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第5章 見知らぬ大人たちの間を歩く子どもたちのように

5-4 儀式  

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 目覚めた僕は王宮の別棟にあてがわれた自分の部屋にいて、竹のベッドに全身汗みずくで横たわっていた。現実に――この国が本当に現実だとすればの話だが――戻ったはずなのに、まだお香の匂いがうっすらと漂っていた。

 日の出前の、まだ薄暗い時間だった。匂いは微風に運ばれて窓から入ってきているようだった。竹のすだれを少し上げて外を見てみると、王宮の中庭に数人の影があった。
 庭の中央にある大きな榕樹ブリンギンの古木の下に、王宮の女官らしい女性が二人立ち、ひとりが水瓶を、ひとりが花を盛った籠を捧げるように持っていた。
 そしてその二人の間で、小柄な白っぽい影が木の根元に向かってひざまずき、何か儀式を執り行っているようだった。白い香煙はそこから立ち昇っていた。

 あのお香の匂いのせいで、あんな夢を見たのだ。

 緯度の低い土地では太陽は垂直に昇ってくる。空にはたちまちのうちに赤い光が広がり、鳥たちが一斉に奇妙な声を上げ、樹冠や屋根にほのかな光が差し始める。
 小柄な人物が立ち上がり、二人の女官が深く礼をした。
 女官たちの体によって半ば隠された後ろ姿だけでも、その人物がムラティ王女であることが分かった。下ろした髪が意外に長く、細長く真っ直ぐな身体が白く見えた。

 僕はすだれを下ろし、ベッドに戻って、シーツ代わりの布をかぶった。
 ただの儀式だ、と思いつつ、何か見てはいけないものを見た気がしていた。
 まだお香の匂いがする。王女の髪は濡れているように光っていた。
 あの白い身体は、もしかすると何も身につけていなかったのかもしれない。
 そんな冒涜ぼうとく的な考えが浮かび、あわてて打ち消した。
 お香の匂いとあの夢のせいで、意識に変調を起こしているに違いなかった。
 僕は固く目を閉じて再び眠りに沈み、今度は夢も見なかった。

   ◇

 王女が部屋を訪ねてきたのは昼前のことだった。
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