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第Be章:幻の古代超科学文明都市アトランティスの都は何故滅びたのか

父と妹/1:宇宙の真実に近付いたものは猫になる

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 この物語は、現実を題材にしたフィクションかもしれない。

 世の中には変態と呼ばれる人間がいる。これは、サナギを挟む挟まないの差こそあれども、幼体から成体に変化する過程でその姿を大きく変える生態を持つ人物のこと。ではなく。社会で多数派を占め自らが平均であり普通であると声を大に出来る人間集団が定めた「普通」から大きく外れた趣味嗜好を持ち、時に彼等の語る「普通」とは真逆とも言える行動を愛好してしまう少数派につけられたレッテルである。

 変態と言えば、同性愛者はその最たるものである。現在こそLGBTQを認める流れが世界の主流となりつつあるが、今でもこの流れに大きく反対する集団こそ、彼等に変態のレッテルを貼り付けてきた古典的宗教信者達である。だが、間違ってもこれを理由に宗教従事者に良くない目を向けるべきではない。宗教の教えというものは、それが成立した社会においては非常に合理的な民法と呼ぶべき物であったからだ。

 例えばイスラムが豚食を禁じるのは、当時の衛生環境では豚由来の寄生虫による死亡例が多くなりすぎた故である。ここで「豚を食べるのは危ない」と言っても人は止まってくれず、豚の調理に免許制を導入できるまでの国家基盤が存在しなかったために、だから神様が豚を食べてはいけないと言っているんだぞとこれを禁じた流れである。これは、豊臣秀吉が河豚食を禁じる令を出した事例とまるで同じであり、もしも秀吉がうまく治世を進め家康に権力が移動しなければ、自らを天皇をも超える神にしようとしていた秀吉のことである、明治の世の神仏習合に伴い日本の国教となる神道で神が河豚を食べることを禁じたという教えが当たり前になったであろうことは想像に容易いだろう。

 これと同じように、ほとんどの世界宗教が同性愛を禁じたのは、未だ工業化など夢にも思いつかないような技術水準においては、労働力が人の数とイコールであったが故。とにかく人間はその数を多く増やすべきであり、積極的性交渉を奨励する必要があった。そこで、いかに愛があれども当時の技術では子供を作ることが不可能であった同性愛を禁じたという極めて合理的理屈なのだ。現在同性愛が認められている理由は、工業化によって人の数と労働力がイコールにならなくなったため、つまり、科学技術の発展が同性愛を支えているとも言えよう。

 そして、以前にも述べたように宗教とは未来に対する借金であり、今特定の宗教を信仰していない人間は、先祖代々の借金を踏み倒した非道徳的な人間である。そんな非道徳的人間が多数派になった社会で、彼等は頭が古い、性の自由を認めるべきだと後ろ指をさされる現代の宗教従事者とは、多数派が踏み倒した借金までもを抱えてその肥大化した利息を払い続けている苦労人と言える。私達はむしろ、彼等に足を向けて寝るべきではないのだ。少なくとも、神を発見することで、人類が歴史を紡ぐ中でずっと増やし続けてきた宗教のリボ払いローンを返済しきるまでは。

 さておき。そのような形で、近代に入るまで「変態」を定義してきたのは常に宗教従事者であった。彼等は同性愛者を変態と呼び、ロリコンを変態と呼び、また、サディストとマゾヒストを変態と呼んだ。ロリコンに関しては同性愛者と同様の合理的理由として、サディストとマゾヒストは中世ヨーロッパの黒歴史にして最大の闇とも言える魔女狩りにその源流が垣間見える。現代で資本主義の豚達がお金を払ってまで受けている責め苦は、元々魔女狩りに用いられた拷問である。その拷問を喜び、本来の効果が現れないマゾヒストと、必要以上の拷問行為を楽しんでしまうサディストは、変態のレッテルを貼らなければならなかったのだ。

 それでも、主流思想に対する反骨心であったり、強すぎる好奇心であったりで、少なからずの割合で変態は発生してしまう。特に、世のインテリは好奇心の高さ故に変態になりやすい傾向があることをあわせて考えると、歴史に名を残す偉人達の中にも変態が多く存在していたことは想像に容易く、むしろ統計学的には当たり前であろう。

 有名どころとしては、近代音楽に輝く巨星、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトである。彼の変態性とは、スカトロジー、つまり、食糞愛好である。後に残されているモーツァルトの手紙では、コロコロした漫画雑誌以上の頻度でうんちという単語が登場する。これは言い過ぎでもなんでもなく、疑う者は彼の手紙とコロコロした漫画雑誌を比べて読んで欲しい。その差は歴然である。

 手紙といえば、戦国最強の騎馬軍団を作り上げた甲斐の虎、武田信玄が書いた手紙にもなんともその猛将としてのイメージから離れたものが残されている。当時の日本では同性愛、特に、名のある武将と幼い少年の小姓の間での性行為が公然のものとして認められていた世界ではあるのだが、武田信玄が残した手紙では性行為中の失敗で小姓からへそを曲げられてしまった信玄公が、思いつく限りのバリエーションを持って謝り倒しつつまた虐めてくれという内容が書かれている。男色、ショタコン、マゾヒストのスリーアウトチェンジであり、これには武田四天王も見て見ぬ振りをせざるをえなかっただろう。ああ、信玄の秘湯ってそういう。

 このように、多くの偉人が変態性を持っていたことがわかっている。しかし、変態とは当時の主流派から抑圧されるレッテルであり隠すべきものである。ということは、現在はそういった話を聞かない者であっても、実は変態であったという偉人は、確実に存在していただろう。そして、その変態性の大小と、後世に残した偉業の規模には、決して相関がないことを強く覚えておくべきである。彼等が残した偉業は、いかなる変態性によっても薄れるものでない。

(そうであるか。不老不死は難しいか)
「はい~。あなたの偉業が素晴らしく、非常に高いスコアが使えることは事実なんですけど、不老不死はちょーっと無理ですね~」
(で、あるか。いや、申し訳ない。それは生命として当然である。無理を申したことを侘びたい)
「いえいえ~、折角の転生チートですから、言ってみるものですよ~」

 不老不死。それは人類の夢である。転生担当の彼女は、もう何度それを願われたかとても覚えていない。中には逆ギレをしてきた人物もあり「朕は皇帝であるぞ、生前より不老不死の霊薬たる水銀を飲み、その墓にも水銀の海を作ったのであるぞ。それでも無理というからにはやはり、石の兵ではなく生身の生贄が必要であったのか」と意味のわからない持論語りをされたり、「これでどうにかなりませんか」と黄金になっていた舌を賄賂として差し出した者も居たから人間は業が深い。ちなみに後者は心臓からフンコロガシが出てきて、ちょっと引いた覚えもある。

 そう言った過去の連中に比べればこの男は紳士的であり、こちらに払うべき礼も忘れない、素晴らしい人格者であると言えるだろう。やはり生前に立派な学術的成果を残した知識人というものは、血筋だけの王侯貴族とは大違いだ。

(ふむ……では、不老のみであればどうだろうか?)
「不老のみですか~? つまり、肉体が成長せず、衰えることもないものの、怪我をしたり病気にかかれば普通に死んでしまう、ということでしょうか~?」
(で、ある)
「それでしたら、あなたの生前のスコアならば十分可能ですよ~」
(おぉ! そうであるか! では、それを頼みたい!)

 なるほど。手元の資料によると、この男性の人生は25歳の時の冒険で大きく変わったと記録されている。晩年は大学教授となったが、おそらく彼の心はあの時ラップランドに置き去りにされてしまったのだろう。若い頃の肉体を永遠に持って冒険したいという願いがまさにこの要望である。転生担当も思わず目頭が熱くなる。

「わかりました~。では、あなたが最も健康で活動的だった25歳の……」
(いや、11歳の少女にしてもらいたい)
「……はい?」

 おや? 聞き間違いかな? どうも流れが変わったように感じる。

(11歳の少女である。イメージを脳内で想像すれば伝わるであろうか)
「あっ、はい~。ん~、あの~、これ、11歳ですよね~?」
(で、ある)
「胸が少し大きすぎませんか~?」
(良い。幼き体に見合わぬ胸。それこそ私の憧れた女性像である)
「あっ、はい~。ま、まぁ、そういう趣味嗜好の方もいらっしゃいますし~」
(うむ。その上で、異性からモテるようにしてもらえるか)
「あっ、は……い、いえ、その~、こちらの星でも法律とかいろいろありまして~」
(あぁ、すまぬ。誤解を招くことを申したことを詫びる。私の今の性別、つまり、男性からしての異性。女性にモテるようにしてもらいたい)
「あっ、はい~……それでしたら……いや、どうなんでしょうかね~、ん~……」

 手元のマニュアルに加えて、氾銀河条約法、旧人類連邦法、心魂転生基準条約、太陽系生物保護法、天ノ川男女別離法など、一通りの法律を確認している中。

(特に、同年代から20代前半までの女性で、相手がより美しくかわいらしいほど強く効果を発揮するよう頼む。相手の容姿判定の基準に関して20段階評価のリストを脳内で想像する故受け取って欲しい。それと、転生時の服装に関しての指定が可能である場合、これも脳内で圧縮した画像イメージを送る故参考にして欲しい。そもそもであるが、私が不老を望む理由を語るべきであろうか。それはもちろん、幼き少女の体こそが生物として至高であり、それが老いることなく不変であり続けられる永遠の少女足り得るのであれば、まさに神の姿であると言えるためである。しかし、生物は種として子を産まねばならぬ。つまり、すべからく女性は母である。この点に関しては、乳母による代理育児の生物的不自然さについてを記した私の論文(1752)を脳内で圧縮して送付するので査読を頼みたい。さて、その母の象徴としての豊満な乳房を持った少女こそ、至高を超えた究極。その肉体を持って、限りなく至高に近い肉体を保持している者と接し、母と母として愛し合うことこそ、私が夢見た理想である。この考え方は宗教的には異端とされるが、私は常々……)

 担当者は宇宙に漂う猫となり、やがて考えるのをやめた。
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