聖弾の射手

平尾正和/ほーち

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第一章

第29話 ステータスをいじってみます

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「すぅー……」

 賢人から受け取ったミントパイプを咥え、ルーシーは大きく息を吸った。

「はぁぁあああぁぁ……」

 そして大きなため息のように、息を吐く。
 何度かそれを繰り返しているうちに、彼女も落ち着いてきたようだ。

「さっきはごめんね、取り乱しちゃって」

 ベッドに腰掛け、うつむいたままルーシーが小さく言う。

「いや、俺のほうこそ勝手なことを……」

 申し訳なさそうにいう賢人の言葉に、ルーシーが顔を上げる。

「それなんだけど、ほんとにケントがやったの?」
「俺がそう考えたのと同時に、変わったからなぁ」
「……もう1回、できる?」
「たぶん、できる」

 ルーシーはもう一度ミントパイプを吸ったあと、加護板を賢人に差し出した。

「お願い」

 賢人は頷いた。

「次はどうする?」
「もう一度、【攻撃力】を」
「わかった」

 加護板を見ながら、先ほどと同じように念じてみる。

**********
【名前】ルーシー
【レベル】24
【HP】126/126
【MP】63/63
【SP】122→102
【冒険者】F
【魔術士】G
【治療士】G

【攻撃力】G→F
【防御力】H
【魔力】H
【精神力】H
【敏捷性】H
【器用さ】H
【運】S
**********

 前回よりも【SP】の消費量は多かった。
 ランクが上がるにつれコストもあがる、というのはありそうな話である。

「また、上がってる……」

 値の変動した加護板を見ながら、ルーシーは呟いた。

「もう1回、【攻撃力】を……」
「ああ」

**********
【名前】ルーシー
【レベル】24
【HP】126/126
【MP】63/63
【SP】102→62
【冒険者】F
【魔術士】G
【治療士】G

【攻撃力】F→E
【防御力】H
【魔力】H
【精神力】H
【敏捷性】H
【器用さ】H
【運】S
**********

 最初の消費量が10、そして20、40と増えていった。
 ランクが上がるごとに、【SP】の消費量が倍々で増えていくのかもしれない。

「やっぱり、上がってる……」

 しばらく加護板に視線を落としまま肩をふるわせていたルーシーが、顔を上げて賢人を見た。

「夢じゃ、ないよね……?」

 泣いているのか笑っているのか、よくわからない表情だった。

「ああ。間違いなく、能力値は上がってる」
「これで、ランクが……」

 能力値のひとつ【攻撃力】がEになったいま、彼女はEランク冒険者となる資格を得た。
 これだけが、ネックだったのだ。

「あたし……あた、し……」

 口元をわななかせ、絞り出すように、声を出した。
 目にはまた涙が溜まり、ほどなく決壊した。

「あたし……自由、に……うぅぅ……」

 加護板を両手で持ったまま、身を縮め、うつむく。
 膝の上に、ポタポタと涙が落ちた。

「ルーシー……」

 彼女は自由になることを諦めていたような口ぶりだった。
 仮に残金を3000万以下にしてギルド職員になった場合、過去の実績から新人の指導やサポートをすることになるだろうか。
 いまとやっていることは同じかもしれないが、ずっとこの町から出られないか、あるいはギルド側の都合で見知らぬ場所へ行かされることはあるかもしれない。

(就職に近いものはあるかもしれないけど、自分の意志で辞められないのがなぁ……)

 一千数百万シクルを返済するのに十数年。
 それの倍の額をギルドに支払うまで、自由になれない。
 ギルドに身請けされたということで、いまよりも収入の条件がよくなるかもしれないし、悪くなるかもしれない。

(それに、ギルドが身請けできるとも限らないみたいだし)

 そんなことを、彼女は言っていた。

 これは賢人があとで知ったことなのだが、加護奴隷という制度があった。
 ざっくり言えば加護を持ったまま、冒険者の奴隷となるものだ。
 奴隷は所有物扱いになるので、所有者のランク次第では高難度の依頼やダンジョン探索などに同行できるようになる。
 ドロップ運の高いルーシーに目をつけている冒険者は、結構いるのではないだろうか。

 もう一度言うが、ルーシーは自由になることを諦めたような口ぶりだった。
 しかし、冒険者を志願したということは、少なくとも最初は自由の身になることを夢見ていたはずなのだ。
 それが十数年という時間の中で、諦めに変わっていったのだが、ここにきて光明が見えた。
 そして、思い出したのだろう。
 自由になりたかったのだということを。
 理不尽に奪われた自由を、取り戻そうと一度は決意したのだということを。

「一緒にがんばろうな、ルーシー」

 ルーシーを抱き寄せ、なだめるように優しく背中をさすってやる。

「うぅ……ぅぁあああっ……!」

 ルーシーは賢人にしがみつき、彼の胸に顔をうずめ嗚咽を漏らしながら何度も頷いた。
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