61 / 100
第三章 ダンジョンへ行こう
3-16 突然の相席
しおりを挟む
戦闘付与魔術についてはいったんあきらめ、冒険者ギルドに戻って夕食をとる。
いよいよ明日からダンジョン探索だ。
いやー、ちょっとドキドキするね。
いつもの日替わりディナープレート、あいかわらず美味いんだけど、教官へのお返し、やっぱこれじゃダメだろうなぁ……。
「こ、ここ、いいかしら?」
「ふぇ?」
聞き覚えのある声に顔を上げると、デルフィーヌさんがトレイを持って立っていた。
驚きと緊張で間抜けな声が出てしまった……。
しかし、なんでデルフィーヌさんがここに?
そう思って周りを見てみると、夕食どきのせいかほとんど満席だった。
ほかにもちらほら空いている席はあったけど、どこもみんな酒を飲んでちょっと騒いでるし、ここが一番落ち着けるか……。
よく見るとトレイを持つ彼女の手が震えている。
「ど、どどどうぞ」
きっと長時間空席を探して、手がつかれたんだろう。
正直に言えば彼女と同じテーブルで食事なんて、ちょっと緊張するし、ダンジョン探索を明日に控えたいまは、避けたいなぁとも思うけど、このまま立たせておくのも申し訳ないので、とにかく座ってもらうことにした。
「ありがと……」
「いえ……」
それから俺たちは、少し気まずい空気のなか、黙々と食事を続けた。
なにか話しかけたいけど、なにを話しかければ……あ、そうだ!
「あの、デルフィーヌさん?」
「な、なによ!?」
俺の問いかけに、デルフィーヌさんはビクッと震えて大きな声を出した。
……しまった、唐突に声をかけすぎたか。
でも、ここで黙ってても仕方がないので、俺はなんとか言葉を繰り出すことにした。
「あ、あの、すんません。えっと、その、このあたりで、なにか評判のいいお店って、ありますかね? レストランとか、カフェとか」
なんとか、聞きたいことは聞けた。
教官へのお礼だけど、女性目線でなにかいい店があれば、教えてもらいたいんだけどなぁ。
「レストラン? カフェ? なんで!?」
あ、あれ? なんか怒ってる?
大して親しくもないのに、こんなこと聞くのは失礼だったか……。
「いや、すいません、なんでもないです。なんとなく知っておきたいなぁ、と思っただけなんで」
「そう……」
あれ、なんかうつむいちゃったけど……?
「ごめんなさい。私、普段ここでしか食べないから……」
し、しまった……!
もしかすると、女性のプライドを傷つけてしまったのかも知れない……。
「ああ、いえいえ! 俺だってここ以外ほとんど使ったことないですし!! なんていうか、ここの食堂ってなにげにレベル高いですよねー?」
くっ、こんなのでフォローになるのか?
でも、このまま黙って妙な空気になったら、俺は耐えられそうにない。
「いやぁ、やっぱあれなんすかねぇ。ここじゃなくて、州都のエムゼタとかに行ったほうがいいのかなぁ」
「あ……だったらトルホセの方が」
おお、なんか場繋ぎで苦し紛れに発した、半分独り言のつもりだったんけど、反応してくれたぞ。
「トルホセ?」
「うん。エカナとトウェンニーザの州境にある、大きな市場が有名な街。あとちょっと遠いけどヘルキサの塔周辺もいまは賑わってるみたい」
あ、なんか普通に話してくれてる!
しかも、なかなかいい情報じゃない?
「あ、でもダンジョン近辺って治安が悪いって聞いたけんですけど」
「ヘルキサの塔はいま、ダンジョンコアが停止してて観光地になってるわ。だから冒険者や探索者はあんまりいないはずよ」
おお、そうなのか。
しかし、普通に話してくれてると思ったけど、なんか声のトーンが低いような……。
ちょっと伏し目がちで、目も合わせてくれないし、もしかすると又聞きとかで、情報に自信がないのかもしれないな。
でも、なにも知らない俺にしてみれば、どんな些細な情報でもありがたいし、なによりこうやって彼女と話せることが、とても嬉しい。
「いろいろありがとうございました! 自分でも調べてみますんで」
「あ……あの、いえ! ど、どういたしまして……」
ん? なんか顔が赤くなっているみたいだけど……ああ、お酒飲んでるのか。
「じゃ、じゃあ私、いくわね」
そう言うと、デルフィーヌさんはお酒で顔を真っ赤にしたまま、席を立った。
彼女にとっては不本意だったかも知れないけど、相席できたうえにいろいろ話せて、俺は少し嬉しかった。
明日からのダンジョン探索、がんばれそうだな。
いよいよ明日からダンジョン探索だ。
いやー、ちょっとドキドキするね。
いつもの日替わりディナープレート、あいかわらず美味いんだけど、教官へのお返し、やっぱこれじゃダメだろうなぁ……。
「こ、ここ、いいかしら?」
「ふぇ?」
聞き覚えのある声に顔を上げると、デルフィーヌさんがトレイを持って立っていた。
驚きと緊張で間抜けな声が出てしまった……。
しかし、なんでデルフィーヌさんがここに?
そう思って周りを見てみると、夕食どきのせいかほとんど満席だった。
ほかにもちらほら空いている席はあったけど、どこもみんな酒を飲んでちょっと騒いでるし、ここが一番落ち着けるか……。
よく見るとトレイを持つ彼女の手が震えている。
「ど、どどどうぞ」
きっと長時間空席を探して、手がつかれたんだろう。
正直に言えば彼女と同じテーブルで食事なんて、ちょっと緊張するし、ダンジョン探索を明日に控えたいまは、避けたいなぁとも思うけど、このまま立たせておくのも申し訳ないので、とにかく座ってもらうことにした。
「ありがと……」
「いえ……」
それから俺たちは、少し気まずい空気のなか、黙々と食事を続けた。
なにか話しかけたいけど、なにを話しかければ……あ、そうだ!
