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第1章

第20話 ジャンク祭り

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 こめかみのあたりをぺろぺろと舐められる感触に、目を覚ました。

「ニャゥ……ニャアォン」

 俺が目覚めたのを感じ取ったのか、シャノアが心配そうに鳴いた。

「ん……ぐぅ……」

 身体を起こすと、あちこちがきしむ。
 無理な姿勢で寝たせいだろう。

 喉もカラカラだったので、とりあえずペットボトルの水を取り出し、ごくごくと飲んだ。

「ぷはぁ……! ふぅ……」

 喉を潤すと、少しずつ目が冴えてきた。

「ニャオ!」

 再度シャノアが強く鳴いたので、耳のうしろをかいてやる。

「ごめんな、心配かけて」
「ゥナォ……ゴロゴロ……」

 不満げな声を上げたシャノアだったが、すぐに喉を鳴らし始め、俺の手に顔を押しつける。

「あ、魔石が……」

 魔神の腕輪にはめられていたレッドドラゴンの魔石にヒビが入り、艶のあるきれいな黒色がくすんだグレーになっている。

 〈鑑定〉した結果、魔石内の魔力が空になっていた。
 どうやらこれで、ギリギリ間に合ったようだ。

 俺はとりあえず空になった魔石ごと、腕輪を〈収納〉した。

「ふぅ……にしてもどれくらい寝てたんだ?」

 シャノアに尋ねるように呟きつつ、スマホを取り出そうとしたが、すぐに思いとどまる。

「俺の扱いはどうなってる? 行方不明か……?」

 おそらくジンはあのあとダンジョンに帰り、俺とはぐれたことを伝えたはずだ。
 となれば、捜索隊が組まれた可能性は高い。

 地上だとほぼすべての地域で通信ができるスマホだが、ダンジョン内だとそうはいかない。
 なにせ基地局を建てても、モンスターに破壊されてしまうからな。

 ダンジョン内にはいくつものセーフエリアが設置され、ダンジョン入口とセーフエリア同士は通信が可能だ。
 だがダンジョンと地上とは隔絶された世界らしく、その境界線を越えられる通信手段はない。
 ケーブルを引っ張っても、なぜか途切れてしまうのだ。

 そしてセーフエリア外の通信だが、スマホ自体が電波のようなものを常に発信しているので、近づけばちょっとしたデータのやりとりや位置情報の確認くらいは可能だ。
 昔でいうBluetoothの広範囲版みたいなものだろうか。
 俺は最新機種を使っているので、半径100メートルくらいには電波が届く。

 ただし、〈収納〉から出していればの話だけど。
 〈収納〉内にあるスマホは、完全に外界とシャットアウトされてしまうので、一切の通信ができない。

「ここでスマホを出せば、居場所がバレるな」

 捜索願が出されていれば、地上にも捜索網が張られることになっている。
 そして日本全域が通信エリアなので、すぐに補足されてしまうだろう。

「いまは、身を潜めておいたほうがよさそうだ」

 俺が生きて帰ったと知れば、ジンは必ず口封じに動くはずだ。
 はっきりいってアイツに勝てる気はもちろん、逃げられる気もしない。

 なので当面は、行方不明を装うことにした。

「さて……」

 立ち上がり、家に上がる。
 居間の時計を見ると、0時少し前だった。

 2時間ほど、眠っていたのか。

「少しは、ましになったかな」

 さすが魔素の濃い日本だけあって、無理な姿勢とはいえ睡眠をとったことで、少しばかり疲れは取れていた。

「ふぅーっ……!」

 俺は大きく息を吐きながら、居間のソファにどっかりと座る。
 あとをついてきていたシャノアが、ぴょんと膝に飛び乗ってきた。
 いざ座ってみると、身体の芯が重いと感じた。

「さて、と」

 自分の手を見て、状態を〈鑑定〉する。

 寝る前にマナポーションを飲んだのと、眠ったおかげで、魔力は8割方回復していた。

「生命力が、減ってるな……」

 どうやら世界を越える〈帰還〉を使ったことで、足りない魔力を生命力で補ったようだ。

「ライフポーション……」

 ぼそりと呟いたあと、膝の上で丸まったシャノアを見て、小さく首を振る。

 護衛のマリアンさんに使ったライフポーションだが、まだ4分の1ほど残っていた。
 それを飲めば、ある程度生命力は回復するだろう。
 でもシャノアがあちらの世界で無事に過ごせる保証がないいま、緑の小瓶を空にするわけにはいかない。

 ――ぐぅぅううぅぅ……。

 盛大に腹が鳴る。
 トマスさんたちとの夕食を終えて、まだそれほど経っていないはずだ。
 それでもここまで腹が減るのは、〈健康〉スキルが生命力を回復させようとしているせいだろうか。

「なんにせよ、メシだ」

 そう思い立った俺は、シャノアの背中をポンポンと叩いた。
 そのまえにトイレに行っておきたかったのだ。

「……ニャ」

 すると彼は顔を上げ、短く鳴いた。
 そしてクンクンと鼻を動かしながら、こちらに顔を近づけてくる。

 いや、下りてほしいんだけどな。

「しょうがない……よっこせいせー」

 俺はシャノアを抱きかかえながら、立ち上がる。

 すると彼は、前足で軽く俺の身体を押して、拒絶の意を示した。
 シャノアはあまり、抱かれるのが好きではない。

「はいはい」

 抱えたまま身をかがめてやると、シャノアはぴょんと床に飛び降りた。

「ふぅ……」

 トイレから戻った俺は、ふたたび居間のソファに座る。
 シャノアは、水を飲んでいた。

 さて、なにを食うかな。
 さっきはトマスさんのところで、高級料理をいただいたことだし……。

「よし、ジャンク祭りだ」

 俺はローテーブルにトリプルチーズバーガーとフライドポテトL、ナゲット15個、ポテトパイ、そしてコーラLを取り出した。
 バーガー類はまだできたてのように温かく、コーラはキンキンに冷えている。

 これらはジンのために買っておいたものだ。
 あのヤロウ、もう2度とダンジョンで出来たてのバーガーを食えると思うなよ。

「じゃあ、いただきます」

 ひさびさに食べたファストフードは美味かった。
 これでも少し物足りなかったので、コンビニで買ったモンブランを追加し、コーヒーと一緒に楽しんだ。

 さぁ〈健康〉スキルよ、このカロリーを生命力に変えてくれたまえ!
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