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第Be章:幻の古代超科学文明都市アトランティスの都は何故滅びたのか
荷物持ちと勇者/1:魔法は思い込みの力らしいので、30歳童貞魔法使い説もあながちバカにできない
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考えるよりも先に体が動いた。はがねの剣を引き抜き、ヒロゾに斬りかかるリク。ヒロゾがカイの鎧の隙間に突き立てていた長ドスを引き抜きこれを迎え撃つ。2度3度と打ち合ったタイミングで、リクも違和感を覚えた。その虹色の刀身は何かがおかしい。砕けても再生するという物理的な効果のみならず、なにか「普通ではない」という漠然とした思いを抱かせる。やはり、オカルトな何かであるようだ。マイクロブラックホールを展開しているとか虚数空間を展開しているとかも十分オカルトなのだが、まだ説明されてそういうものなのかとは思えた。しかし、本物のオカルトはそもそも意味不明で理解不能なもの。今この瞬間の息苦しさは説明のしようがなかった。
一方のヒロゾの側からすれば状況が変わっている。反射的に打ち合ってこそいるが、バカ正直にこれに付き合う必要はない。ちらりと背後からの斜線を確認し、自分の位置を整えていく。リクにこれに付き合ってしまい背中の向きを変えたタイミングで、リクの頬の数cm横を弩弓の矢が通り過ぎた。思わずぞっとするリク。狙撃された。今当たらなかったのは偶然でしかない。相手の弩弓にスナイパースコープがついておらず、射手が那須与一ではなかっただけのことだ。カイのような鎧兜がなければ、この直撃に耐える術はなく、また、ヒロゾとの戦闘に意識を回しつつこれを回避する術もない。できることはすぐにヒロゾを倒してこの場から逃げることだけなのだが、ヒロゾはその奇妙な武器のみの男ではなく、相応に強敵である。その上自分と同じ異世界転生者であるため、まだ確認していない何かしらのチートを隠している可能性まで考えると、この状況はかなり厳しいと言わざるをえない。
できることはせいぜい矢が当たらないように祈ること。そう割り切って打ち合いを続ける中で、ヒロゾが小さくため息をつき、向こうから距離を取った。それはありがたいことなのだが、何が起きた。ある程度の距離を確認してリクが振り向いた時、ビルの屋上から人が落ちてきた。同時に何本もの光の矢、弩弓のそれとは明らかに趣が異なるビームが伸び、取り巻きの暴徒に程よい熱傷を与えていった。
「来たか、米帝!」
「生まれも育ちも東京目黒のはずなんだけどなぁ。でも、あなたから言われてしまうと確かに米帝と呼ばれてしまうんだろうね。まさかとは思っていたけど、やっぱり広島のヤクザの人だったんだ」
「シズク! イルマ!」
ヒーローの役立たずは遅れてやってきた。役立たずの方もいつもの軽口が言える程度には回復しているようでほっと胸をなでおろす。
そんな会話の間もイルマは魔法を放ち続けるが、これがヒロゾには当たらない。速射性の高い光のビームなど回避できるはずがないので、単純に考えればイルマが那須与一ではないだけの話に思うが、どうも様子が異なる。
「シズクさん、魔法が曲がります」
「光が曲がるとか物理法則もあったものじゃないね。どういうことだと予測する?」
「おそらく、あの人はそれが当然だと思っています」
「どういうこと?」
ヒロゾは高笑いして叫ぶ。
「米帝の弾がわしに当たるものかよ。わしには𪮷抬𪮷𪮇の札がある!」
サムハラ。これは意味を持たない奇妙な漢字である。札というからには神道における神の一柱なのだが、この神は由緒ある古典には登場しない。はじめてこの名が登場するのは江戸時代のことで、その時点で既にこの漢字には特に意味がなかった。曰く、どうも矢が当たらないキジがおり、どうにか捕まえてみたところこの四文字の漢字がその尾羽根に記されていたというエピソードだ。とにかく意味はわからないのだが、何故か矢避けの効果があるらしい四文字の漢字、𪮷抬𪮷𪮇。これを明治の時代に商売に使えると考えた男がいた。この不思議な漢字には力がある、サムハラ神を信仰することは万益あって一害なし。この札を持てば弓の矢も鉄砲の弾も当たらない。そう公言して日清戦争、日露戦争と多くの兵士の間で流行し、続く太平洋戦争にもおいても一部の兵士がそれを信じて持ち合わせていたという。
