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第一章
第25話 ルーシーの能力値を確認しました
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賢人が加護板をのぞき込む前に、ルーシーは加護板の表面を軽くスワイプした。
「あの、笑わないでね?」
加護板を乗せた彼女の手は、少し震えていた。
あまり見せたくないものなのだろうか。
「笑うもなにも、加護のことはよくわかってないから」
安心させるように軽く微笑んだあと、賢人は板をのぞき込む。
画面には能力値のみが表示されていた。
**********
【攻撃力】H
【防御力】H
【魔力】H
【精神力】H
【敏捷性】H
【器用さ】H
【運】S
**********
「これは……」
「おかしいでしょ? いくらレベルがあがっても、全然能力値があがらないのよ」
「なるほど、そういうことか……。たしか、最高能力値のランクにまでしか上がれないんだったな」
「ええ。Fランクだけは例外だけど」
つまり冒険者ランクをEにしたければ、能力値のどれかがEになっていないといけない。
ただし、Fランクだけは功績のみでの昇格が可能だった。
Fランク昇格だけは、能力値を考慮せずギルドへの功績のみが評価される、と規定されているからだ。
「まぁ、俺もレベル1の時点でいくつかGやFがあったもんな」
「最初の昇格だけはかならず経験を積ませる、という意味での規定なんだけど、あたしにはそれがありがたかったってわけね」
彼女が十数年であげた功績のわりに、冒険者としてのランクが低いことの謎がこれで解けた。
「でも、【運】のSは?」
「それよ!!」
弾かれたようにルーシーは顔を上げ、距離を詰めてきた。
黄色い瞳がまっすぐに賢人を捉えている。
(改めてみると、ルーシーって美人だよな……)
いまさらながら、賢人はそんなことを考えていた。
艶のあるショートボブの黒髪は、前髪のひと房だけが白かった。
形のいい眉に、つり目気味の大きな目。
黄色い瞳の中央にある縦長の瞳孔は、いまは少し開いて楕円系になっていた。
鼻は少し小さいが顔全体のバランスを考えるとちょうどいい大きさで、口は小さく、唇も薄い。
上唇の中央が少し上がっているのが、どことなくかわいらしかった。
視界の端では頭に生えた猫耳がピクピクと動いているのが見えた。
「ねぇ、聞いてる、ケント?」
「ああ、ごめん……なんだっけ?」
「だからぁ! その〝えす〟っていうの、なんなの? ギルドで調べてもらったけど、誰も知らなかったのを、なんでケントが知ってるの!?」
鼻と鼻が触れそうな所まで、ルーシーの顔が迫っていた。
少し荒くなった彼女の呼吸に合わせて、温かい息が顔にかかる。
「ちょっと、落ち着いてくれ」
胸の高鳴りをごまかすように、賢人は軽く仰け反り、彼女の顔の前に手を出した。
「さっきも言ったけど、俺は記憶喪失で細かいことは覚えてないんだよ」
「そ、そうだったわね……ごめんなさい……」
手にかかる息が遠ざかっていくの感じ、賢人は腕をおろした。
ルーシーは力なくうなだれていた。
「まず聞きたいんだけど、神代文字についてはどれくらいのことがわかってるんだ?」
落ち込むルーシーの様子に胸が痛んだ賢人は、話せる範囲のことを話しておこうと考えた。
そのまえに、ルーシーを通してこの世界におけるアルファベットの認識を確認しておきたい。
「えっと、わかっているのはランクに使われるAからHの8文字と、【MP】に使われるMとPの全部で10文字だけね」
つまり、ステータス画面に表示され得るもの以外の文字は判明していないということか。
「じゃあSという文字についてはなにも?」
「うん。読み方すらわかってないの」
そこでルーシーは顔を上げ、賢人を見た。
目が、少し潤んでいる。
「ケントは、読み方を知ってたよね?」
「ああ」
「じゃあ、順番はわかる?」
「順番?」
「あたしにとって、それはすごく大事なことだから」
「あの、笑わないでね?」
加護板を乗せた彼女の手は、少し震えていた。
あまり見せたくないものなのだろうか。
「笑うもなにも、加護のことはよくわかってないから」
安心させるように軽く微笑んだあと、賢人は板をのぞき込む。
画面には能力値のみが表示されていた。
**********
【攻撃力】H
【防御力】H
【魔力】H
【精神力】H
【敏捷性】H
【器用さ】H
【運】S
**********
「これは……」
「おかしいでしょ? いくらレベルがあがっても、全然能力値があがらないのよ」
「なるほど、そういうことか……。たしか、最高能力値のランクにまでしか上がれないんだったな」
「ええ。Fランクだけは例外だけど」
つまり冒険者ランクをEにしたければ、能力値のどれかがEになっていないといけない。
ただし、Fランクだけは功績のみでの昇格が可能だった。
Fランク昇格だけは、能力値を考慮せずギルドへの功績のみが評価される、と規定されているからだ。
「まぁ、俺もレベル1の時点でいくつかGやFがあったもんな」
「最初の昇格だけはかならず経験を積ませる、という意味での規定なんだけど、あたしにはそれがありがたかったってわけね」
彼女が十数年であげた功績のわりに、冒険者としてのランクが低いことの謎がこれで解けた。
「でも、【運】のSは?」
「それよ!!」
弾かれたようにルーシーは顔を上げ、距離を詰めてきた。
黄色い瞳がまっすぐに賢人を捉えている。
(改めてみると、ルーシーって美人だよな……)
いまさらながら、賢人はそんなことを考えていた。
艶のあるショートボブの黒髪は、前髪のひと房だけが白かった。
形のいい眉に、つり目気味の大きな目。
黄色い瞳の中央にある縦長の瞳孔は、いまは少し開いて楕円系になっていた。
鼻は少し小さいが顔全体のバランスを考えるとちょうどいい大きさで、口は小さく、唇も薄い。
上唇の中央が少し上がっているのが、どことなくかわいらしかった。
視界の端では頭に生えた猫耳がピクピクと動いているのが見えた。
「ねぇ、聞いてる、ケント?」
「ああ、ごめん……なんだっけ?」
「だからぁ! その〝えす〟っていうの、なんなの? ギルドで調べてもらったけど、誰も知らなかったのを、なんでケントが知ってるの!?」
鼻と鼻が触れそうな所まで、ルーシーの顔が迫っていた。
少し荒くなった彼女の呼吸に合わせて、温かい息が顔にかかる。
「ちょっと、落ち着いてくれ」
胸の高鳴りをごまかすように、賢人は軽く仰け反り、彼女の顔の前に手を出した。
「さっきも言ったけど、俺は記憶喪失で細かいことは覚えてないんだよ」
「そ、そうだったわね……ごめんなさい……」
手にかかる息が遠ざかっていくの感じ、賢人は腕をおろした。
ルーシーは力なくうなだれていた。
「まず聞きたいんだけど、神代文字についてはどれくらいのことがわかってるんだ?」
落ち込むルーシーの様子に胸が痛んだ賢人は、話せる範囲のことを話しておこうと考えた。
そのまえに、ルーシーを通してこの世界におけるアルファベットの認識を確認しておきたい。
「えっと、わかっているのはランクに使われるAからHの8文字と、【MP】に使われるMとPの全部で10文字だけね」
つまり、ステータス画面に表示され得るもの以外の文字は判明していないということか。
「じゃあSという文字についてはなにも?」
「うん。読み方すらわかってないの」
そこでルーシーは顔を上げ、賢人を見た。
目が、少し潤んでいる。
「ケントは、読み方を知ってたよね?」
「ああ」
「じゃあ、順番はわかる?」
「順番?」
「あたしにとって、それはすごく大事なことだから」
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