2 / 2
第二話というよりも短編だからこれで完結なので第一話っていうよりさっきの前篇って書けばよかった。
しおりを挟む『ほざけ…虫ケラが』
その手に持ったドス黒い剣の一振り、距離を考えればありえない事だけれど、即座に右に交わした僕の頬を何かが切った。
油断したらすぐにやられる、竦みそうになる恐怖を勇気に変えて―――!
「勝手に、一人で走りだしてんじゃねぇ!!」
背後から聞こえる幼馴染の声に、これ以上ない頼もしさを感じる。
「私だって…お師匠様、私に力を貸して下さい!」
魔法使いの手が魔力の煌きを纏い、光弾が魔王へと迫る。
『こんなものでこの魔王が、この絶対の支配者たる我が、倒せると思うたか!!』
光弾が散らされ、続けざまに煉獄の鎧がその形を変えて背中から生えた触手をうならせて僕等へ迫る。
それを避ける、避けて、避けて、魔王への道を最短距離で突っ走る!
「絶対の支配者であろうとも、僕は諦めない、僕は曲げない、僕は決して―――折れはしない!!」
宣言する、打倒してみせると、折れはしないのだと。
『そんな物を避けただけで良い気になるなぁ!!』
魔王が足を大地に向けて大きく降ろし、その衝撃からか大地が地面の中で爆発を起こした如く隆起して僕へと迫る。
「止まるな勇者!そのまま走れぇ!!」
僕の前に立ち塞がった幼馴染が斧を地面に突き刺してその爆発を受け止めた。
その気概に、応えなければいけない!
戦士の肩を踏み台に跳び、爆発を超えて魔王へと突き進む。
『愚かな、愚かな愚かな愚かな愚かなぁ!!』
着地し、再び走りだした僕へ向けて全てを吸い込むかの如く漆黒の弾が放たれる。
「アナタに勝てるのなら、愚かで結構よ!!」
それを相殺するのは魔法使いが再び放った光弾、今までで一番大きく、暖かい光を放つ光弾だった。
それが最後の一撃だったのか、魔法使いが背後で崩れ落ちる音がした。
『何を望む、何を願う、何が欲しくて貴様等はそこまでする!?』
魔王が咆哮と共に走りだし、僕へと剣を振り下ろす。
僕はそれを伝説の剣で受け止めて、渾身の蹴りを魔王にお見舞いする。
衝撃で魔王は後退するが、そこにダメージが通った様子は無い。
煉獄の鎧、やはり厄介な代物だ。
『それほどの力があれば人族など支配できるはずだ!何故それをしない!?』
「そんな願い、僕は持たない!」
『ならば、何を願う!!』
再び近距離で間見える僕と魔王、足元に突き刺してきた剣を避け、それを足場に高く跳び上がる。
「僕は勝ちたいだけさ!お前に!!」
構えるは伝説の剣、狙うは一点、煉獄の鎧に隠されず剥き出しになっている魔王の頭部。
『そんなもの、この煉獄の鎧の前には―――!!』
腕を上げ、防ごうとした魔王に違和感が走る。
「絶対の防御があるのなら、防げなくするだけだ…!」
魔王の遥か後方、三半規管を揺さぶられ、まともに立つことも出来ない冒険者さん。
その手には薄く輝く細い何かが何本も見えた。
『糸…だと!?いつの間に―――ッそうか、あの時に!』
双剣を用いて突貫したあの一撃の際に、冒険者さんが施した最後の罠。
「証明してやる、希望は、絶望の暗闇を照らす事が出来るってことを―――!」
魔王の頭上、突き出した伝説の剣は、そのまま。
『くっ…クソォォオォオオオォ!!』
―――魔王の頭部、一本の剣が突き立っていた。
魔王は動きを止め、その身体は足元から段々と石へと変わっていく。
パキパキと音を立てて、終に魔王はその身体を石へと変えた。
同時に、四方で大きな爆発音がした。
何の音だろうかと疑問を抱いていたら、いつの間にか僕の傍らに立っていた商人の彼が応えてくれた。
「大方、さっき魔王の野郎が言ってた四幻の塔ってやつだろうよ、今まではその天辺にある炎から煉獄の鎧にエネルギーが送られていたってのに、いきなり送り先が無くなったもんだから爆発を起こしたんだろうさ」
何故、そんな詳しく知っているのだろうかと疑問を抱くも、今にも意識が途絶えてしまいそうで言葉を返す事が出来ない。
