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第二章 冒険者活動

2-21 初めての人助け 後編

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 彼女は、俺を助けてくれた。
 結局そのすぐあとに俺が死んで、彼女との出会いも、助けてもらったことも、なかったことになった。
 でも、彼女に救われたという事実は、俺の心に残っている。
 彼女が覚えていなくとも、俺は覚えている。
 だから、俺は必ず彼女を助ける。
 何度失敗しても、必ず助ける。
 それは、世界を救うなんていう、ご大層なお題目なんかより、ずっと大切なことだ。
 すくなくとも、俺にとっては。

「絶対に、助ける」

 俺は自分に言い聞かせるように呟き、森を目指して走り出した。

 彼女が襲われるのは、死に戻りから約1時間後。
 シェリジュの森まで直行しても30分はかかる。
 つまり、猶予は実質30分くらいしかない。

 前回入ったのと同じ場所から森に入り、グレイウルフの生息地を目指す。
 走りながら、彼女のことを考える。

 彼女はなぜ、ひとりで森にいたんだろうか?
 俺と出会ったときも、彼女はひとりだった。
 パーティーは組んでいない?
 彼女はこの森が危険だと知っているはずなのに……。

「くそ……どこだ?」

 焦りから、不安が口を突く。
 前回は声を頼りに進んだから、どこをどう移動したのかを覚えていない。
 なんとなくの感覚で走っているけど、それらしい場所が見えてこない。
 そろそろ、時間が……。

「イヤァァ!!」

 む?

「キャァァ! 誰かぁ!!」

 やっぱそうだ!
 前よりもちょっと近い!!
 
**********

 声を頼りに駆けつけると、ちょうど彼女が走っているのが見えた。
 うしろからグレイウルフの群れが追いかけている。
 やっぱりあのとき助けてくれた娘で、まちがいない。
 よかった。
 今回はギリギリ間に合ったか。

 彼女はときどき振り向いて、魔術を放っているが、牽制にはなっているものの、仕留めるには至っていない。
 しかも、目に見えて追いかけている個体だけでなく、隠れた位置にいるやつも含めると、すでに包囲網は完成しつつあるようだった。
 このまま全速力で向かっても、たぶん間に合わない。
 半分やけくそだが、魔力玉を広範囲にぶっ放すことにした。

「喰らえクソ狼ども!!」

 〈気配察知〉である程度相手の位置を補足し、できるだけ漏らさないように魔力をぶつける。
 放射状に放たれた魔力が、木々をなぎ倒しながらも、グレイウルフの群れを襲う。
 
《レベルアップ》

《スキル習得》
〈酔い耐性〉

《スキルレベルアップ》
〈無魔法〉
〈気絶耐性〉

 かなりの数を倒せたが、それでも木々の影に隠れて、やり過ごした個体もいるようだ。

(MP切れ……!)

 全力で魔力をぶっ放したもんだから、MPを一気に使い果たし、その場に膝をつく。
 少し頭はクラクラするが、意識を失うことはなさそうだ。
 どうやら〈気絶耐性〉が効いてるらしい。
 とはいえ、まともに動ける状態じゃない……。

「はぁ……はぁ……ありがとう……」

 顔を上げると、息を切らせた彼女がいた。
 よかった、間に合った……。
 でも、まだだ。
 〈気配察知〉には、まだグレイウルフの反応がある。

「にげ、ろ……」

 膝をつきそうになるのを必死にこらえ、意地で身体を起こしながら、彼女に告げる。
 俺の先制攻撃を警戒し、様子を見ていた数匹のグレイウルフは、俺が弱ったとみて反撃に移ろうとしていた。

「でも――」
「いいから逃げろぉっ!」

 俺は叫び、最後の力を振り絞って、グレイウルフに向かって駆け出した。
 もうMPが空っぽで、《収納》すら使えないから、槍を取り出すこともできない。槍があっても、いまの状態じゃまともに戦えないだろうけどさ。

「グラアアアッ!!」

 グレイウルフが飛びかかってくる。
 俺はなすすべなく、それを受け止めた。
 ガリゴリと、身体がかみ砕かれていく。
 いてぇけど、声も出ねぇ。
 こんなことなら、気絶したほうが楽だったぜ……。

「うわあああっ!」

 悲鳴のような叫び声。
 なんとか首を動かしてそっちを見ると、彼女が魔術を乱発しているのが見えた。

 ダメじゃないか、逃げないと……。
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