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第4章 何がこの島をこんな奇妙な場所にしているのか
4-3 西方
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ひと通り食べ終えると、空いた皿や籠、バナナの葉などを女たちに下げさせ、テーブルの上はいったん片付いた。
何が目的なのか、港務長官は満足げだった。
「君には聞きたいことも教えてやりたいこともまだまだあるんだが、それは港市でまた話そう。この王都では私はよそ者だからね。誰の耳があるかも分からん。かたじけなくも殿下は私に信を置いてくださっているが、道理の分からぬ連中もいる。私も君と同じ外国人だからな」
「この島の方ではないと聞きました」
「隣のカカトゥア島の出身だ。それに、こう見えても私の血は西方なのだよ。曽祖父はメスィルの人間でね」
一瞬、「メスィル」という単語が分からなくて聞き流しそうになったが、何か強いひっかかりを感じて、口の中で「メスィル」「メスィル」と唱えてみた。
辞書が無いのがもどかしかった。メスィル。その言葉は確かに記憶にあったのだ。
メスィル……。メスィル?
ふと、給仕の女たちの一人の、古代の壁画みたいに濃いアイシャドウを入れた顔が視界の隅に見えたのをきっかけに、記憶がつながった。
Mesir.
そうだ、エジプトだ。
エジプトのことをそう言ったはずだ。
「エジプト、という名の国があるのですね、この世界には」
「非常に遠い国だ。君は知るまい。私も見たことは無いがね」
僕も見たことはないけど、知っている。エジプトという国はこの世に一つしかないはずだ。ピラミッドがあり、カイロやアレキサンドリアがあり、クレオパトラやナセル大統領がいた、あのエジプトだ。
「……世界には、他にどのような国があるのでしょうか」
「世界は広大だ。いかに港務長官とは言え、私とてこの世のすべての国は知らんよ。エジプト、トルコ、中国、シャム……。そして、君によると日本という国もあるのだな」
「はい……」
すべて、実在の国々だ。
それらの国々が、この同じ大地の上に存在するのだとしたら。
ここは異世界でもなければ、別の惑星でもないということになる。
とにかくこの島を出て、たとえば中国なりシンガポールなりにたどり着けさえすれば、日本に帰れるのだ。
それは、僕の知っている日本なのだろうか?
そこに、茉莉はいるんだろうか?
わからない。それでも少し希望が見えた気がした。
何が目的なのか、港務長官は満足げだった。
「君には聞きたいことも教えてやりたいこともまだまだあるんだが、それは港市でまた話そう。この王都では私はよそ者だからね。誰の耳があるかも分からん。かたじけなくも殿下は私に信を置いてくださっているが、道理の分からぬ連中もいる。私も君と同じ外国人だからな」
「この島の方ではないと聞きました」
「隣のカカトゥア島の出身だ。それに、こう見えても私の血は西方なのだよ。曽祖父はメスィルの人間でね」
一瞬、「メスィル」という単語が分からなくて聞き流しそうになったが、何か強いひっかかりを感じて、口の中で「メスィル」「メスィル」と唱えてみた。
辞書が無いのがもどかしかった。メスィル。その言葉は確かに記憶にあったのだ。
メスィル……。メスィル?
ふと、給仕の女たちの一人の、古代の壁画みたいに濃いアイシャドウを入れた顔が視界の隅に見えたのをきっかけに、記憶がつながった。
Mesir.
そうだ、エジプトだ。
エジプトのことをそう言ったはずだ。
「エジプト、という名の国があるのですね、この世界には」
「非常に遠い国だ。君は知るまい。私も見たことは無いがね」
僕も見たことはないけど、知っている。エジプトという国はこの世に一つしかないはずだ。ピラミッドがあり、カイロやアレキサンドリアがあり、クレオパトラやナセル大統領がいた、あのエジプトだ。
「……世界には、他にどのような国があるのでしょうか」
「世界は広大だ。いかに港務長官とは言え、私とてこの世のすべての国は知らんよ。エジプト、トルコ、中国、シャム……。そして、君によると日本という国もあるのだな」
「はい……」
すべて、実在の国々だ。
それらの国々が、この同じ大地の上に存在するのだとしたら。
ここは異世界でもなければ、別の惑星でもないということになる。
とにかくこの島を出て、たとえば中国なりシンガポールなりにたどり着けさえすれば、日本に帰れるのだ。
それは、僕の知っている日本なのだろうか?
そこに、茉莉はいるんだろうか?
わからない。それでも少し希望が見えた気がした。
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