しかし、本当にそんな効果があるのかと言われればもちろん否である。単なる気休めにしかならない。確かに戦争から無傷で帰ってきたものは皆サムハラの札を持っていたのだが、弾があたって死んだ者はそもそも帰ってこれていない。よくある生存者バイアスである。だが、この異世界において、サムハラの札は確実に魔法避けの効果があった。
「魔法とは、思い込みです。私があの方に当てられると思っていても、あの方の当たるわけがないという思いの方が強ければ当たりませんし、魔法も曲げられます」
「昔リク君からゲームの魔法に対する防御力は信仰心で伸ばせるって聞いてバカにしたんだけど、あれは間違ってなかったんだ」
やはり、意外とゲームのご都合主義って意味があるらしい。もう少しそういうゲームもやっておくべきだった。シズクが知っている魔法は、せいぜい炎の矢とか水の龍とかその程度である。
「本当に、信仰心を持ったバカほどどうしようもない。陛下に血が繋がる天照大神の加護とかいうけど、そもそもこの太陽系における天照大神は手洗いから生まれたストリップ好きの変態でしかない。別の星系だとほんとに化け物なんだけど。そんな神様を信じて戦えばたとえ死んだとしても英霊になれる。そう信じてバカボムをした人を蔑む気はないけど、その人達が私達の時代の日本を作ったわけではない。ただの無駄死にだよ」
「英霊達を、勇気ある若者を愚弄するか!」
「蔑まないとは言った。ただ、拝みもしない。どうでもいい。だから、そうやって英霊とか言う言葉で神聖視するあなたのことは蔑むね。本当に国のため、未来のためを思うならば、生き恥を晒して死ぬまで働くべき。死ぬことを選んだ時点でその結果がどうあれ愚かな判断をしたと言わざるをえない。そういう鉄砲玉的思想をね、バカの考えることって言うんだよ」
「貴様ぁ!」
「バカだよ。実際バカ。私は何の力も持たないタダ飯食いなのに、その私がリク君以上の時間稼ぎができた。もういいよ。後ろ見てごらん」
そういって後ろを振り向いた時、そこには治癒魔法処理を終えたリンネと彼女を守るレーヌ、そして、立ち上がった勇者が居た。
一方のヒロゾの側からすれば状況が変わっている。反射的に打ち合ってこそいるが、バカ正直にこれに付き合う必要はない。ちらりと背後からの斜線を確認し、自分の位置を整えていく。リクにこれに付き合ってしまい背中の向きを変えたタイミングで、リクの頬の数cm横を弩弓の矢が通り過ぎた。思わずぞっとするリク。狙撃された。今当たらなかったのは偶然でしかない。相手の弩弓にスナイパースコープがついておらず、射手が那須与一ではなかっただけのことだ。カイのような鎧兜がなければ、この直撃に耐える術はなく、また、ヒロゾとの戦闘に意識を回しつつこれを回避する術もない。できることはすぐにヒロゾを倒してこの場から逃げることだけなのだが、ヒロゾはその奇妙な武器のみの男ではなく、相応に強敵である。その上自分と同じ異世界転生者であるため、まだ確認していない何かしらのチートを隠している可能性まで考えると、この状況はかなり厳しいと言わざるをえない。
できることはせいぜい矢が当たらないように祈ること。そう割り切って打ち合いを続ける中で、ヒロゾが小さくため息をつき、向こうから距離を取った。それはありがたいことなのだが、何が起きた。ある程度の距離を確認してリクが振り向いた時、ビルの屋上から人が落ちてきた。同時に何本もの光の矢、弩弓のそれとは明らかに趣が異なるビームが伸び、取り巻きの暴徒に程よい熱傷を与えていった。
「来たか、米帝!」
