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第Be章:幻の古代超科学文明都市アトランティスの都は何故滅びたのか

ユートピアとディストピア/1:キャラハン司祭曰く。気を抜くな、フリークスを信じるな、十字架を手放すな

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 地下迷宮を出るまで、ずっと背後から何かに追われている感覚があった。しかし、一歩でも日の当たる場所に足が届いた時、その感覚はすべて嘘になった。それまでは絶対に振り向いてはならないとわかりきっていたはずなのに、自然と好奇心に呼ばれて体が後ろを振り向く。そこにはもちろん、何もいなかった。

「は、はは。今日のところはこのくらいにしておこうではないか! 宿に戻って鎧を着替えたいからね!」
「どうした優男。漏らしたか」
「何を言うリク少年。それよりも、僕の故郷では鼻毛に手入れが重要とされていたよ。少しでも毛が外に出ていると、そこからゴーストが体内に侵入するのだ」
「まじか!? 俺大丈夫か!?」

 そういって左手を用い必死で鼻をほじるリクを前にカイは鼻で笑う。

「あぁ、問題ない。バカは見つかってしまったようだがね」
「なっ……てめぇ……!」

 そう言ってカイに突っかかろうとした時。ずっと自分の右手を掴んでいた幼馴染が、その握力を少しだけ強めた。その些細な手の感覚に気付いたリクは、ズボンで左手を拭いてから、しょうがいなとそのまま頭をかいてみせた。

 帰り道は暗い。恐怖体験をしてしまったこともあるが、やはりどうにもスラム街を横切るのは気が滅入る。口数は少ないどころかほぼゼロだった。シズクはずっとリクの手を握っていたが、そんな彼女を気遣ったリンネに声をかけられ、今は二人で先頭を歩いている。気分は多少マシになったようで、今は街に戻ったら買うアイスのフレーバーを相談する声が聞こえていた。そうしてようやくスラム街を抜けローマン・コンクリートジャングルのメインストーリーに出るかというタイミングで、最後尾を歩いていたリクにイルマがこっそり耳打ちで声をかける。

「リクさん」
「わかってる。ついて来てやがる」

 心霊スポットオフ会あるあるのお持ち帰りである。このまま二人きりになった時に布団に侵入され、精神的接触と共に魂がOFFにされてパコッと命を落とすという話は、実際に被害にあって死亡した友達の友達から何度も聞かされている。

「どうします?」
「ぶっちゃけどうすればいいかわからん。頼みの綱のシズクにも今は頼りにくい」
「そうですね。なので恥を忍んでリクさんに聞いています」
「恥を忍ばないと声をかけてもらえない俺。ともあれ、こういった状況で一番まずいのは、家に入れてしまうことだ。化け物は絶対に家にあげちゃいけない。俺はそれをスティーブンに教わった」
「ならどうすればいいんですか?」
「……とりあえず振り向くぞ」
「正気ですか?」
「正気でいられないほど怖いことは確かだ。1,2,の3でいっしょに振り向くぞ」
「わかりました。掛け声、どうぞ」
「1……2の……3!」

 振り向いた路地裏には、誰もいなかった。いや、本当にそうなのか? 本当に誰にもつけられていないのか? きょろきょろと辺りを見渡そうとしたタイミングで、ずっと前を向いたままのイルマが目に入った。この裏切り者が。その時。がたん、と音がして、ゴミ箱が揺れる。背中に背負った5円ソードに手をかけた時、20cmはあろうかというネズミが飛び出してきた。

「ネズミ!?」
「始末します」

 即座に振り向いたイルマが光魔法を速射する。普段の冷静で慎重なイルマからはとても信じられない勢いで魔法を乱射するイルマ。ここまでの恐怖を完全に忘れてしまうほど、ネズミが嫌いらしい。ただこれは、過去に耳をかじられたとかそういう話ではなく、おそらくペストと戦った彼女の経験が由来であろう。

「すばしこい……!」
「待つでち! 待ってくだち! 話を聞いてくだち!」
「逃げるやつは保菌者です。逃げないやつは訓練された保菌者です」
「うわーっ! おかーちゃーん!」
「おいイルマ、ネズミって喋るのか?」
「そんなわけないでしょう。奴らは保菌者。確実に駆除しなくては……あれ」

 ここでようやく冷静さを取り戻したイルマが魔力行使を止める。どうしたどうしたと戻ってきた一同の視線が集まる中、そのネズミがぺこりと頭を下げた。

「勇者の騎士カイ様及び、神農シズク様御一行とお見受けいたちまつ。アトランティス総領事、偽王ネス様の使いとして、お迎えにあがりまちた!」

 それは妹リンネ式階層分類体系における魔物界脊索魔物門哺乳綱齧歯目カーバンクル亜目ラタトクス下目ラタトクス上科ラタトクス科オオネズミ属の魔物、ジャイアントラットであった。
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