「お疲れさん、今は寝てろよ、魔王も倒して休憩が必要だろう」
そう、だけど…まだ、魔王城が残ってる。
「安心しろ、魔王城も、迫害の問題も、全部俺が何とかしといてやる、だから今は休んどけ、ちっとはおっさんを頼ってくれ」
口元にズボンから取り出した煙草を咥え、火を付けながら笑う彼を見て、僕は、意識を失った。
次に目が覚めた時には既に彼はいなかった。
僕はあの戦いから三カ月も眠っていたらしい。
冒険者さんから聞いた話によると、彼は魔王城を見上げると煙草の煙を一吹きして頭をボリボリと掻いたかと思えば城の外壁に近付いていき。
「えいっ」
と小さく言葉を吐いて蹴りをした。
次の瞬間には魔王城がまるで砂の城の如く崩れ去ったのだという。
「正直、彼一人で魔王も倒せたと言われても今なら信じられるよ」
僕もそう思う。
それでも彼は、僕に勇者として戦わせてくれたのだろう。
彼が最後に残した言葉の通り、魔国で起きていた問題は解決していた。
魔国に居た何人もの権力者、彼らを全て討ち果たし、新しく頂点として虐げられていた種族の者を立てたのだと言う。
それではまた迫害が起きてしまうのでは無いかと心配したが、その心配は必要の無い物だった。
彼が頂点に置いた魔物は迫害をしてきた種族に対しても優しく扱った。
それが功を奏したのか互いの種族はいがみ合うことを止めて今では平和な関係を築けているらしい。
と、表向きには言われているが実際はどうにも違うらしく、彼がその時頂点だった魔物を虐殺、こうなりたくなければ善政を敷くようにと恐喝、さらには頂点に立つ者にお話を施し、次に頂点に立つ者にもお話が引き継がれる様にネックレス型の触媒を頂点の証としたらしい。
聞けば聞く程、彼が商人と名乗っていたことが嘘かの様に思える話だ。
「冒険者貸し出しセンター、か」
戦士がそう呟いて、医療塔のベッドから見える窓を見た。
鳥が羽ばたいて空へと消えていく様子を戦士は何を思って見つめていたのか。
「あぁ、そうだ勇者、あの人から伝言がある」
あの人、商人の彼のことだろう。
伝言なんて残さなくても、あの人の事をもう一度貸し出しセンターで指名してお礼を言おうと思っていた僕は、それでも残してくれた言葉が何かを知りたくて耳を傾けた。
「『魔国の問題はどうにかしておいた、あとは人の国での問題だ、勇者、お前に勇気がまだあって、人々の希望になりたいって言うのならこいつを解決しろ、じゃないと俺はお前からの指名は受けてやらないからな』だってよ、不器用な人だけど、あの人なりの応援、ってところだろうな」
「ははっ、困ったな、どうにも僕はまた奮い立たせなくちゃいけないみたいだ、勇気を、この心を」
あぁ、あの人にもう一度会いたい、会って、お礼が言いたい。
その為にも、早く希望となろう。
その為の勇気は奮い立たせればいい、勇者と呼んでくれたあの人の為にも、僕は勇者であり続けよう。
何よりも、それこそが今の僕の願いなのだから。
「そういえば冒険者さん、あの人って、何て名前でしたっけ?最後まで商人さんって呼んでいたものだから」
我ながら薄情だとは思う、僕等は互いに役職で呼び合う形だったのだ。
「それならホラ、あの人の貸し出しの時に使った受注書だ」
そう言って渡された紙はセピア色の紙、そこには彼の役職である商人と、貸し出しの期間、そして彼の似顔絵と名前が書いてあった。
「五日 勇士《ゆうし》…勇士さん、か」
商人という役職であった彼が、一番勇者に近い名前をしていたことに思わず笑いが漏れる。
「結局、あの人は何が一番得意だったのかしらね」
部屋に置かれていた花瓶に水を入れて戻ってきた魔法使いがふとそんなことを口にした。
聞けば、あの戦いの後でボロボロだった僕等を回復してくれたのも彼だという。
本当に多芸な人だと感心して、僕は心の中で整理を付けて考え出した事を口にする。
「勇気付けてくれること…じゃないかな?」
あの人がいたから、僕は最後に勇気を振り絞ることが出来た。
自分の願いに気付くことが出来た。
「いつか聞いてみたいものね」
そう言って窓際に花瓶を置いて、柔らかく微笑んだ魔法使いに冒険者さんが笑いかける。
「惚れたか?ヴッ」
無言で突き出された肘が冒険者さんを襲った。
そんな、いつも通りの日々に僕も戦士も声を上げて笑った。
ありがとう勇士さん、貴方が残してくれたこの日常を僕達は守っていきます。
――――――・・・――――――
「はーっ、疲れた」
俺は自宅の椅子にもたれかかって深く息を吐いた。
相も変わらず埃にまみれた部屋の香りが不思議と落ち着きを運んでくれる。
自宅の匂いというのは遠出から帰って来た時に嗅げば落ち着くものだと実感して眠気が襲い来るのも恒例行事だとあくびを一つ。
自分の手足の指を閉じたり開いたりして軽く眼を覚ましながら、今回の仕事について振り返る。
今回の世界は非常に問題が多い世界だった。
それだけに、俺が多く手を出す事は出来なかった。
数多くの世界に渡る事がある貸し出しセンターに登録している俺には見慣れた光景だ。
俺達はあくまでも脇役、勇者として貸し出されでもしない限り、俺達はその世界の問題を解決してはいけない。
何も条例にあるわけじゃない、何年もこの仕事をしていると自然と分かってくる事だ、俺達が前に立って助け出した世界は、俺達が帰った後にロクな事にならない。
ああした問題を最終的に解決するのは、その世界の住人で無くてはいけない。
だからこそ、俺は魔国と呼ばれるあの場所に介入することも躊躇った。
とはいえ…流石に魔王よりも厄介な存在が揃い踏みしている魔物の頂点軍団をあの勇者一行に任せる事は出来ない。
洗脳魔人に疑心植付、友好反転の使い手に感情爆破の魔法を使ってくる魔物、精神的に未熟な面が多すぎる彼等に任せては間違いなく全滅していたことだろう。
それ故に俺が手を出したワケだが、まぁ下位世界だからな、勝てて当然と言うのはあるが能力が厄介な分、変に時間を使ってしまって結局は魔国での問題を解決したころには貸出期間の三カ月が経過して元の世界に帰ってきた。
去り際に冒険者と呼ばれていた男に勇者に対する伝言を残してきたし、これで俺があの世界に呼ばれる事はもう無いだろう。
もしも呼ばれる事があれば、面倒な事だが祝い事だ。
その時は喜んで出向いてやるとしよう。
香ってきた珈琲の芳醇な香りに、居候が優雅なカフェタイムを楽しんでいるのだと分かり、面白く無い気分になる。
彼、俺の分は淹れてくれないワケね…。
まぁ畑仕事の休憩がてらに呑んでいるだけだろうし、それを邪魔するのも気が重い。
「まぁ何にせよ、ただいまって事で」
誰にでも無く一人部屋の天井を仰ぎ見て帰還の言葉を呟く。
これが日常、俺の日常、狭くて何も無いこの世界で送る、俺だけの日常だ。
ここは、ゼノフ、世界階位最上位に位置する世界で、一番狭くて明るい世界を謳う、冒険者貸し出しセンターと賑やかな街だけがある世界。
0
メインで書いてる作品はこちらになります。どうかお読み頂けると嬉しいです。http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/693101703/
お気に入りに追加
8
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。
突然伯爵令嬢になってお姉様が出来ました!え、家の義父もお姉様の婚約者もクズしかいなくない??
シャチ
ファンタジー
母の再婚で伯爵令嬢になってしまったアリアは、とっても素敵なお姉様が出来たのに、実の母も含めて、家族がクズ過ぎるし、素敵なお姉様の婚約者すらとんでもない人物。
何とかお姉様を救わなくては!
日曜学校で文字書き計算を習っていたアリアは、お仕事を手伝いながらお姉様を何とか手助けする!
小説家になろうで日間総合1位を取れました~
転載防止のためにこちらでも投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる