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Prologue
二つの願い
しおりを挟む「頑張ってね、悠馬君、貴方にはとても強力な力が宿っているは、それに、向こうでは頑丈な体で生きていけるわ」
「…はい」
「…ダメよ、貴方がここに居たいというのは分かっているわ、でもダメ、ここにいては私としか会話が出来ないわ」
「はい」
「私は、貴方にもっと世界を知って欲しいの、世界を巡って、世界を知って、世界と友達になって欲しいの」
「僕に、知れるでしょうか?僕が、世界と友達になれるでしょうか?」
僕は、僕にとっての世界は、あの部屋だけ、あの部屋と本の中の世界だけが僕の世界だった。
そんな僕が、世界と友達になれるのでしょうか?
「貴方は優しい子よ、誰よりも優しい、誰よりも他人に優しく出来るそんな子よ」
「僕は、優しくなんて…」
「…貴方は人を知らなすぎる。だからこそ、人に優しく出来るんでしょうね」
「僕は、育ててもらった両親に何も恩返しを出来ませんでした…そんな僕に、優しさなんて…」
☆
「(彼は、悠馬君は育ててもらってなんていない…ずっと、一つの部屋に押し込められて、知識は本から、彼は、きっとそれが普通では無いことを知っている)」
生まれ、過ごし、本の中で生活してきた悠馬は体が弱いだけだった。
体が弱いだけで、真に才能の塊、星釣という才能を生みだす家の中でも、最高の素質を秘めていた。
「(しかし、彼の親はそこに目を向けなかった。気付かなかった)」
そして、彼は虐げられた。その結果、彼が発揮したのは頭の良さだけ、もしも彼にコンピューターでも与えていれば、それだけで世界を変える程の働きをしたというのに、あの親達はそれをしなかった。気付かなかったから出来なかった。
「貴方がそう思うのなら、これから行く世界で両親と呼べる人を見つけるのよ、そして、その人達に親孝行をするの、見るのは前よ、悠馬君」
これが、彼にとって良い結果になるのかは分からない、でも、良い結果になればと思う。
「君が送る人生に、幸多からんことを」
この一時を共に過ごした彼に送る私の助言、この身で決して行ってはいけない、願いという行為。
☆
「ファーリエルさん、ありがとう、ございました」
涙で濡れる頬に冷たさを感じながらも、僕は言った。
本当は、もっとずっとここにいたい。
本当は、この人の優しさに浸っていたい。
でも、一日だと僕が言ったんだ。それを捻じ曲げることは自分を捻じ曲げることになる。
僕に残された最後の僕自身だけは、捻じ曲げたくない。
「前を、前を見ます」
段々と光が辺りを包んでいく。
優しく僕を包んでくれているファーリエルさんの姿が、段々と薄れていく。
肌に残る暖かさだけが、彼女が僕に触れていてくれたという証明だった。優しさを与えてくれていたという証明だった。
「親孝行もします」
薄れ、薄れ、薄れて空へと昇っていく。
僕だけを残して、周囲の景色が光の粒へと姿を変えて空へと昇る。
やがて、輝きに満ちた真っ白な空間に、僕とファーリエルさんだけが残った。
そのファーリエルさんの姿も、今にも消えようとしている。
「僕はっ…」
嗚咽に近い声、震える声帯が邪魔をする。
「ぼく、はっ…」
ここに居たい。ずっと居たい。
そんな言葉が口から漏れそうになる。
きっとそれを口にしたら、彼女はそうしてくれるだろう。彼女は僕よりもずっと優しいから、こんな僕に、優しさを与えてくれる程に優しいのだから。
だから、その優しい彼女が願ってくれた一つの願いを僕は叶えたい。
僕という人間の全てをもって、彼女の願いを叶えたい。
「僕はっ…幸せになります…!」
だけど、それ以上に―――。
―――どうか、優しい彼女に最大の幸せを。
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