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第7章 川を下る船団は大小三十隻以上に及び

7-2 船旅

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「快適な船旅じゃないか、アディ。王女には申し訳ないけど、虎の出る森を歩いて神殿を探すよりいい」
「ダラムに虎はいないよ」とアディが言った。「ヤマネコぐらいならいるが」
「そうなのか?」
「あんたには言っとくよ。俺は、前国王ご夫妻が姫様に何をおっしゃるかと思うと心配なんだ。それ以上は言わない。意味は分かるよな?」

 港務長官が言っていた暗殺の話を僕は思い出した。もし王女が、たとえ幻聴であっても、両親の口から暗殺やその犯人について聞かされたとしたら?
 何が起こるかは目に見えている。

 僕は船底に寝そべって、笠を顔にかぶった。波の音、オールが水を切る音、眠たい打楽器楽ガムランの音、それに合っているような合っていないような船頭の歌。
 船団はゆっくりと進んで行く。

 昼下がりの船上でうとうとし始めたとき、何人かの女性がきゃあきゃあとふざけ合うような声が聞こえて、僕は体を起こした。
 アディが顎先あごさきで示したのは、僕らの船の右前方をゆく、貴婦人たちの屋形船だった。
 金色の草花模様が描かれた若草色の船の、窓を覆っていた薄布の幕が開けられて、四人の若い女性が船べりに腰掛けたり、体を乗り出したりしてふざけ合っている姿が見えた。互いに見分けがつかないほどよく似た四人の、どことなくアラブ風の容貌を見て、港務長官邸で給仕をしてくれた女性たちだと分かった。

「港務長官殿の娘たちだ」とアディが言った。「やしきで会わなかったか?」
「娘だったのか」
「長女から順にスンジャ、ブラン、ビンタン、ファジャル」

 みんな同じように薄紅色の巻衣サルンを着け、ベールのような薄布を肩に掛けた娘たちは、顔も体つきもそっくりで、結い上げた髪の形や髪飾りのデザインくらいしか違いが見えない。誰がスンジャで誰がファジャルやら、僕には判別できなかった。

「なんだ、興味があるのか?」
 アディの問いに、僕は首を振った。
 確かにその四姉妹が戯れる様子や声には何かしら心に引っかかるものがある。しかしそこには僕にとって快というよりは不快に近い感覚があった。

「おーい、あんたら。お嬢さん方!」と僕らの船の船頭が叫んだ。「危ねえから中で大人しくしてろや。この先に早瀬があんぞ!」

 しかし娘たちはそれを聞いてもきゃらきゃらと笑うばかりで態度を改めなかった。
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