26 / 178
第H章:何故倒された魔物はお金を落とすのか
仇なす者と利する者/2:双頭になろうがサメはサメだが白鯨はまさに現実に存在したゲームの魔物だった
しおりを挟む
シズクは思考に沈む。
「つまり、魔王にとって最も高くつく魔物の部位とは、物を考える部位、脳ってこと?」
「そうなのでしょう。ですから、ほとんどの魔物は戦略行動が取れません」
「まぁ実際、人間の強みって道具を使えることと戦略行動が取れることだからな。素手で殴り合ったら人間は犬にすら勝てないけど、道具を使い、戦略を取ればマンモスでも狩れるわけだし。ここでも人間は軍隊を作っての戦略行動が取れるんだろ? なら、それこそドラゴンみたいな圧倒的な強さの魔物じゃなければ、だいたいは倒せるんじゃないか?」
「はい。というか、そのドラゴンですら人間は倒せます。もちろん、かなりの犠牲は払ってのことですが」
「まぁ魔王が倒せちゃうわけだし、そりゃそうだな。でもそれなら、どれだけ魔物を作れるのか次第でこそあるけど、人間ってそんなに魔物を恐れる必要はないんじゃないか?」
「実は、そうだったんです。11年前までは」
深刻な口調でトーンを落とすイルマ。
「ねぇ、イルマ。最後に魔王が倒されたのって、もしかして11年前?」
頷いて肯定を示す。つまり、11年前に現れた現存の魔王が、この常識を覆したのだ。
「その、今の魔王はどんなやつなんだ? 単純に、生産コストの上限が高いとかじゃないよな?」
「はい。魔王がまず最初に行ったこと。それは、私達がアスクレの祭殿と呼ぶ場所がある洞窟の場所を世界に広めたことでした。この祭殿には、特定の物を捧げることで、捧げた物に応じてありとあらゆる物をもたらす機能があったのです」
「なんだか不穏だなぁ。その特定の物って、まさか人間の心臓か?」
「いえ、リクさんも先程拾っていた、それです」
「それって?」
理解が及ばないリクに対し、シズクはここまでに覚えていた謎の1つの答えを見る。
「なるほどね。金本位制が成り立っていたというか、これこそ魔物が落とす金属めいたものが、貨幣として使えるからくりの正体ってわけか」
「はい。アスクレの祭殿に大量に置かれていた石柱は、すぐに世界中に配布されました。シズクさんも持っているそれですね。これを魔物の死骸に近づけることで、魔物は祭殿に収めることのできる金属に変わります。そしてこれが、金や銀などの希少金属や、肉や穀物、果物などの食料にも交換できるため、結果として、魔物から得られる金属はすぐに通貨として認められるようになりました。その結果、多くの人間による魔物狩りが始まったのです」
「えぇ? そんなの、すぐに魔物が狩り尽くされるぞ。ドードーとか、リョウコウバトの悲劇をこの世界の人たちはまだ知らないんだ」
「違う。そうじゃないよ。すごいよ、今の魔王は。これまでの常識を変え、魔物を人間の脅威に変えたんだ」
「どういうことだ?」
魔王の戦略に舌を巻きつつ、すべてを理解したシズクがイルマに変わって続ける。
「ハーマン・メルヴィルの白鯨って知ってる?」
「アメリカの捕鯨の話だよな? 実際に読んだことはないけど」
「そう。あの話じゃ漁師の人が生きるか死ぬかの戦いをする。19世紀のアメリカは、捕鯨で成り立った国だからね。クジラが取れる肉と鯨油に大きな価値が見出されたんだ。ところで、リク君。クジラって街を襲う?」
「襲わないな。襲うのはサメだろ」
「ちなみにサメに襲われて死んだ人の数って予想よりかなり少ないよ。ホオジロザメですら全然人間を襲った事故例はない。サメは頭が増えたり竜巻に巻き込まれたり霊体化したり機械化されない限りは人類の脅威でもなんでもないんだよ」
「いきなりのサメ映画語りやめろ」
「さておき。そう、クジラは人を襲わない。でも、捕鯨では大量の漁師が死んだ。その理由は、わざわざクジラを狩りに行ったからだよね?」
「あぁ! そういうことか!」
イルマの深く頷き、そこに情報を付け加えていく。
「そうです。これまでは、村の周りに柵を作ったり濠を掘ったりなど、魔物の襲撃に備えることで有利な戦闘が行えていました。しかし、魔物を狩る理由ができた以上、防御地形や罠を作って待ち構える戦術はここでは使えなくなる。逆に、魔物側は1つの発明を行います。それが、ダンジョンです」
