに、僕とアディの真ん中あたりで古家の板戸が開いた。
「アディ、後ろだ、後ろ!」
僕は叫んだが、中から現れた長身の男はアディには向かわず、短剣をぎらつかせながら僕の方へ足早に歩いてきた。口元を隠し、表情のない目でまっすぐに僕の顔を見ている。
「わっ」
茉莉に会うまでは、僕は死ねない。あの子を思いっきり抱きしめて頭を撫でてやるまでは、僕は死ぬわけにはいかないのだ。しかし逃げようにも足が動かず、僕は何か投げつけるものを探してきょろきょろするばかりだった。
でもたぶんそれは数秒間だったのだろう。アディは小男の顎に回し蹴りを入れると、身を翻して走り出し、背後から長身の男に斬りかかった。男は身を屈めてそれを避け、後ろ蹴りでアディの足元を払った。
バランスを崩して仕舞屋の板戸に身体を打ち付けられたアディは、すぐさま体勢を立て直し、男が振り下ろした刃を短剣で振り払おうとした。
耳をつんざくような金属音がして、なにか鋭いものが風車のようにくるくる回りながら宙に舞った。
何が起こった?
目を凝らすと、アディの短剣の先端、三分の一くらいが折れて無くなっていた。一瞬たじろいだところに足払いをかけられたアディは、板戸に背中をもたせてようやく身体を支えた。長身の男はアディの胸に剣先を向けて狙いを定めた。小柄な男も追いついてくる。
ああ、これはもうだめだ、と僕は思った。
アディは殺される。彼が誰よりも崇拝し、愛するムラティ王女にひと目会うこともできないまま、赤の他人の、外国人の僕を守ろうとしたために。
僕は思わず目をつぶった。
その時、僕の頭上で、能楽師が舞台を踏み鳴らすような、だん! という大きな音が響いた。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚
咲良喜玖
ファンタジー
アーリア戦記から抜粋。
帝国歴515年。サナリア歴3年。
新国家サナリア王国は、超大国ガルナズン帝国の使者からの宣告により、国家存亡の危機に陥る。
アーリア大陸を二分している超大国との戦いは、全滅覚悟の死の戦争である。
だからこそ、サナリア王アハトは、帝国に従属することを決めるのだが。
当然それだけで交渉が終わるわけがなく、従属した証を示せとの命令が下された。
命令の中身。
それは、二人の王子の内のどちらかを選べとの事だった。
出来たばかりの国を守るために、サナリア王が判断した人物。
それが第一王子である【フュン・メイダルフィア】だった。
フュンは弟に比べて能力が低く、武芸や勉学が出来ない。
彼の良さをあげるとしたら、ただ人に優しいだけ。
そんな人物では、国を背負うことが出来ないだろうと、彼は帝国の人質となってしまったのだ。
しかし、この人質がきっかけとなり、長らく続いているアーリア大陸の戦乱の歴史が変わっていく。
西のイーナミア王国。東のガルナズン帝国。
アーリア大陸の歴史を支える二つの巨大国家を揺るがす英雄が誕生することになるのだ。
偉大なる人質。フュンの物語が今始まる。
他サイトにも書いています。
こちらでは、出来るだけシンプルにしていますので、章分けも簡易にして、解説をしているあとがきもありません。
小説だけを読める形にしています。
私は問題軍師のその先を知っている
チヨカ
恋愛
母の病気の祈願で神社に訪れた結花は意識がとうのき、気がつくと見知らぬ姿で見知らぬ祠の前にいた!?
状況に混乱しつつ町を歩いていると声と共に記憶が少しづつ流れてきた。結花の今の体は先祖のひとりと同調してしまてっていて、これってまさかの異世界ならぬ今どき幕末にタイムリープだった!
とにかくひたすら団子屋で働きながら家族と平穏暮らしたい...
でもそこには高杉や坂本などといった攘夷志士オマケに沖田など新撰組がやって来るお店でもうこれはこれで傍観者になろうと思うがそんなことはお構い無しに絡んできて...!?
結花の波乱の日々の幕開けだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる