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幕間
休日の過ごし方 後編
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休日の町をぶらつき、お稲荷さんの祠を見つけ、豆腐屋さんでお供え物の油揚げやらを購入。
「油揚げはどうするね? お供えするならこのままでいいかい?」
「えーっと、そうですね。お供えしたあとの油揚げはどうすればいいんですか?」
「どうするもこうするも、オイナリさんが持って行っちまうよ」
なんだか不思議そうな表情で見られたよ。
そうか、ここはファンタジー世界だもんな。
「じゃあそのままください」
受け取った木綿豆腐と醤油の小瓶を冷蔵庫に『収納』し、油揚げは指でつまんで祠に供える。
ちょうどいい大きさの皿が備え付けてあるので、そこに油揚げをのせた。
巾着からタオルを取り出して軽く手を拭き、一応手を合わせておく。
(いろいろあって最初は大変だったけど、いまは元気にやってますよ……っと)
「おお?」
目の前にあった油揚げが、瞬時に消えた。
なんというか、祈りが通じたような気分になっていいね、これ。
「また来てねー!」
俺が去ろうとすると、おばちゃんが声をかけてきたので、軽く会釈しておく。
さらに街をぶらぶらしていると、銭湯らしきところを見つけた。
元の世界での俺の入浴スタイルは、いわゆるカラスの行水ってやつで、基本的に湯船にはつかならない。
シャワーも、最低限の時間しか浴びない。
なので、とくに入浴に対する執着はない。
浄化施設で綺麗になるし、ギルドの寝台で寝れば疲れも取れる。
入浴の必要性は感じない。
……のだが、半月以上シャワーも浴びてないという状況が続くと、不思議と風呂が恋しくなるもんだ。
たぶんここで銭湯を見なければ、どうってことはなかったんだろうけど、目にしたからには、風呂に入りたくなるってのが人の性。
もう営業は始まっているようなので、のれんをくぐる。
「いらっしゃい」
番頭は、メガネをかけた爺さんだった。
メガネをかけてはいるが、実際レンズは入っていない
伊達メガネというわけではなく、この世界のメガネには、そもそもレンズがない。
フレームに魔術が施してあるので、レンズなしでも視力補正ができるのだ。
便利だよな。
「初めてなんですけど……」
「そうかい。えーとね、入浴は5G、タオルのレンタルは1G。あとロッカー使うんなら銅価1枚用意しておいてくれ」
「じゃあ入浴とタオルを」
ってことで、銅貨6枚を爺さんに渡す。
ロッカーは、コインロッカー式になってんのね。
ま、俺の場合《収納》があるから、いらんのだけどね。
服を脱いで《収納》し、タオル片手に風呂場へ入る。
作りは日本の銭湯に近いかな。
この世界みたいなヨーロッパ風のファンタジー世界だと、風呂はサウナだけってのが異世界もののパターンとして多いんだが、ここはちゃんと湯船があるわ。
ただ、体洗うところにシャワーや蛇口がなく、真ん中に細長い大きな水槽みたいなのがあって、そこに湯が張ってある。
たぶんここから桶ですくって、湯を浴びるんだろうな。
とりあえず、水槽のお湯を桶ですくって浴びてみると、浴びた先から綺麗になっていくのがわかる。
(こりゃ《浄化》作用があるなぁ)
つまり、石鹸でゴシゴシ洗わなくてもいいってわけだ。
そういうのが好きな人には物足りないんだろうが、俺的にはこっちのほうがありがたい。
全身にくまなく湯を浴び、最後に頭からかぶって湯船に向かう。
時間が早いせいか、他に誰も客がいないんだよな。
タオルを頭に乗せ、広い湯船にひとりでつかる。
「ふいー……」
気の抜けた声が漏れる。
ああ、風呂っていいな……。
これからも、定期的に入ろう。
**********
風呂を上がって銭湯を出たあと、さらに街をぶらぶらした。
「お、兄ちゃんこんな時間に風呂上がりかい? だったらビールの1杯でもどうよ?」
「そこのおにいさん、ビールに合う串焼きなんてどうだい?」
「おいおい、ビールがカラじゃねぇか。容器は俺が返しといてやるから、おかわりにワインでもどうだ?」
「あっちから歩いてきたのかい? つかれたろうから、ウチでスープでも飲みながら休んでいきなよ」
ってなぐあいに、屋台の誘いをできるだけ受けながら、買い食いを堪能し、冒険者ギルドに戻った。
普段酒は飲まないんだけど、なんか休日のダメ親父みたいな過ごし方をしたかったので飲んでみたが、悪くなかったな。
ギルドに帰っても腹は減ってなかったので、熱いお茶だけもらって寝台へ行く。
寝台についた俺は、豆腐と醤油を取り出した。
かなり冷えていたので、ちょっと時間をおき、ちょうどいいころ合いを見計らって、醤油を垂らす。
箸はないので食堂でスプーンを借り、醤油のかかった豆腐をすくって食べた。
「ンマァーイ!」
冷奴といえば普通は絹ごしかも知れないが、俺は圧倒的木綿派なので、冷奴だろうが木綿だ。
味も食感も、元の世界の豆腐とほとんど変わらない。
むしろ、スーパーで売ってるような量産品よりも、断然こっちのほうが美味い。
熱いお茶をすすりながら、木綿の冷奴を食べる。
うーむ、至福のひと時だ。
飲んべえなら、ここで日本酒でも飲むんだろうけど、あいにく俺にはひとり晩酌の習慣がない。
それ以前に、米を原料にした酒を、まだ見かけていないんだけどね。
お茶でいいのだよ、お茶で。
あ、ちなみにお茶だけど、たぶん元の世界に似た品種の茶葉があるらしく、緑茶、紅茶、烏龍茶を楽しめるんだぜ。
あとはハーブティーとか、そういうのもあるな。
しかし、元の世界では食事にも風呂にも、とくにこだわりはなかったんだけどなぁ。
働いてマトモな生活をしていると、こういうところに幸せを感じるようになるんだろうか?
豆腐を食べ終えた俺は、食器類を洗面台で洗い、豆腐皿は《収納》し、スプーンとコップは明日返すことにして、少し早いが眠ることにした。
「油揚げはどうするね? お供えするならこのままでいいかい?」
「えーっと、そうですね。お供えしたあとの油揚げはどうすればいいんですか?」
「どうするもこうするも、オイナリさんが持って行っちまうよ」
なんだか不思議そうな表情で見られたよ。
そうか、ここはファンタジー世界だもんな。
「じゃあそのままください」
受け取った木綿豆腐と醤油の小瓶を冷蔵庫に『収納』し、油揚げは指でつまんで祠に供える。
ちょうどいい大きさの皿が備え付けてあるので、そこに油揚げをのせた。
巾着からタオルを取り出して軽く手を拭き、一応手を合わせておく。
(いろいろあって最初は大変だったけど、いまは元気にやってますよ……っと)
「おお?」
目の前にあった油揚げが、瞬時に消えた。
なんというか、祈りが通じたような気分になっていいね、これ。
「また来てねー!」
俺が去ろうとすると、おばちゃんが声をかけてきたので、軽く会釈しておく。
さらに街をぶらぶらしていると、銭湯らしきところを見つけた。
元の世界での俺の入浴スタイルは、いわゆるカラスの行水ってやつで、基本的に湯船にはつかならない。
シャワーも、最低限の時間しか浴びない。
なので、とくに入浴に対する執着はない。
浄化施設で綺麗になるし、ギルドの寝台で寝れば疲れも取れる。
入浴の必要性は感じない。
……のだが、半月以上シャワーも浴びてないという状況が続くと、不思議と風呂が恋しくなるもんだ。
たぶんここで銭湯を見なければ、どうってことはなかったんだろうけど、目にしたからには、風呂に入りたくなるってのが人の性。
もう営業は始まっているようなので、のれんをくぐる。
「いらっしゃい」
番頭は、メガネをかけた爺さんだった。
メガネをかけてはいるが、実際レンズは入っていない
伊達メガネというわけではなく、この世界のメガネには、そもそもレンズがない。
フレームに魔術が施してあるので、レンズなしでも視力補正ができるのだ。
便利だよな。
「初めてなんですけど……」
「そうかい。えーとね、入浴は5G、タオルのレンタルは1G。あとロッカー使うんなら銅価1枚用意しておいてくれ」
「じゃあ入浴とタオルを」
ってことで、銅貨6枚を爺さんに渡す。
ロッカーは、コインロッカー式になってんのね。
ま、俺の場合《収納》があるから、いらんのだけどね。
服を脱いで《収納》し、タオル片手に風呂場へ入る。
作りは日本の銭湯に近いかな。
この世界みたいなヨーロッパ風のファンタジー世界だと、風呂はサウナだけってのが異世界もののパターンとして多いんだが、ここはちゃんと湯船があるわ。
ただ、体洗うところにシャワーや蛇口がなく、真ん中に細長い大きな水槽みたいなのがあって、そこに湯が張ってある。
たぶんここから桶ですくって、湯を浴びるんだろうな。
とりあえず、水槽のお湯を桶ですくって浴びてみると、浴びた先から綺麗になっていくのがわかる。
(こりゃ《浄化》作用があるなぁ)
つまり、石鹸でゴシゴシ洗わなくてもいいってわけだ。
そういうのが好きな人には物足りないんだろうが、俺的にはこっちのほうがありがたい。
全身にくまなく湯を浴び、最後に頭からかぶって湯船に向かう。
時間が早いせいか、他に誰も客がいないんだよな。
タオルを頭に乗せ、広い湯船にひとりでつかる。
「ふいー……」
気の抜けた声が漏れる。
ああ、風呂っていいな……。
これからも、定期的に入ろう。
**********
風呂を上がって銭湯を出たあと、さらに街をぶらぶらした。
「お、兄ちゃんこんな時間に風呂上がりかい? だったらビールの1杯でもどうよ?」
「そこのおにいさん、ビールに合う串焼きなんてどうだい?」
「おいおい、ビールがカラじゃねぇか。容器は俺が返しといてやるから、おかわりにワインでもどうだ?」
「あっちから歩いてきたのかい? つかれたろうから、ウチでスープでも飲みながら休んでいきなよ」
ってなぐあいに、屋台の誘いをできるだけ受けながら、買い食いを堪能し、冒険者ギルドに戻った。
普段酒は飲まないんだけど、なんか休日のダメ親父みたいな過ごし方をしたかったので飲んでみたが、悪くなかったな。
ギルドに帰っても腹は減ってなかったので、熱いお茶だけもらって寝台へ行く。
寝台についた俺は、豆腐と醤油を取り出した。
かなり冷えていたので、ちょっと時間をおき、ちょうどいいころ合いを見計らって、醤油を垂らす。
箸はないので食堂でスプーンを借り、醤油のかかった豆腐をすくって食べた。
「ンマァーイ!」
冷奴といえば普通は絹ごしかも知れないが、俺は圧倒的木綿派なので、冷奴だろうが木綿だ。
味も食感も、元の世界の豆腐とほとんど変わらない。
むしろ、スーパーで売ってるような量産品よりも、断然こっちのほうが美味い。
熱いお茶をすすりながら、木綿の冷奴を食べる。
うーむ、至福のひと時だ。
飲んべえなら、ここで日本酒でも飲むんだろうけど、あいにく俺にはひとり晩酌の習慣がない。
それ以前に、米を原料にした酒を、まだ見かけていないんだけどね。
お茶でいいのだよ、お茶で。
あ、ちなみにお茶だけど、たぶん元の世界に似た品種の茶葉があるらしく、緑茶、紅茶、烏龍茶を楽しめるんだぜ。
あとはハーブティーとか、そういうのもあるな。
しかし、元の世界では食事にも風呂にも、とくにこだわりはなかったんだけどなぁ。
働いてマトモな生活をしていると、こういうところに幸せを感じるようになるんだろうか?
豆腐を食べ終えた俺は、食器類を洗面台で洗い、豆腐皿は《収納》し、スプーンとコップは明日返すことにして、少し早いが眠ることにした。
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