聖弾の射手

平尾正和/ほーち

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第二章

第1話 初めての依頼です

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 ルーシーの【攻撃力】は、Eまでしか上げられなかった。
 10、20、40と、消費量は倍々で増えていったので、おそらく次は80ポイント必要なのだろう。
 現在ルーシーの【SP】は62なので、少し足りない。

「他の能力値を上げなくてもいいのか?」
「ええ。まずは【攻撃力】をできるだけ上げておきたいの。できればCを目指したいわね」

 いまのところ【SP】がどういう条件で手に入るのかはわかっていない。
 となれば、無駄遣いはできないということだろう。
 彼女はCランク冒険者になることで、残金云々関係なく自由の身になれる。
 そのための最低条件として、能力値のいずれかがC以上でなくてはならないのだ。

「おや、朝っぱらからお楽しみだったようで」

 1階に下りるなり、女将にからかわれた。

「あの、おばさん、あれはそういうんじゃないっていうか……」
「なぁに、心配しなくても客のプライベートを吹聴したりしないよ」
「いえ、だから、そういうんじゃなくて……」

 なんとか言い訳をしようとしたが、結局ルーシーは諦めた。
 こういうとき、下手に言い訳をするのは逆効果だろうと、賢人は最初から諦めていたが。

「少し早いけど、メシにしよう、ルーシー」
「……わかった。じゃあおばさん、ランチプレートふたつ」
「あいよ。お昼は別料金だからね」

 徐々に混み始めた宿の食堂で食事を終えたふたりは、再び冒険者ギルドに戻った。
 こちらの酒場には昼食どきだというのに、人はあまりいなかった。
 この時間、多くの冒険者は外に出ているのだ。

「さて、どの依頼を受けるかだけど」

 ルーシーに連れられ、掲示板の前に立つ。
 そこには依頼票が所狭しと張り出されていた。
 依頼ごとに難易度が設定されていて、Gランクパーティーのふたりが受けられるのはF難度の依頼までとなる。
 G難度はドブさらいや引っ越しの手伝いといった、町中の依頼が主なものになり、Hランクの未成年冒険者が受けることが多い。
 ちなみに、H難度というものはない。

「とりあえず薬草採取でいいかしら?」
「ああ」

 F難度の依頼になると、ようやく町の外での依頼が混じってくる。
 その中でも、薬草採取は常設の依頼だった。

「魔物の討伐はE難度以上なんだったな」
「ええ、そうね。でも遭遇してしまった場合は倒してしまっても問題ないわ」

 冒険者とは本来魔物と戦うことを主目的とした職業であり、そのために加護は与えられるのだ。
 依頼受注の有無にかかわらず、倒せる魔物は倒してしまって構わないし、その際に得たドロップアイテムも納品可能だ。
 そして、それによって評価を上げれば、冒険者ランクを上げることも、もちろんできるのだった。
 ふたりはさっそく、いつもの男性職員に依頼の受注を告げた。

「薬草採取だな。ルーシーはともかくケントは冒険者になったばかりなんだ。あまり無理はしないようにな」
「ああ、忠告ありがとう」

 依頼を受注したふたりは、町を出た。

「このあたりの採取ポイントは全部頭に入っているから、案内はまかせておいて」

 その言葉通り、彼女は手際よく採取ポイントを案内してくれた。
 薬草は種類によって葉のみでいいものや、茎から刈ったほうがいいもの、根を掘らなくてはならないものがあり、採取の仕方も丁寧に教えてくれた。
 ハサミや鎌、移植ごてなど採取に必要な道具はルーシーに借りた。

 先を歩くルーシーが、立ち止まった。

「ルーシー?」
「シッ……」

 振り向いたルーシーは、人差し指に手を当てていた。
 賢人が黙ったのを確認し、彼女は前方を指さす。
 背の高い雑草の隙間を覗くと、ウサギの姿が見えた。

(デカ……!!)

 賢人は思わず息を呑んだ。
 姿形はウサギそのものだが、大きさはカピバラほどもあるだろうか。
 たしかこのあたりの草原にはラビット系の魔物が出るという話だったので、その一種なのだろう。

 ルーシーは無言のまま、彼女自身と賢人を交互に指さす。
 どちらがやるか、という無言の問いかけに、賢人は自身を指さし、それを見てルーシーは頷いた。
 腰のベルトに差した短筒を抜く。

(ホルスターがほしいな)

 そんなことを考えながら、賢人は身を低くして静かに移動し、標的をより見やすい位置でしゃがんだ。
 片膝を立て、もう片方の膝は地面に着ける。
 膝射しっしゃの構えだ。
 ピストル射撃競技に膝射はないが、賢人はライフル射撃の経験もある。
 それを応用すれば問題ない。

(MPを消費して撃つ、か)

 不思議と、その感覚は理解できた。
 身体からなにかが抜け出し、短筒に注ぎ込まれていく。
 どれくらい流し込めばいいのかも、なんとなくわかった。
 スキルの効果だろうか。

(くっ……!)

 意識が揺らぐ。
 構えた短筒がブレかけたが、気合いを入れて立て直した。
 改めて狙いを定める。
 照準を、ウサギの頭に合わせた。
 外すつもりはない。
 引き金を引く。

 ――バスッ!

 ウサギの頭が一瞬ブレた。

「よし……!」

 ドサリ、と音を立てて倒れたウサギは、ほどなく光の粒子となって消滅した。
 あとには毛皮とブロック肉、そして小さな魔石が残った。
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