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第H章:何故倒された魔物はお金を落とすのか

奇跡と魔法/1:魔法のある異世界では竹槍でB29を落とせない戦士は無能とされても仕方ない

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 村を離れて北、深い森と山を抜け、川を渡った先に、商業都市パルマがあるという。そこならば宗教権力の影響も少なく、すぐに命を狙われることもないだろうというのがイルマの談。これといった目的地があるわけでもないシズクとリクにしてみれば、まだ行ったことのない場所に行くのが目的のようなものであり、それに付き合うことに異論が出ようはずがなかった。

 ただ、唯一リクには心配がある。それは、道中で魔物に襲われた際、二人を守って戦うことができるのかという点だった。最悪、シズクに関しては死んでも死なないことがわかっているが、イルマはそうではない。

 チートによって剣術スキルはMAXとなっているらしいのだが、そもそも剣術スキルとは何なのかリクにはわかっていない。舞うように何度も斬り付ける技や、剣に雷光を纏わせての大技を覚えているのかというとそんなことはない。体力や筋力が格段に増強されていることはわかるのだが、それは具体的に100mを何秒で走れるのか、何分間全力疾走を維持できるのか、何キロまでベンチプレスが可能なのか、さらにもっとメタ的に言うなら、攻撃力と防御力とすばやさはいくつなのか。そういったパラメーターを直接確認する術はなく、この先ひとつひとつを試していかねばならない。

 また、ほとんどの魔物が未知である現状、どの魔物は倒せてどの魔物が倒せないのか、すなわち、どの魔物を恐れればいいのかもわからない。恐れとは生物の自己防衛プログラムであるが、それは己を守るためのみに特化したものであり、他人を守る際にはむしろ余計なシステムだ。守るために恐れが不要で、生きるために恐れが必要。この二律背反は二人の女性を守って旅する上では致命的だった。

「あのさ、ちょっと俺、どこまで強いのかいろいろ試してみたいから、二人は安全なところで待っていてくれないか?」
「それはこちらもお願いしたいところなんだけど、安全なところってどこ?」
「魔物は人間を見かけると襲ってきます。村を出ればどこでも死ぬ可能性がありますね」
「それで、村には戻れないと」
「申し訳ありません……」
「いやいや、そういう話じゃなくてね?」

 実力を確かめると同時に二人も守る。それを両立していかねばならないというのが現状の辛い所である。憧れの異世界ハーレムとは、すべてを守る強さによって成立する力の象徴でもあるのかもしれない。最近ではそのハーレム側の女性陣が最強という話も少なくなかったが、少なくともこの理系バカは手からラーメンを出す能力と不良品のアレクサしか持たない戦闘においては無能の塊だ。本当に、チート能力は熟慮の元に獲得しなくてはならないということを、しっかり攻略wikiに記載しなければならない。

「しかし、私のことなら大丈夫だと思います。このあたりの魔物なら自力で対処が可能ですよ」
「え? そうなの? 武器とか持ってないよな?」
「はい。でも、魔法が使えますので」

 さも当然とばかりの言葉に数秒の間があき、遅れて驚きが発生する。

「魔法!? 使えるの!?」
「はい。御覧ください」

 腕を前に構え、軽く目を瞑る。すると、手のひらからビームとしか表現できないような光の柱が照射され、その先にあった巨木が一瞬で炭化した。

「攻撃転用なら、このように」

 特に誇るでもなく当然のように言うイルマを見て、自然とリクに冷や汗が流れる。正直に言えば「引く」という表現がふさわしいだろう。しかし、一方のシズクは違った。

「すごい……それ、どうなってるの? 射程は? 熱量は?」
「射程は見えている範囲です。ねつりょうは、よくわかりません」
「いやでも、木が一瞬で炭化するんだから、5テラジュールよりは上ってことでしょ? これだけのエネルギーをどこから引き出してるの? 燃料は? 何発撃てるの? おなかすかない? ラーメン食べる? いやでも、次郎系でもたったの1000キロカロリーしかないから、足りるわけがないよね……ええっと……ウラン食べる?」
「イルマさんをウルトラ怪獣のように言うな。本人引いてるぞ」
「あぁ、その、えっと、すみません。でも大丈夫です。今くらいの力なら、20発くらいは問題なく」
「もっと上の威力も出せるの? ていうか、攻撃転用って言ったよね? 他の使い方もできるの? そもそも一体何をどうやって……」
「やめとけって!」
「リク君はどっか行ってて。 さっき言ったように自分の力を試してくればいいじゃない。尤も、どれだけ強くてもイルマさんがいればいいから無用の長物だけど」

 言葉が突き刺さる。それは、今の自分の身を支配している無力感の根源に他ならない。

「えっと、なんだっけ、剣道三倍段? これって、相手が超長距離射程で無反動ノーモーション連射可能の兵器持ってる場合、剣道は何倍の段位があれば勝てるの? 少なくとも成層圏近くまでジャンプしてB29をたたっ斬るくらいのことは最低条件だと思うんだけど、できるっていうの?」
「い、いやほら、ゲームじゃ魔法職は後衛で、武器職は前衛って役割分担をするんだよ! 魔法職は打たれ弱いの! だから俺みたいなのは前衛で……」
「索敵と同時に攻撃できるなら、そもそも前衛後衛って概念が前時代的だよね? ミサイル開発してる隣国の前で玉鋼を鋳造して作られた最強の日本刀を復活させて薩摩めいたバーサーカー軍団を育成するって軍事方針を取ってなかった理由わかるかな? よしんば至近距離で襲われたとして、剣よりも予備動作の必要がないスタンガンの方が強いと思うんだけど、どうみてもさっきのビームはスタンガンよりも上だよね? 防御面では正直イルマさんもリク君も私が本気で殴ればよろけるくらいの五十歩百歩だと思うんだけど、リク君はさっきのビーム直撃を受けての炭化を回避するっていう不可能を可能にできるの? 試してみる? ちなみに私は多分蘇生するから耐えられるんだけど、それって、防御力でも私の方が上で、前衛私、後衛イルマさん、無能リク君って陣形が理想的だと思うんだけど、どうかな?」
「お前本当に容赦ないよな……もう俺の心はボロボロだよ……」
「そもそも、その剣術をチート能力でもらった理由で、この世界で役立ちそうと思ったから、それと、かっこいいからって言ってたけど、まず役に立たないし、あと、今のリク君まだ自分がかっこいいと思ってる? 私もう、リク君のこと無能って思ってるよ」

 がくりと膝から力が抜け、体が崩れた。
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