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第三章 ダンジョンへ行こう

3-16 突然の相席

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 戦闘付与魔術についてはいったんあきらめ、冒険者ギルドに戻って夕食をとる。
 いよいよ明日からダンジョン探索だ。
 いやー、ちょっとドキドキするね。
 いつもの日替わりディナープレート、あいかわらず美味いんだけど、教官へのお返し、やっぱこれじゃダメだろうなぁ……。

「こ、ここ、いいかしら?」
「ふぇ?」

 聞き覚えのある声に顔を上げると、デルフィーヌさんがトレイを持って立っていた。
 驚きと緊張で間抜けな声が出てしまった……。
 しかし、なんでデルフィーヌさんがここに?
 そう思って周りを見てみると、夕食どきのせいかほとんど満席だった。
 ほかにもちらほら空いている席はあったけど、どこもみんな酒を飲んでちょっと騒いでるし、ここが一番落ち着けるか……。
 よく見るとトレイを持つ彼女の手が震えている。

「ど、どどどうぞ」

 きっと長時間空席を探して、手がつかれたんだろう。
 正直に言えば彼女と同じテーブルで食事なんて、ちょっと緊張するし、ダンジョン探索を明日に控えたいまは、避けたいなぁとも思うけど、このまま立たせておくのも申し訳ないので、とにかく座ってもらうことにした。

「ありがと……」
「いえ……」

 それから俺たちは、少し気まずい空気のなか、黙々と食事を続けた。
 なにか話しかけたいけど、なにを話しかければ……あ、そうだ!

「あの、デルフィーヌさん?」
「な、なによ!?」

 俺の問いかけに、デルフィーヌさんはビクッと震えて大きな声を出した。
 ……しまった、唐突に声をかけすぎたか。
 でも、ここで黙ってても仕方がないので、俺はなんとか言葉を繰り出すことにした。

「あ、あの、すんません。えっと、その、このあたりで、なにか評判のいいお店って、ありますかね? レストランとか、カフェとか」

 なんとか、聞きたいことは聞けた。
 教官へのお礼だけど、女性目線でなにかいい店があれば、教えてもらいたいんだけどなぁ。

「レストラン? カフェ? なんで!?」

 あ、あれ? なんか怒ってる?
 大して親しくもないのに、こんなこと聞くのは失礼だったか……。

「いや、すいません、なんでもないです。なんとなく知っておきたいなぁ、と思っただけなんで」
「そう……」

 あれ、なんかうつむいちゃったけど……?

「ごめんなさい。私、普段ここでしか食べないから……」

 し、しまった……!
 もしかすると、女性のプライドを傷つけてしまったのかも知れない……。

「ああ、いえいえ! 俺だってここ以外ほとんど使ったことないですし!! なんていうか、ここの食堂ってなにげにレベル高いですよねー?」

 くっ、こんなのでフォローになるのか?
 でも、このまま黙って妙な空気になったら、俺は耐えられそうにない。

「いやぁ、やっぱあれなんすかねぇ。ここじゃなくて、州都のエムゼタとかに行ったほうがいいのかなぁ」
「あ……だったらトルホセの方が」

 おお、なんか場繋ぎで苦し紛れに発した、半分独り言のつもりだったんけど、反応してくれたぞ。

「トルホセ?」
「うん。エカナとトウェンニーザの州境にある、大きな市場が有名な街。あとちょっと遠いけどヘルキサの塔周辺もいまは賑わってるみたい」

 あ、なんか普通に話してくれてる!
 しかも、なかなかいい情報じゃない?

「あ、でもダンジョン近辺って治安が悪いって聞いたけんですけど」
「ヘルキサの塔はいま、ダンジョンコアが停止してて観光地になってるわ。だから冒険者や探索者はあんまりいないはずよ」

 おお、そうなのか。
 しかし、普通に話してくれてると思ったけど、なんか声のトーンが低いような……。
 ちょっと伏し目がちで、目も合わせてくれないし、もしかすると又聞きとかで、情報に自信がないのかもしれないな。
 でも、なにも知らない俺にしてみれば、どんな些細な情報でもありがたいし、なによりこうやって彼女と話せることが、とても嬉しい。

「いろいろありがとうございました! 自分でも調べてみますんで」
「あ……あの、いえ! ど、どういたしまして……」

 ん? なんか顔が赤くなっているみたいだけど……ああ、お酒飲んでるのか。

「じゃ、じゃあ私、いくわね」

 そう言うと、デルフィーヌさんはお酒で顔を真っ赤にしたまま、席を立った。
 彼女にとっては不本意だったかも知れないけど、相席できたうえにいろいろ話せて、俺は少し嬉しかった。
 明日からのダンジョン探索、がんばれそうだな。
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