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第Li章:多くの美しい自然遺産を持つ異世界で何故観光産業が発展しないのか
アリストテレスとメンデレーエフ/1:所謂原作レイプというものをしても許されてしまう監督が日本には少なくとも2人いる
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スウェーデンはストックホルム、アーランダ空港。姉達と同じ日本の科学者達に少し遅れて、シズクとリクが入国審査の列に並んでいた。この時のためにサングラスを調達し、しっかりとイメージトレーニングを積んだシズクは入国審査官にパスポートを渡す。
「sightseeing?」(観光ですか?)
「No」(いいえ)
軽く一言でそう否定し、サングラスを外し。
「Com……」(戦……)
「あー! すみませんすみません! 先にたくさん日本人いましたよね! あれと同じ! はい! そうそう! Nobel Prize!(ノーベル賞!) YES!(はい!) YES!(そうそう!) Bye!(じゃぁね!)」
リクに体を押される形で無事スウェーデン国内に入国したシズクは、全力で頬を膨らませて不機嫌さをアピールした。
「この時のため、映画のあのシーン何回も見直したのに。外国まで来て方舟攻略に挑むんだから、絶対やるしかなかったのに。リク君の、ばか」
そういってシズクの手刀がリクを襲うが、その一撃はリクの体には触れなかった。それもそうである。シズクの腕は伸びない。こういうところまで無駄な再現が完璧である。
「バカはお前だ! 頼むから世界情勢にもう少し目を配れ! 洒落にならねえんだよ!」
世界は未だロシアとウクライナの戦争中。そんな中でニューヨーク市警の真似をして入国目的にコンバットなんて宣言した日には、しばらく別室から出られないことは間違いない。
「まったく……」
「いや、ちょっとまって。なんか匂わない?」
すんすんと鼻を鳴らすシズクの様子に思わず心臓が跳ねるリク。まさか、ガスが? 自分たちは日本ですっかり平和ボケしているが、今の御時世、複雑怪奇な欧州ではテロが起きても不思議ではない。咄嗟に新型感染症用のマスクで口を覆い、改めてあたりを見渡す。
「いや……俺は特に……」
「そう。何の匂いもしないの」
「は?」
「成田空港ならもう醤油の香りがしているはず。なのに、ここではあれだけ練習したシュールストレミングの匂いが全くしない」
「お前やっぱり俺のセーター弁償しろよ!」
かくして、憧れのヨーロッパ、スカンジナビアの地においてもシズクはマイペースを崩さなかった。
「ここがノーベル賞受賞式典の行われるコンサートホールかぁ」
大英帝国首都の霧の街ロンドン、自由平等そして革命のフランス首都花の都パリ、そして、世界一小さい国であり世界一世界遺産の密度が濃い街バチカン。そういった名だたるヨーロッパ各国の首都と並べれば、確かにスウェーデン首都ストックホルムは観光求心力に欠けている。しかし、それはあくまで比較論。1926年落成のロイヤルストックホルムフィルハーモニー管弦楽団本拠地にして、毎年ノーベル賞の授賞式が行われる歴史的建造物となるこのコンサートホールをはじめ、宮殿、市庁舎、大聖堂、そして、一部で人気の市立図書館と、ストックホルム市内には観光名所がずらりと並ぶ。念願の大英博物館には劣るにしても、世界初の野外博物館スカンセンはなかなかのボリュームであり、その巨大で雄々しい角を頭に載せたヘラジカが歩く姿にはシズクも興奮を隠しきれないでいた。
そんなこんなでスウェーデン初日。シズクは大満足で宿に戻る。他の日本人科学者と同じホテルでの夕食は、少しだけ身構えていたリクの不安をよそにシュールストレミングが提供されることなどあろうはずもなく、日本のホテルとそれほど変わらないビュッフェスタイルのバイキングだった。本場のシュールストレミングを期待していたシズクは、少しだけ残念そうな顔をしながらビュッフェの一番端の銀皿に並ぶたこ焼きをピックしていた。
「どうだった? シズク」
「お姉ちゃん!」
後ろから聞き慣れた声をかけられたシズクは、満面の笑みで振り返った。その手が支えるトレーには、たこ焼きとハンバーグとポテトフライが山盛りである。姉のシズカは少しだけ苦笑いを浮かべつつも、いつもと変わらぬ妹の姿に安堵した。
「今日はどこを回ったの?」
「ストックホルム市内をひととおり! 野外博物館にも行ったよ! ヘラジカ、大迫力だった! お姉ちゃんも行った?」
「いえ、私は明日行くつもりで。よかったらいっしょにって声をかけたんだけど、それならごめんなさい」
「あ……ごめんね。事前に予定合わせるべきだった。リク君と二人で予定たてちゃってて……」
「そう、あの子と。いえ、いいのよ、気にしないで。それで、明日以降は?」
「明日は一日カヌー漕ぎに行くよ!」
「あらあら、もう寒い時期なんだから、風邪ひかないようにね」
「それはもちろん! それで明後日から授賞式前日まではフィンランドの方まで列車の旅! お姉ちゃんの授賞式に顔出した後は、みんなと別れてスヴァールバル世界種子貯蔵庫の見学に行くの!」
「スヴァールバル……?」
ぴくりと眉が上がるシズカ。期待に胸を高鳴らせる無垢な笑顔を前に、残念そうにため息をついた。
「sightseeing?」(観光ですか?)
「No」(いいえ)
軽く一言でそう否定し、サングラスを外し。
「Com……」(戦……)
「あー! すみませんすみません! 先にたくさん日本人いましたよね! あれと同じ! はい! そうそう! Nobel Prize!(ノーベル賞!) YES!(はい!) YES!(そうそう!) Bye!(じゃぁね!)」
リクに体を押される形で無事スウェーデン国内に入国したシズクは、全力で頬を膨らませて不機嫌さをアピールした。
「この時のため、映画のあのシーン何回も見直したのに。外国まで来て方舟攻略に挑むんだから、絶対やるしかなかったのに。リク君の、ばか」
そういってシズクの手刀がリクを襲うが、その一撃はリクの体には触れなかった。それもそうである。シズクの腕は伸びない。こういうところまで無駄な再現が完璧である。
「バカはお前だ! 頼むから世界情勢にもう少し目を配れ! 洒落にならねえんだよ!」
世界は未だロシアとウクライナの戦争中。そんな中でニューヨーク市警の真似をして入国目的にコンバットなんて宣言した日には、しばらく別室から出られないことは間違いない。
「まったく……」
「いや、ちょっとまって。なんか匂わない?」
すんすんと鼻を鳴らすシズクの様子に思わず心臓が跳ねるリク。まさか、ガスが? 自分たちは日本ですっかり平和ボケしているが、今の御時世、複雑怪奇な欧州ではテロが起きても不思議ではない。咄嗟に新型感染症用のマスクで口を覆い、改めてあたりを見渡す。
「いや……俺は特に……」
「そう。何の匂いもしないの」
「は?」
「成田空港ならもう醤油の香りがしているはず。なのに、ここではあれだけ練習したシュールストレミングの匂いが全くしない」
「お前やっぱり俺のセーター弁償しろよ!」
かくして、憧れのヨーロッパ、スカンジナビアの地においてもシズクはマイペースを崩さなかった。
「ここがノーベル賞受賞式典の行われるコンサートホールかぁ」
大英帝国首都の霧の街ロンドン、自由平等そして革命のフランス首都花の都パリ、そして、世界一小さい国であり世界一世界遺産の密度が濃い街バチカン。そういった名だたるヨーロッパ各国の首都と並べれば、確かにスウェーデン首都ストックホルムは観光求心力に欠けている。しかし、それはあくまで比較論。1926年落成のロイヤルストックホルムフィルハーモニー管弦楽団本拠地にして、毎年ノーベル賞の授賞式が行われる歴史的建造物となるこのコンサートホールをはじめ、宮殿、市庁舎、大聖堂、そして、一部で人気の市立図書館と、ストックホルム市内には観光名所がずらりと並ぶ。念願の大英博物館には劣るにしても、世界初の野外博物館スカンセンはなかなかのボリュームであり、その巨大で雄々しい角を頭に載せたヘラジカが歩く姿にはシズクも興奮を隠しきれないでいた。
そんなこんなでスウェーデン初日。シズクは大満足で宿に戻る。他の日本人科学者と同じホテルでの夕食は、少しだけ身構えていたリクの不安をよそにシュールストレミングが提供されることなどあろうはずもなく、日本のホテルとそれほど変わらないビュッフェスタイルのバイキングだった。本場のシュールストレミングを期待していたシズクは、少しだけ残念そうな顔をしながらビュッフェの一番端の銀皿に並ぶたこ焼きをピックしていた。
「どうだった? シズク」
「お姉ちゃん!」
後ろから聞き慣れた声をかけられたシズクは、満面の笑みで振り返った。その手が支えるトレーには、たこ焼きとハンバーグとポテトフライが山盛りである。姉のシズカは少しだけ苦笑いを浮かべつつも、いつもと変わらぬ妹の姿に安堵した。
「今日はどこを回ったの?」
「ストックホルム市内をひととおり! 野外博物館にも行ったよ! ヘラジカ、大迫力だった! お姉ちゃんも行った?」
「いえ、私は明日行くつもりで。よかったらいっしょにって声をかけたんだけど、それならごめんなさい」
「あ……ごめんね。事前に予定合わせるべきだった。リク君と二人で予定たてちゃってて……」
「そう、あの子と。いえ、いいのよ、気にしないで。それで、明日以降は?」
「明日は一日カヌー漕ぎに行くよ!」
「あらあら、もう寒い時期なんだから、風邪ひかないようにね」
「それはもちろん! それで明後日から授賞式前日まではフィンランドの方まで列車の旅! お姉ちゃんの授賞式に顔出した後は、みんなと別れてスヴァールバル世界種子貯蔵庫の見学に行くの!」
「スヴァールバル……?」
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