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第Li章:多くの美しい自然遺産を持つ異世界で何故観光産業が発展しないのか
風呂と温泉/2:橋の下には犬まっしぐらのミンクが居るらしい
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「すっごーい!」
今、3人の前に広がる光景は、まさに異世界の神秘であった。全高800mの高さの滝と、その前を飛ぶワイバーンの群れのコラボレーションは、異世界でしか見ることができない光景である。
「ワイバーンはドラゴンに似ていますが、最大の大きさは1m弱で、中空の骨と皮のみの体で重さも1kg程度。その力は極めて弱く、対処が簡単な魔物です。言ってしまえば彼等は、飛ぶことしかできない。地面を歩く時の彼等は生まれてまもない鹿の子供並の動きしかできず、意外に思うかもしれませんが、力のない女性や子供ですら狩ることができます」
「もちろん火も吹けないしね。でも、空戦能力は高いんでしょ?」
「いえ、彼等はハチドリなどと異なりホバリングが行えませんし、旋回半径は鷹などとは比べ物になりません。速度も出ないため、少し弓に覚えがある者ならまるで面白みを感じない獲物です」
「ふーん。でも彼等も魔物で、人間を根絶するため魔王によって作られたんでしょ? 一体どうやって人を殺すの?」
「ああやって、です」
イルマが光の魔法で空間を歪ませる。シズクとリクの二人は、双眼鏡を目に押し付けられたかのように、その光景を間近で観察することができた。
「うげ」
そこでは滝の横の岸壁をクライミングする人間の姿があった。滝の上にはシズクたちの目的地でもある場所、ヨセタムの村がある。直近の村からそこへの最短距離は、見ての通りの岸壁をクライミングするルートである。これは実のところよく使われている道、現代日本における「酷道」とも呼ぶべき公式ルートであり、その証拠としてそこはただの岸壁ではなく、先駆者が打ちこんだ杭と鎖によって登りやすくなっている。しかし、ところどころで休憩できるとはいえ、最長区間では一度に70mの高さを登らなければならないこのルート。当然シズクとイルマに使えるわけもなく、3人は迂回路を取る。最短距離が800mである一方、迂回路は20km。結果的に、こちらのルートを使う旅人の方が少なくなっている。
そんな800mの岸壁の周りを飛ぶのがワイバーンである。彼等は岸壁を登る人間の手をつつく。ホバリングも行えない彼等はそこまで執拗につつくことはできないが、それでも体力の限界を迎えている中でつつかれてしまえば。
「あっ」
二人の目は、その瞬間を確かに見てしまった。ワイバーンにつつかれた男の手が、岸壁から離れた瞬間を。流石に残酷だと感じたのか、魔法の行使を止めたイルマであったが、結果的にこれは逆効果。絶叫と共に600m下へと落下し、そのままトマトになるまでを俯瞰視点で眺める結果となってしまった。
「申し訳ありません」
「い、いや、イルマが悪いわけじゃ……しかし、なるほど。魔物の生態ってのはなかなか考えられているんだなぁ、はは、ははは……」
顔を青ざめさせつつ、目をそらしたリク。一方のシズクは、その様子を見て無言で立ち尽くしていた。
「おい……大丈夫か……?」
「……そっか。うん、そうだね」
「え? いや……お前、ほんとに……って、おい!」
訳の分からない言葉を呟いたと思ったらいきなり駆け出したシズクにぎょっとしたリクは、彼女の体を止めることができなかった。チートによってどれだけ強靭な筋肉の鎧を身に纏おうとも、心の弱さを隠せないままでは瞬発力は発揮できないのだ。かくしてシズクの体は宙へと飛び出し、数百m下へと落下していった。言ってしまえば、ただの投身自殺である。
「おぃい! 何やってんだお前ぇえ!」
崖下に頭を突き出したリクは、そのままシズクの頭がトマトになる瞬間に、思わず目をそらした。そして。
「うーん、すっきり。さっきまで棒みたいだった足が完全回復したよ。いやぁ、考えてみればそうなんだよねぇ。これだけの高さで頭から落ちれば、痛みを感じるまでもなく即死できる。もっと早く気付くべきだったなぁ」
「いや、今さっきの光景見せられてそんなこと思いついたの!? もはやサイコパスって言葉じゃ言い表せねぇよお前! 他人に移入する感情お持ちですか!?」
「でもほら、イギリスはスコットランドのオーヴァートン橋では、犬がひょいひょい自殺するっていうし」
「そういう無駄知識はあるのに、行動原理がコーギーなんだよなぁ! あぁもうすっきりしたって笑顔しやがって! この逆6Vの駄犬が!」
無制限に蘇生し、蘇生時のリスポーンポイントもある程度条件把握が可能。RPGを遊ぶ上ではこのような仕様をうまく使用することでRTAのタイム短縮が可能であったりするわけだが、そういうゲーム文化を知らないはずのシズクが、ゲームでなく現実でこのような仕様やチートを悪用する様は、流石を通り越して呆れざるをえないリクだった。