「生まれも育ちも東京目黒のはずなんだけどなぁ。でも、あなたから言われてしまうと確かに米帝と呼ばれてしまうんだろうね。まさかとは思っていたけど、やっぱり広島のヤクザの人だったんだ」
「シズク! イルマ!」
ヒーローの役立たずは遅れてやってきた。役立たずの方もいつもの軽口が言える程度には回復しているようでほっと胸をなでおろす。
そんな会話の間もイルマは魔法を放ち続けるが、これがヒロゾには当たらない。速射性の高い光のビームなど回避できるはずがないので、単純に考えればイルマが那須与一ではないだけの話に思うが、どうも様子が異なる。
「シズクさん、魔法が曲がります」
「光が曲がるとか物理法則もあったものじゃないね。どういうことだと予測する?」
「おそらく、あの人はそれが当然だと思っています」
「どういうこと?」
ヒロゾは高笑いして叫ぶ。
「米帝の弾がわしに当たるものかよ。わしには𪮷抬𪮷𪮇の札がある!」
サムハラ。これは意味を持たない奇妙な漢字である。札というからには神道における神の一柱なのだが、この神は由緒ある古典には登場しない。はじめてこの名が登場するのは江戸時代のことで、その時点で既にこの漢字には特に意味がなかった。曰く、どうも矢が当たらないキジがおり、どうにか捕まえてみたところこの四文字の漢字がその尾羽根に記されていたというエピソードだ。とにかく意味はわからないのだが、何故か矢避けの効果があるらしい四文字の漢字、𪮷抬𪮷𪮇。これを明治の時代に商売に使えると考えた男がいた。この不思議な漢字には力がある、サムハラ神を信仰することは万益あって一害なし。この札を持てば弓の矢も鉄砲の弾も当たらない。そう公言して日清戦争、日露戦争と多くの兵士の間で流行し、続く太平洋戦争にもおいても一部の兵士がそれを信じて持ち合わせていたという。
しかし、本当にそんな効果があるのかと言われればもちろん否である。単なる気休めにしかならない。確かに戦争から無傷で帰ってきたものは皆サムハラの札を持っていたのだが、弾があたって死んだ者はそもそも帰ってこれていない。よくある生存者バイアスである。だが、この異世界において、サムハラの札は確実に魔法避けの効果があった。
「魔法とは、思い込みです。私があの方に当てられると思っていても、あの方の当たるわけがないという思いの方が強ければ当たりませんし、魔法も曲げられます」
「昔リク君からゲームの魔法に対する防御力は信仰心で伸ばせるって聞いてバカにしたんだけど、あれは間違ってなかったんだ」
やはり、意外とゲームのご都合主義って意味があるらしい。もう少しそういうゲームもやっておくべきだった。シズクが知っている魔法は、せいぜい炎の矢とか水の龍とかその程度である。
「本当に、信仰心を持ったバカほどどうしようもない。陛下に血が繋がる天照大神の加護とかいうけど、そもそもこの太陽系における天照大神は手洗いから生まれたストリップ好きの変態でしかない。別の星系だとほんとに化け物なんだけど。そんな神様を信じて戦えばたとえ死んだとしても英霊になれる。そう信じてバカボムをした人を蔑む気はないけど、その人達が私達の時代の日本を作ったわけではない。ただの無駄死にだよ」
「英霊達を、勇気ある若者を愚弄するか!」
「蔑まないとは言った。ただ、拝みもしない。どうでもいい。だから、そうやって英霊とか言う言葉で神聖視するあなたのことは蔑むね。本当に国のため、未来のためを思うならば、生き恥を晒して死ぬまで働くべき。死ぬことを選んだ時点でその結果がどうあれ愚かな判断をしたと言わざるをえない。そういう鉄砲玉的思想をね、バカの考えることって言うんだよ」
「貴様ぁ!」
「バカだよ。実際バカ。私は何の力も持たないタダ飯食いなのに、その私がリク君以上の時間稼ぎができた。もういいよ。後ろ見てごらん」
そういって後ろを振り向いた時、そこには治癒魔法処理を終えたリンネと彼女を守るレーヌ、そして、立ち上がった勇者が居た。
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