「あの、デルフィーヌさん?」
「な、なによ!?」
俺の問いかけに、デルフィーヌさんはビクッと震えて大きな声を出した。
……しまった、唐突に声をかけすぎたか。
でも、ここで黙ってても仕方がないので、俺はなんとか言葉を繰り出すことにした。
「あ、あの、すんません。えっと、その、このあたりで、なにか評判のいいお店って、ありますかね? レストランとか、カフェとか」
なんとか、聞きたいことは聞けた。
教官へのお礼だけど、女性目線でなにかいい店があれば、教えてもらいたいんだけどなぁ。
「レストラン? カフェ? なんで!?」
あ、あれ? なんか怒ってる?
大して親しくもないのに、こんなこと聞くのは失礼だったか……。
「いや、すいません、なんでもないです。なんとなく知っておきたいなぁ、と思っただけなんで」
「そう……」
あれ、なんかうつむいちゃったけど……?
「ごめんなさい。私、普段ここでしか食べないから……」
し、しまった……!
もしかすると、女性のプライドを傷つけてしまったのかも知れない……。
「ああ、いえいえ! 俺だってここ以外ほとんど使ったことないですし!! なんていうか、ここの食堂ってなにげにレベル高いですよねー?」
くっ、こんなのでフォローになるのか?
でも、このまま黙って妙な空気になったら、俺は耐えられそうにない。
「いやぁ、やっぱあれなんすかねぇ。ここじゃなくて、州都のエムゼタとかに行ったほうがいいのかなぁ」
「あ……だったらトルホセの方が」
おお、なんか場繋ぎで苦し紛れに発した、半分独り言のつもりだったんけど、反応してくれたぞ。
「トルホセ?」
「うん。エカナとトウェンニーザの州境にある、大きな市場が有名な街。あとちょっと遠いけどヘルキサの塔周辺もいまは賑わってるみたい」
あ、なんか普通に話してくれてる!
しかも、なかなかいい情報じゃない?
「あ、でもダンジョン近辺って治安が悪いって聞いたけんですけど」
「ヘルキサの塔はいま、ダンジョンコアが停止してて観光地になってるわ。だから冒険者や探索者はあんまりいないはずよ」
おお、そうなのか。
しかし、普通に話してくれてると思ったけど、なんか声のトーンが低いような……。
ちょっと伏し目がちで、目も合わせてくれないし、もしかすると又聞きとかで、情報に自信がないのかもしれないな。
でも、なにも知らない俺にしてみれば、どんな些細な情報でもありがたいし、なによりこうやって彼女と話せることが、とても嬉しい。
「いろいろありがとうございました! 自分でも調べてみますんで」
「あ……あの、いえ! ど、どういたしまして……」
ん? なんか顔が赤くなっているみたいだけど……ああ、お酒飲んでるのか。
「じゃ、じゃあ私、いくわね」
そう言うと、デルフィーヌさんはお酒で顔を真っ赤にしたまま、席を立った。
彼女にとっては不本意だったかも知れないけど、相席できたうえにいろいろ話せて、俺は少し嬉しかった。
明日からのダンジョン探索、がんばれそうだな。
0
お気に入りに追加
306
あなたにおすすめの小説
落ちこぼれの烙印を押された少年、唯一無二のスキルを開花させ世界に裁きの鉄槌を!
酒井 曳野
ファンタジー
この世界ニードにはスキルと呼ばれる物がある。
スキルは、生まれた時に全員が神から授けられ
個人差はあるが5〜8歳で開花する。
そのスキルによって今後の人生が決まる。
しかし、極めて稀にスキルが開花しない者がいる。
世界はその者たちを、ドロップアウト(落ちこぼれ)と呼んで差別し、見下した。
カイアスもスキルは開花しなかった。
しかし、それは気付いていないだけだった。
遅咲きで開花したスキルは唯一無二の特異であり最強のもの!!
それを使い、自分を蔑んだ世界に裁きを降す!
はぁ?とりあえず寝てていい?
夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。
※第二章は全体的に説明回が多いです。
<<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>
【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話
yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。
知らない生物、知らない植物、知らない言語。
何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。
臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。
いや、変わらなければならない。
ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。
彼女は後にこう呼ばれることになる。
「ドラゴンの魔女」と。
※この物語はフィクションです。
実在の人物・団体とは一切関係ありません。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
黄金蒐覇のグリード 〜力と財貨を欲しても、理性と対価は忘れずに〜
黒城白爵
ファンタジー
とある異世界を救い、元の世界へと帰還した玄鐘理音は、その後の人生を平凡に送った末に病でこの世を去った。
死後、不可思議な空間にいた謎の神性存在から、異世界を救った報酬として全盛期の肉体と変質したかつての力である〈強欲〉を受け取り、以前とは別の異世界にて第二の人生をはじめる。
自由気儘に人を救い、スキルやアイテムを集め、敵を滅する日々は、リオンの空虚だった心を満たしていく。
黄金と力を蒐集し目指すは世界最高ランクの冒険者。
使命も宿命も無き救世の勇者は、今日も欲望と理性を秤にかけて我が道を往く。
※ 更新予定日は【月曜日】と【金曜日】です。
※第301話から更新時間を朝5時からに変更します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる