聖弾の射手

平尾正和/ほーち

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第一章

第3話 ひとりで森を歩きました

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 ――バスッ! ……バスッ! ……バスッ!

 短筒の撃鉄を起こし、引き金を引けば、音と衝撃が生まれ、なにかが射出される。
 それは光の弾のようにみえた。
 撃鉄が黒い石を打つたびに、銃口から小さな光の弾丸が飛んでいく。
 それらは吸い込まれるように、狙った位置に命中した。

「なんだこりゃ?」

 理解できない光景だった。
 少なくとも、賢人はこのような光弾を射出する銃の存在を知らない。
 射撃競技にはビームライフルというものもあるが、あれにしたって発射される光線が見えるわけでもないのだ。

 気を取り直して射撃を再開する。
 引き金を引けば、光弾が飛び、木に当たって消える。
 命中精度は大したものだが、威力はまったくない。
 乾いた樹皮を剥がすほどの威力すらなく、ただ消えるだけ。

「おもちゃか?」

 当たっても痛くない光の弾を発射する銃のおもちゃ。
 なるほど、これで遊べば盛り上がりそうだ。
 しかし、ならばなぜこんな古風な短筒の形をしているのだろうか。

「いや、そもそも当たっても痛くないのか?」

 木にダメージはない。
 だからといって、身体に受けても平気だとは限らない。

「……やめとこう」

 無害かもしれないが、もしかしたら怪我をするかもしれない。
 この意味不明な状況にあっては、かすり傷ですら避けるべきだろう。
 救急セットはあるが、だからといって怪我をしていいわけではない。

「さて、これからどうするかな」

 防災セットから水を飲み、練りようかんを1本食べた賢人は、あたりを見回しながらつぶやいた。
 ここがどこなのかは依然わからないし、どこにいくべきかもわからない。
 しかしこの場に留まり続けても意味はない。

「とりあえず、歩こう」

 下手に動けば遭難の恐れはある。
 だが、すでに遭難している状態といってもいいのではないか。
 仮に迷って、ここまで戻れなくなったとして、なにか困ることがあるわけでもない。
 待っていて誰かが来てくれる可能性も低い。
 なら、とりあえず歩こう。
 そう思い、賢人はリュックサックをしっかりと両肩にかけ、短筒を片手に歩き始めた。

「案外歩けるな」

 草木が密集しているように見えた森だが、近づいて見れば人がひとり通れるだけのスペースはそこかしこにあった。
 ときおり邪魔な枝葉や蔦を短筒で払いながら、森のなかを進んでいく。

「本格的に遭難したかな、こりゃ」

 1時間ほど歩き、もうどの方向からきたのかもわからなくなった。
 不安はある。
 不意に叫びたくなるほど怖くなることも。

「すぅ…………はぁー……」

 そんなときはミントパイプを吸って心を落ち着けた。

 ――ガササッ……!

 少し離れたところから、茂みの揺れる音が聞こえた。

「なにか動物でもいるのか?」

 その音は徐々に接近し、やがて足音が混ざり始める。
 なにかがこちらへと走ってきているのか?

「どこだ?」

 賢人は辺りを見回したが、音の発生源を特定できないでいた。
 風にそよぐ草木のこすれる音が邪魔をし、乱立する樹木に音が反響する。
 軽く腰を落とし、警戒していると、すぐ近くの木の陰から、なにかが飛び出した。

「うわぁっ!?」

 声を上げ、短筒を構える。

「――人?」

 現れたのは、人間のようだった。

「あんた冒険者!? ランクはっ!?」

 突然現れた人物は、賢人を見るなりそう叫んだ。
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