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第二章
第6話 例の場所を目指します
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準備を整えたふたりは、翌朝ギルドに行き、森へ向かうことを告げて町に出た。
薬草採取の依頼は、新人冒険者のためFランク以上の冒険者は受けないようにしよう、という暗黙のルールがある。
また、魔物の討伐依頼はあえて受注する必要はない。
「今年は北のほうで寒さが厳しいらしくてな。コボルトの毛皮があれば、高く買い取るぜ」
とはいえこんな具合に、なにかしらドロップアイテムの需要が高まったときなどに報せてもらえるので、出発前にはギルドに顔を出し、どこへ向かうかは告げておいたほうがいい。
万が一のときの捜索や救出にも役立つので、ギルドへ行き先を申告することは推奨されていた。
「ま、それにしたって義務ってわけじゃないしね。気楽なものよ、冒険者なんて」
草原に敷かれた街道を歩き、ルーシーと話しながら森へ向かった。
念のため、賢人は防災バッグを担いでいた。
この中にある水やようかんには、どうやらHP回復効果があるらしいので、万が一のときの保険だ。
コンパクトなリュックサックタイプなので、行動の邪魔にはならない。
それに、加護を得たことでより重さを感じなくなっていた。
特に寄り道せず、ジャイアントラビットもたまに出現する程度だったので、セタの森へは1時間ほどで到着した。
「こっちのほうに以前通った獣道があるわ。少し遠回りだけど、そっちから向かいましょう」
ルーシーのマップには、細い道が記録されており、それをたよりに森を進む。
森を探索した冒険者たちが踏み固めた道なのだろう。
他の場所に比べて、随分と歩きやすい。
「なにか、いるわね」
立ち止まり、目をこらして遠くを見つめていたルーシーだったが、すぐに目を閉じた。
頭に生えた猫耳が、ピクピクと動きながら、前後左右に向きを変える。
再び目を開いた彼女は、一点を見つめた。
「あっちね。足音からしてコボルトが2匹」
「よくわかるな」
「ま、耳はいいのよ」
身をかがめ、足音を殺しながら歩くルーシーに続いて、賢人も抜き足で歩く。
10メートルほど進んだところで、ルーシーは足を止めて、振り返った。
彼女が無言のまま視線で示した先に、2匹のコボルトが見えた。
賢人が無言で短筒を構えると、ルーシーはこくりと頷き、さっと駆けだした。
会話もなく、とくに合図を決めていたわけでもないのに、なんとなく意思の疎通ができるのは、加護板を通してパーティーを組んだおかげだ。
――バスッ!
光の弾が、コボルトの頭を貫いた。
「ギャワッ!?」
ドサリと倒れ、消滅する仲間の姿に驚くもう1匹のコボルトだったが、次の瞬間には首が飛んでいた。
「【攻撃力】が高いって、いいわね」
そんなことを言いながら、ルーシーは剣を鞘におさめた。
それから何度か魔物に遭遇しながら、森を進んだ。
コボルトの割合が多かったのは、ルーシーの【運】のおかげだろうか。
「ケント、これ持っておいてくれる?」
「ああ」
ルーシーから渡されたコボルトの牙を、賢人はポケットに入れようとした。
「せっかくだし、〈アイテムボックス〉に入れときなよ」
「お、それもそうだな」
加護板を収納するときと同じ要領で念じると、手の中にあったコボルトの牙がフッと消えた。
「あら、道が塞がれてるわね」
獣道を進んでいたふたりを、倒木が遮った。
かなりの巨木で、向こうが見えない。
「あれ? ルーシー、道が……」
ルーシーの加護板をのぞき込むと、先ほどまで〈マップ〉に表示されていた道の先が消えた。
「こういう変化があると、情報が更新されるのよ」
「なるほど」
「さて、この先だけど……」
ひょいひょいと倒木を上ったルーシーが、先を確認する。
「この木さえ越えたら進めるわね」
「わかった」
賢人も危なげなく倒木に上り、反対側へ下りる。
加護のおかげで、身体能力が上がっていることを、改めて実感できた。
「ほら、また更新されたわよ」
見せてもらったルーシーの加護板だが、先ほどまで消えていた道の先が再び現れた。
倒木のところだけ、途切れているような表示だ。
対して賢人の〈マップ〉は、現在位置から見える範囲より先の道は表示されていなかった。
歩き始めると、少しずつ道の表示がのびていく。
オートマッピング機能付きのゲームをやっているような感覚だ。
「こうやって〈マップ〉が更新されていくの、ちょっと楽しいな」
「そうね。マップを広げるのも、冒険者の醍醐味のひとつかもね」
そう言ったルーシーは、少し寂しげな表情だった。
彼女がここ十数年のあいだ、エデの町近郊から外へあまり出られていないことを、賢人は思い出す。
「これから、どんどん広げていこうな」
「そうね、楽しみにしておくわ」
さらに森を進む。
道が少しずつ細くなり、木々や枝葉などの障害物も増え始めた。
そして森に入って2時間ほど経ったころ、完全に道はなくなった。
「〈マップ〉がないと、どの方角を向いているのかさえわからないな」
「ええ。でも、本当にこの先になにかあるのかしら?」
脚に絡みつく草や蔦をよけ、行く手を遮る枝葉を払いながら、賢人の〈マップ〉に表示された青い光点を目指す。
森はどんどん深くなり、日光も届きづらく、昼に近い時間だというのにあたりは薄暗かった。
「ん?」
そんなとき、不意に視界が開けた。
さっきまで目の前にあったはずの木々がなくなり、広場のようなスペースが突然現れる。
「ここは……?」
最初に飛ばされた場所が、こんな風景だったことを思い出す。
「なぁ、ここっていったい、なんなんだ?」
ぽかんと口を開け、あたりを見回しながら、賢人は呟いた。
しかし、ルーシーからの返事はない。
「ルーシー?」
周りを見回してみたが、彼女の姿はどこにもなかった。
薬草採取の依頼は、新人冒険者のためFランク以上の冒険者は受けないようにしよう、という暗黙のルールがある。
また、魔物の討伐依頼はあえて受注する必要はない。
「今年は北のほうで寒さが厳しいらしくてな。コボルトの毛皮があれば、高く買い取るぜ」
とはいえこんな具合に、なにかしらドロップアイテムの需要が高まったときなどに報せてもらえるので、出発前にはギルドに顔を出し、どこへ向かうかは告げておいたほうがいい。
万が一のときの捜索や救出にも役立つので、ギルドへ行き先を申告することは推奨されていた。
「ま、それにしたって義務ってわけじゃないしね。気楽なものよ、冒険者なんて」
草原に敷かれた街道を歩き、ルーシーと話しながら森へ向かった。
念のため、賢人は防災バッグを担いでいた。
この中にある水やようかんには、どうやらHP回復効果があるらしいので、万が一のときの保険だ。
コンパクトなリュックサックタイプなので、行動の邪魔にはならない。
それに、加護を得たことでより重さを感じなくなっていた。
特に寄り道せず、ジャイアントラビットもたまに出現する程度だったので、セタの森へは1時間ほどで到着した。
「こっちのほうに以前通った獣道があるわ。少し遠回りだけど、そっちから向かいましょう」
ルーシーのマップには、細い道が記録されており、それをたよりに森を進む。
森を探索した冒険者たちが踏み固めた道なのだろう。
他の場所に比べて、随分と歩きやすい。
「なにか、いるわね」
立ち止まり、目をこらして遠くを見つめていたルーシーだったが、すぐに目を閉じた。
頭に生えた猫耳が、ピクピクと動きながら、前後左右に向きを変える。
再び目を開いた彼女は、一点を見つめた。
「あっちね。足音からしてコボルトが2匹」
「よくわかるな」
「ま、耳はいいのよ」
身をかがめ、足音を殺しながら歩くルーシーに続いて、賢人も抜き足で歩く。
10メートルほど進んだところで、ルーシーは足を止めて、振り返った。
彼女が無言のまま視線で示した先に、2匹のコボルトが見えた。
賢人が無言で短筒を構えると、ルーシーはこくりと頷き、さっと駆けだした。
会話もなく、とくに合図を決めていたわけでもないのに、なんとなく意思の疎通ができるのは、加護板を通してパーティーを組んだおかげだ。
――バスッ!
光の弾が、コボルトの頭を貫いた。
「ギャワッ!?」
ドサリと倒れ、消滅する仲間の姿に驚くもう1匹のコボルトだったが、次の瞬間には首が飛んでいた。
「【攻撃力】が高いって、いいわね」
そんなことを言いながら、ルーシーは剣を鞘におさめた。
それから何度か魔物に遭遇しながら、森を進んだ。
コボルトの割合が多かったのは、ルーシーの【運】のおかげだろうか。
「ケント、これ持っておいてくれる?」
「ああ」
ルーシーから渡されたコボルトの牙を、賢人はポケットに入れようとした。
「せっかくだし、〈アイテムボックス〉に入れときなよ」
「お、それもそうだな」
加護板を収納するときと同じ要領で念じると、手の中にあったコボルトの牙がフッと消えた。
「あら、道が塞がれてるわね」
獣道を進んでいたふたりを、倒木が遮った。
かなりの巨木で、向こうが見えない。
「あれ? ルーシー、道が……」
ルーシーの加護板をのぞき込むと、先ほどまで〈マップ〉に表示されていた道の先が消えた。
「こういう変化があると、情報が更新されるのよ」
「なるほど」
「さて、この先だけど……」
ひょいひょいと倒木を上ったルーシーが、先を確認する。
「この木さえ越えたら進めるわね」
「わかった」
賢人も危なげなく倒木に上り、反対側へ下りる。
加護のおかげで、身体能力が上がっていることを、改めて実感できた。
「ほら、また更新されたわよ」
見せてもらったルーシーの加護板だが、先ほどまで消えていた道の先が再び現れた。
倒木のところだけ、途切れているような表示だ。
対して賢人の〈マップ〉は、現在位置から見える範囲より先の道は表示されていなかった。
歩き始めると、少しずつ道の表示がのびていく。
オートマッピング機能付きのゲームをやっているような感覚だ。
「こうやって〈マップ〉が更新されていくの、ちょっと楽しいな」
「そうね。マップを広げるのも、冒険者の醍醐味のひとつかもね」
そう言ったルーシーは、少し寂しげな表情だった。
彼女がここ十数年のあいだ、エデの町近郊から外へあまり出られていないことを、賢人は思い出す。
「これから、どんどん広げていこうな」
「そうね、楽しみにしておくわ」
さらに森を進む。
道が少しずつ細くなり、木々や枝葉などの障害物も増え始めた。
そして森に入って2時間ほど経ったころ、完全に道はなくなった。
「〈マップ〉がないと、どの方角を向いているのかさえわからないな」
「ええ。でも、本当にこの先になにかあるのかしら?」
脚に絡みつく草や蔦をよけ、行く手を遮る枝葉を払いながら、賢人の〈マップ〉に表示された青い光点を目指す。
森はどんどん深くなり、日光も届きづらく、昼に近い時間だというのにあたりは薄暗かった。
「ん?」
そんなとき、不意に視界が開けた。
さっきまで目の前にあったはずの木々がなくなり、広場のようなスペースが突然現れる。
「ここは……?」
最初に飛ばされた場所が、こんな風景だったことを思い出す。
「なぁ、ここっていったい、なんなんだ?」
ぽかんと口を開け、あたりを見回しながら、賢人は呟いた。
しかし、ルーシーからの返事はない。
「ルーシー?」
周りを見回してみたが、彼女の姿はどこにもなかった。
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