今、3人の前に広がる光景は、まさに異世界の神秘であった。全高800mの高さの滝と、その前を飛ぶワイバーンの群れのコラボレーションは、異世界でしか見ることができない光景である。
「ワイバーンはドラゴンに似ていますが、最大の大きさは1m弱で、中空の骨と皮のみの体で重さも1kg程度。その力は極めて弱く、対処が簡単な魔物です。言ってしまえば彼等は、飛ぶことしかできない。地面を歩く時の彼等は生まれてまもない鹿の子供並の動きしかできず、意外に思うかもしれませんが、力のない女性や子供ですら狩ることができます」
「もちろん火も吹けないしね。でも、空戦能力は高いんでしょ?」
「いえ、彼等はハチドリなどと異なりホバリングが行えませんし、旋回半径は鷹などとは比べ物になりません。速度も出ないため、少し弓に覚えがある者ならまるで面白みを感じない獲物です」
「ふーん。でも彼等も魔物で、人間を根絶するため魔王によって作られたんでしょ? 一体どうやって人を殺すの?」
「ああやって、です」
イルマが光の魔法で空間を歪ませる。シズクとリクの二人は、双眼鏡を目に押し付けられたかのように、その光景を間近で観察することができた。
「うげ」
そこでは滝の横の岸壁をクライミングする人間の姿があった。滝の上にはシズクたちの目的地でもある場所、ヨセタムの村がある。直近の村からそこへの最短距離は、見ての通りの岸壁をクライミングするルートである。これは実のところよく使われている道、現代日本における「酷道」とも呼ぶべき公式ルートであり、その証拠としてそこはただの岸壁ではなく、先駆者が打ちこんだ杭と鎖によって登りやすくなっている。しかし、ところどころで休憩できるとはいえ、最長区間では一度に70mの高さを登らなければならないこのルート。当然シズクとイルマに使えるわけもなく、3人は迂回路を取る。最短距離が800mである一方、迂回路は20km。結果的に、こちらのルートを使う旅人の方が少なくなっている。
そんな800mの岸壁の周りを飛ぶのがワイバーンである。彼等は岸壁を登る人間の手をつつく。ホバリングも行えない彼等はそこまで執拗につつくことはできないが、それでも体力の限界を迎えている中でつつかれてしまえば。
「あっ」
二人の目は、その瞬間を確かに見てしまった。ワイバーンにつつかれた男の手が、岸壁から離れた瞬間を。流石に残酷だと感じたのか、魔法の行使を止めたイルマであったが、結果的にこれは逆効果。絶叫と共に600m下へと落下し、そのままトマトになるまでを俯瞰視点で眺める結果となってしまった。
「申し訳ありません」
「い、いや、イルマが悪いわけじゃ……しかし、なるほど。魔物の生態ってのはなかなか考えられているんだなぁ、はは、ははは……」
顔を青ざめさせつつ、目をそらしたリク。一方のシズクは、その様子を見て無言で立ち尽くしていた。
「おい……大丈夫か……?」
「……そっか。うん、そうだね」
「え? いや……お前、ほんとに……って、おい!」
訳の分からない言葉を呟いたと思ったらいきなり駆け出したシズクにぎょっとしたリクは、彼女の体を止めることができなかった。チートによってどれだけ強靭な筋肉の鎧を身に纏おうとも、心の弱さを隠せないままでは瞬発力は発揮できないのだ。かくしてシズクの体は宙へと飛び出し、数百m下へと落下していった。言ってしまえば、ただの投身自殺である。
「おぃい! 何やってんだお前ぇえ!」
崖下に頭を突き出したリクは、そのままシズクの頭がトマトになる瞬間に、思わず目をそらした。そして。
「うーん、すっきり。さっきまで棒みたいだった足が完全回復したよ。いやぁ、考えてみればそうなんだよねぇ。これだけの高さで頭から落ちれば、痛みを感じるまでもなく即死できる。もっと早く気付くべきだったなぁ」
「いや、今さっきの光景見せられてそんなこと思いついたの!? もはやサイコパスって言葉じゃ言い表せねぇよお前! 他人に移入する感情お持ちですか!?」
「でもほら、イギリスはスコットランドのオーヴァートン橋では、犬がひょいひょい自殺するっていうし」
「そういう無駄知識はあるのに、行動原理がコーギーなんだよなぁ! あぁもうすっきりしたって笑顔しやがって! この逆6Vの駄犬が!」
無制限に蘇生し、蘇生時のリスポーンポイントもある程度条件把握が可能。RPGを遊ぶ上ではこのような仕様をうまく使用することでRTAのタイム短縮が可能であったりするわけだが、そういうゲーム文化を知らないはずのシズクが、ゲームでなく現実でこのような仕様やチートを悪用する様は、流石を通り越して呆れざるをえないリクだった。
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