「うわぁ、そういう理由でダンジョンが生まれたのかぁ」
「ていうか、これまでダンジョンってなかったんだな」
「ごく一部の賢い魔物ドラゴンなどは自身の住処としてのダンジョンを作っていたようですが、そこまでの知性を持たない魔物までもがダンジョンを作り出したのはイレラミ年前からですね」
ここでリクが一瞬顔に疑問を見せる。おそらく、知らない言葉があったことに対する疑念だろう。チートによって言語は自動翻訳がされているが、二人の世界に概念がない言葉は翻訳されずに音でのみ伝わる。前後の文脈から数字のはずだが、何故かそれが翻訳されず、存在しない概念として扱われた。ここでシズクは納得し「イレラミ」という単語を学習した一方で、リクは聞き間違いか何かだろうと解釈した。これはシズクには前提として数学に関する考察が既に行われていたことに起因する差である。しかし、今はそれを掘り下げるよりも、魔物の生態の話が続く。
「それまではこちらが罠で魔物を迎え撃っていたのに、今は魔物が罠で迎撃してくるってことだ。もちろん、ダンジョン攻略による利潤は得られるんだろうけど、人類の死亡率や平均年齢って意味で言えば、世界全体で明らかな悪化が見られるんだろうね。まるでニトログリセリンの発明後、ダイナマイトの発明前の鉱山だ」
「ちなみに、ダンジョンで最も恐るべき魔物はミミックです。それまではまるで脅威と取られていなかった魔物種なんですけど」
「うわぁ納得。ていうか、ミミックが宝箱に擬態したのではなく、先にミミックがあって、その上で本物の宝箱が用意されたってことだよね。いや、そう考えると凄いね、今の魔王は。明らかに歴代の魔王の中で一番まずい敵だって認識されているんだろうね」
と、ここでイルマはこれまでで一番悲しそうな表情を返す。
「そうですよね。シズクさんも当然、今の魔王が人類にとって史上最悪の強敵だと思いますよね。でも、違うんです。少なくとも、世界中の多くの人にとっては」
シズクにはしばらく、その言葉の意味も、イルマの悲しみの理由も理解できなかった。本人の中ではこの謎に対していろいろな理由が提出と棄却を繰り返しているのだろうが、おそらくこの答えが出るには長い時間がかかるか、もしくは一生たどり着けない。一方のリクはシズクがいつものドツボにはまっていることに気付き、早々に助け舟を出す。
「人類に協力的で融和的って思われてるんだろう。魔物という資源を人類に提供してくれた存在。人類の発展に寄与してくれている存在として」
イルマは悲しそうに頷いたが、それでもまだ、シズクが気付きを得るまでに数十秒の時間がかかった。
「いやいや。ちょっと待ってよ。本気で理解できない。というか、問題は直近の死亡率上昇だけじゃないでしょ。むしろ、こんなものは本質的な脅威の中のごく一部のわずかな要素でしかない。今のこの世界が、どれだけ絶望的な状態にあるのか。それは前の村の様子を見れば一目瞭然じゃない。あの村、食料含む資源が潤沢にあったのに、周りには畑も牧場もなかった。これがどういうことなのか、今の話聞けばわかるでしょ。今の人類は、通貨発行権どころか、経済のすべてを魔王に差し出してるんだよ。もしも今、アスクレの祭殿の機能を魔王が停止させたら、人類はどうなるの?」
「滅びませんよ。まだ畜産や農耕の知識は残っていますから」
「なら、100年後に停止させたら?」
「それだけかかれば、少なくとも人類も6世代は交代してますし、それだけ使っていなければ畜産も農耕もロストテクノロジー化しているはずで、もう人類には狩猟採集でしか食物資源が確保できません。今の規模を支えることはできずに、滅びますね」
100年で6回の世代交代という予想に、リクは一瞬首を傾げるが、ともあれ。
「魔王による経済支配完了は人類の全滅と同じこと。ごめん。本気で理解できないんだけど、まさか人類ってこんな簡単なこともわからないバカなの?」
王が民の心を理解できないように、賢者には民の思考が理解できない。これこそ、シズクをはじめとして、多くの先進的科学者数学者が抱えている致命的弱点。天体の運動はいくらでも計算できるが、人の気持ちは計算できないことは、もう300年変化していないということになるだろう。
