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第二章 船上の証明

第二十四話 船上の乙女

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 船旅は二週間掛かった。
 その間、ひたすら修行をして修行をして修行をして修行をした。

 船の旅ってここまで暇なのか、と驚いた程だ。
 その二週間で僕は自分が今使える魔法を発動させる事が出来るまでには至った。一部の魔法は少し強い効果も引き出せる。

 だけど、それは発動させる事が出来るだけで万全に使えるワケでは無い、どうやらまだまだ修行しなければいけないらしい。
 使えるのと使いこなすのは違うことだってギル兄は言ってた。

 ただ。ずっと修行しているのは身体に毒だとギル兄に促されて何度か甲盤に出て風を浴びろと言われた。

 それでその日、船旅を始めてから五日目の日に夜風を浴びていたんだけれど…これは、その時から航海が終わるまでの出来事なんだ。


―船旅5日目―

 魔法は難しい…そんな事、僕は良く分かっているつもりだったけれど全然、僕の想像よりも難しかった。

 ギル兄さんは傍らで本を読みながら、僕の魔法が発現した時だけこちらに視線をくれていた。

 空中に水を出現させたり、炎を生み出したり、静電気を走らせたり、土を凝縮させたり、風で髪を靡かせたり、色々と頑張っていた。
 だけど、光と闇、それに影、そして…空間魔法に関しては難しいと言うか、想像が出来ないというか、足止めを喰らっていた。

「はぁ」

 夜風に頬を撫でられて、気持ち良さに手摺に頬杖を付いて流れる海の景色をぼーっと見ていた。

 そこに、船室に繋がる扉が開いて誰かが甲板に出てきたのが分かった。目を向けるよりも風を楽しんでいたかった僕は、突然その人が僕の肩に手を添えたから驚いてしまった。

「な…なんですか?」

 振り向いた僕の目に映ったのは妖艶なワインレッドの髪色をした女性だった。

 お化粧はきっとしていないのに、頬は上気しているみたいに赤みを帯びていて、唇は艶やか、まつげだって長くて…うん、大人の女性がそこにいた。

 決してツミレ先生が大人の女性じゃ無かったと言いたい訳じゃ無くて、なんていうか…行動とか、考え方とか以前に大人だって感じさせる凄みがその人にはあったんだ。

「ねぇ坊や?」

 むっ、僕は十五歳なのに坊やだって、失礼しちゃうよね!

 確かに身長も低いし、子供っぽい部分はあるかもしれないけど、僕だって立派な十五歳なんだ。

「坊やじゃないから知りません!」

 顔を背けると目の前でくすくすと笑う声、もしかして、僕のこう言う部分が子供っぽいのかもしれない。

「ごめんなさいね、そうよね、君はもう立派な大人…そうよね?」

 頭を撫でられて、思わず頬が緩みそうになる。この人、頭撫でるの上手いなぁ、頭が撫でるのが上手い人は大好きだな、モデーモさんも上手だったし悪い人はいないんじゃないかな。

「うん!それで、お姉さんはどうしたの?」
「お姉さん!?お姉さんって言ったかしら?」
「う…うん、ごめんなさい、もしかして何か失礼に当たる言葉だったのかな、僕これまで島で育ってきたから大陸の文化に疎くて…」
「いいえ、いいえ違うの、君みたいに純朴な少年がまだいたなんて最高だわ…地元に帰ればおばさん呼ばわりの日々、なんて素敵な出会いなのかしら」

 こんなに綺麗な人をおばさんだなんて呼べないよ…。

 大陸の方ではそれが普通なのかな、だとしたら、今の僕の常識とはかけ離れた現実が一杯舞っているのかもしれない…少し、不安になっちゃったな。

「どうしよう…」
「あら、何か悩みごと?」
「うん、もしも大陸で、お姉さんの事をおばさんって呼ぶのが普通なら、こんなに綺麗な人をおばさんだなんて僕、絶対に呼べないと思ったら文化の違いで圧倒されちゃうんじゃないかなって思ったら…不安で」
「君…ふふ、嬉しい事を言ってくれてありがとう。だけど大丈夫よ、君みたいに素直な子なら、大陸の文化に触れても感動を覚えて喜ぶ事が出来るはずよ」

 その言葉に、僕は考え方が間違っていたんだって気が付いた。

 そっか、僕はこれから全く違う文化に触れる事が出来るんだ。それって、新しい事に出会う日々が始まるって事だよね、だとしたら…ちょっと、楽しみになってきた。

「あら、笑顔が戻ったわね」
「うん、お姉さんのお陰で不安じゃなくなったんだ。ありがとうお姉さん」
「いいえ、私こそ船旅でつまらなかったけれど、君に出会えて良かったわ」

 お姉さんは僕から一歩下がると、身に着けている物を整えて僕に一礼をしてくれた。

「私はアリサス・マージョリ―、君にならアリスって呼んで貰って構わないわ」

 首元のリングから繋がる布地で肌を隠している刺激的な服装のお姉さんは、一礼をした事で少しだけ谷間が強調されて…自然と僕は目をやってしまった。

 気付かれない様に慌てて頭を振って、僕も自己紹介をした。

「僕はアルノート=みゃ…ミュニャコスって言います。みんなからはアルって呼ばれてるよ、よろしくねお姉さん」

 胸の動揺もあって、自分の名前を噛んでしまって赤面しちゃってるかもしれないけど、ちゃんと自己紹介は言いきれた。よくやったぞ僕。

「アル君ね…ふふ、アル君はどうして甲板に、もう夜遅い時間だけど」
「えっと…僕は今、魔法を頑張ってるんだ。だけど、一緒に来てくれてるギル兄さんがずっと修行してちゃ駄目だぞって、甲板で夜風にでも当たって来いって言ってくれたんだ」

「あら、いいお兄さんが一緒なのね、兄弟で大陸に行くなんて素敵ね」
「ううん、兄弟じゃ無いんだ。ギル兄さんは僕の兄貴分で、父さんの親友なんだ」

 それを聞いたアリスさんは何かを考えるみたいに顎に手を当てた。

 そして、しばらくしてから僕に一歩詰め寄って、肩に手を置いて来た。

「アル君、それなら私も魔法を教えてあげる。修行はしないけれど、イメージを掴む練習をしてあげるわ…だから」

 一拍を置いて、アリスさんは僕の眼を見て、その綺麗な金色の瞳で不思議な条件を告げた。

「私の事は、アリス姉さんって呼びなさい」

 船旅を初めて5日目の、僕に姉さんが出来たお話だ。

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