「……話、変えましょうか。今度はお二人のことを聞かせてもらえますか? 二人はどこから旅をしているのか。何故そんなにも多くの叡智に至れているのかを」
本当のことを話していいものか。話したとしてそれがイルマとの今の関係にどのような変化を生むのか。二人は少しだけ顔を見合わせてのアイコンタクトを取ったが、結局、シズクはすべてを話す選択肢を取った。最初は半信半疑だったイルマも、結果としてシズクの言葉を信じる。リクは、イルマが自分たち、特にシズクに対して崇拝に近い感情を抱いてしまわないか不安だったが、結果的にイルマの中での信仰心は好奇心にあっさりと打ち砕かれたようで、これから頻繁にイルマがシズクに知識を求めることになる。たとえ人類が目先のことしか考えられない愚かな存在であるとしても、少なくともイルマはそうではない。これは、シズクがこの世界で幸せを感じるには十分な理由だった。
「ところで、イルマって今年で何歳になるの? 見た感じ一回り年下っぽいけど」
「17歳になります」
「そっかぁ」
もし仮に、自分たちの物語が何かしらの理由で元の世界の日本で語られることになった時。現在の日本ではある種のお約束となっているオタクカルチャー的文化における薄い本が描かれることになってしまうとして、この世界における17歳は12進数での数え方であり、10進数の現代文明においては19歳のイルマの叡智な話は認められるのだろうか。優れた分析力と考察力を、こういったとてもくだらなく下賤なことに使うシズク。その表情を見て、どうせまたろくでもないことを考えているのだろうと予測するリクであった。
「つまり、魔王にとって最も高くつく魔物の部位とは、物を考える部位、脳ってこと?」
「そうなのでしょう。ですから、ほとんどの魔物は戦略行動が取れません」
「まぁ実際、人間の強みって道具を使えることと戦略行動が取れることだからな。素手で殴り合ったら人間は犬にすら勝てないけど、道具を使い、戦略を取ればマンモスでも狩れるわけだし。ここでも人間は軍隊を作っての戦略行動が取れるんだろ? なら、それこそドラゴンみたいな圧倒的な強さの魔物じゃなければ、だいたいは倒せるんじゃないか?」
「はい。というか、そのドラゴンですら人間は倒せます。もちろん、かなりの犠牲は払ってのことですが」
「まぁ魔王が倒せちゃうわけだし、そりゃそうだな。でもそれなら、どれだけ魔物を作れるのか次第でこそあるけど、人間ってそんなに魔物を恐れる必要はないんじゃないか?」
「実は、そうだったんです。11年前までは」
深刻な口調でトーンを落とすイルマ。
「ねぇ、イルマ。最後に魔王が倒されたのって、もしかして11年前?」
頷いて肯定を示す。つまり、11年前に現れた現存の魔王が、この常識を覆したのだ。
「その、今の魔王はどんなやつなんだ? 単純に、生産コストの上限が高いとかじゃないよな?」
「はい。魔王がまず最初に行ったこと。それは、私達がアスクレの祭殿と呼ぶ場所がある洞窟の場所を世界に広めたことでした。この祭殿には、特定の物を捧げることで、捧げた物に応じてありとあらゆる物をもたらす機能があったのです」
「なんだか不穏だなぁ。その特定の物って、まさか人間の心臓か?」
「いえ、リクさんも先程拾っていた、それです」
「それって?」
理解が及ばないリクに対し、シズクはここまでに覚えていた謎の1つの答えを見る。
「なるほどね。金本位制が成り立っていたというか、これこそ魔物が落とす金属めいたものが、貨幣として使えるからくりの正体ってわけか」
「はい。アスクレの祭殿に大量に置かれていた石柱は、すぐに世界中に配布されました。シズクさんも持っているそれですね。これを魔物の死骸に近づけることで、魔物は祭殿に収めることのできる金属に変わります。そしてこれが、金や銀などの希少金属や、肉や穀物、果物などの食料にも交換できるため、結果として、魔物から得られる金属はすぐに通貨として認められるようになりました。その結果、多くの人間による魔物狩りが始まったのです」
「えぇ? そんなの、すぐに魔物が狩り尽くされるぞ。ドードーとか、リョウコウバトの悲劇をこの世界の人たちはまだ知らないんだ」
「違う。そうじゃないよ。すごいよ、今の魔王は。これまでの常識を変え、魔物を人間の脅威に変えたんだ」
「どういうことだ?」
魔王の戦略に舌を巻きつつ、すべてを理解したシズクがイルマに変わって続ける。
「ハーマン・メルヴィルの白鯨って知ってる?」
「アメリカの捕鯨の話だよな? 実際に読んだことはないけど」
「そう。あの話じゃ漁師の人が生きるか死ぬかの戦いをする。19世紀のアメリカは、捕鯨で成り立った国だからね。クジラが取れる肉と鯨油に大きな価値が見出されたんだ。ところで、リク君。クジラって街を襲う?」
「襲わないな。襲うのはサメだろ」
「ちなみにサメに襲われて死んだ人の数って予想よりかなり少ないよ。ホオジロザメですら全然人間を襲った事故例はない。サメは頭が増えたり竜巻に巻き込まれたり霊体化したり機械化されない限りは人類の脅威でもなんでもないんだよ」
「いきなりのサメ映画語りやめろ」
「さておき。そう、クジラは人を襲わない。でも、捕鯨では大量の漁師が死んだ。その理由は、わざわざクジラを狩りに行ったからだよね?」
「あぁ! そういうことか!」
イルマの深く頷き、そこに情報を付け加えていく。
「そうです。これまでは、村の周りに柵を作ったり濠を掘ったりなど、魔物の襲撃に備えることで有利な戦闘が行えていました。しかし、魔物を狩る理由ができた以上、防御地形や罠を作って待ち構える戦術はここでは使えなくなる。逆に、魔物側は1つの発明を行います。それが、ダンジョンです」
「うわぁ、そういう理由でダンジョンが生まれたのかぁ」
「ていうか、これまでダンジョンってなかったんだな」
「ごく一部の賢い魔物ドラゴンなどは自身の住処としてのダンジョンを作っていたようですが、そこまでの知性を持たない魔物までもがダンジョンを作り出したのはイレラミ年前からですね」
ここでリクが一瞬顔に疑問を見せる。おそらく、知らない言葉があったことに対する疑念だろう。チートによって言語は自動翻訳がされているが、二人の世界に概念がない言葉は翻訳されずに音でのみ伝わる。前後の文脈から数字のはずだが、何故かそれが翻訳されず、存在しない概念として扱われた。ここでシズクは納得し「イレラミ」という単語を学習した一方で、リクは聞き間違いか何かだろうと解釈した。これはシズクには前提として数学に関する考察が既に行われていたことに起因する差である。しかし、今はそれを掘り下げるよりも、魔物の生態の話が続く。
「それまではこちらが罠で魔物を迎え撃っていたのに、今は魔物が罠で迎撃してくるってことだ。もちろん、ダンジョン攻略による利潤は得られるんだろうけど、人類の死亡率や平均年齢って意味で言えば、世界全体で明らかな悪化が見られるんだろうね。まるでニトログリセリンの発明後、ダイナマイトの発明前の鉱山だ」
「ちなみに、ダンジョンで最も恐るべき魔物はミミックです。それまではまるで脅威と取られていなかった魔物種なんですけど」
「うわぁ納得。ていうか、ミミックが宝箱に擬態したのではなく、先にミミックがあって、その上で本物の宝箱が用意されたってことだよね。いや、そう考えると凄いね、今の魔王は。明らかに歴代の魔王の中で一番まずい敵だって認識されているんだろうね」
と、ここでイルマはこれまでで一番悲しそうな表情を返す。
「そうですよね。シズクさんも当然、今の魔王が人類にとって史上最悪の強敵だと思いますよね。でも、違うんです。少なくとも、世界中の多くの人にとっては」
シズクにはしばらく、その言葉の意味も、イルマの悲しみの理由も理解できなかった。本人の中ではこの謎に対していろいろな理由が提出と棄却を繰り返しているのだろうが、おそらくこの答えが出るには長い時間がかかるか、もしくは一生たどり着けない。一方のリクはシズクがいつものドツボにはまっていることに気付き、早々に助け舟を出す。
「人類に協力的で融和的って思われてるんだろう。魔物という資源を人類に提供してくれた存在。人類の発展に寄与してくれている存在として」
イルマは悲しそうに頷いたが、それでもまだ、シズクが気付きを得るまでに数十秒の時間がかかった。
「いやいや。ちょっと待ってよ。本気で理解できない。というか、問題は直近の死亡率上昇だけじゃないでしょ。むしろ、こんなものは本質的な脅威の中のごく一部のわずかな要素でしかない。今のこの世界が、どれだけ絶望的な状態にあるのか。それは前の村の様子を見れば一目瞭然じゃない。あの村、食料含む資源が潤沢にあったのに、周りには畑も牧場もなかった。これがどういうことなのか、今の話聞けばわかるでしょ。今の人類は、通貨発行権どころか、経済のすべてを魔王に差し出してるんだよ。もしも今、アスクレの祭殿の機能を魔王が停止させたら、人類はどうなるの?」
「滅びませんよ。まだ畜産や農耕の知識は残っていますから」
「なら、100年後に停止させたら?」
「それだけかかれば、少なくとも人類も6世代は交代してますし、それだけ使っていなければ畜産も農耕もロストテクノロジー化しているはずで、もう人類には狩猟採集でしか食物資源が確保できません。今の規模を支えることはできずに、滅びますね」
100年で6回の世代交代という予想に、リクは一瞬首を傾げるが、ともあれ。
「魔王による経済支配完了は人類の全滅と同じこと。ごめん。本気で理解できないんだけど、まさか人類ってこんな簡単なこともわからないバカなの?」
王が民の心を理解できないように、賢者には民の思考が理解できない。これこそ、シズクをはじめとして、多くの先進的科学者数学者が抱えている致命的弱点。天体の運動はいくらでも計算できるが、人の気持ちは計算できないことは、もう300年変化していないということになるだろう。
「……話、変えましょうか。今度はお二人のことを聞かせてもらえますか? 二人はどこから旅をしているのか。何故そんなにも多くの叡智に至れているのかを」
本当のことを話していいものか。話したとしてそれがイルマとの今の関係にどのような変化を生むのか。二人は少しだけ顔を見合わせてのアイコンタクトを取ったが、結局、シズクはすべてを話す選択肢を取った。最初は半信半疑だったイルマも、結果としてシズクの言葉を信じる。リクは、イルマが自分たち、特にシズクに対して崇拝に近い感情を抱いてしまわないか不安だったが、結果的にイルマの中での信仰心は好奇心にあっさりと打ち砕かれたようで、これから頻繁にイルマがシズクに知識を求めることになる。たとえ人類が目先のことしか考えられない愚かな存在であるとしても、少なくともイルマはそうではない。これは、シズクがこの世界で幸せを感じるには十分な理由だった。
「ところで、イルマって今年で何歳になるの? 見た感じ一回り年下っぽいけど」
「17歳になります」
「そっかぁ」
もし仮に、自分たちの物語が何かしらの理由で元の世界の日本で語られることになった時。現在の日本ではある種のお約束となっているオタクカルチャー的文化における薄い本が描かれることになってしまうとして、この世界における17歳は12進数での数え方であり、10進数の現代文明においては19歳のイルマの叡智な話は認められるのだろうか。優れた分析力と考察力を、こういったとてもくだらなく下賤なことに使うシズク。その表情を見て、どうせまたろくでもないことを考えているのだろうと予測するリクであった。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
MMS ~メタル・モンキー・サーガ~
千両文士
SF
エネルギー問題、環境問題、経済格差、疫病、収まらぬ紛争に戦争、少子高齢化・・・人類が直面するありとあらゆる問題を科学の力で解決すべく世界政府が協力して始まった『プロジェクト・エデン』
洋上に建造された大型研究施設人工島『エデン』に招致された若き大天才学者ミクラ・フトウは自身のサポートメカとしてその人格と知能を完全電子化複製した人工知能『ミクラ・ブレイン』を建造。
その迅速で的確な技術開発力と問題解決能力で矢継ぎ早に改善されていく世界で人類はバラ色の未来が確約されていた・・・はずだった。
突如人類に牙を剥き、暴走したミクラ・ブレインによる『人類救済計画』。
その指揮下で人類を滅ぼさんとする軍事戦闘用アンドロイドと直属配下の上位管理者アンドロイド6体を倒すべく人工島エデンに乗り込むのは・・・宿命に導かれた天才学者ミクラ・フトウの愛娘にしてレジスタンス軍特殊エージェント科学者、サン・フトウ博士とその相棒の戦闘用人型アンドロイドのモンキーマンであった!!
機械と人間のSF西遊記、ここに開幕!!
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる