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二週目 ~今は、こんなに気持ちいい。~

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「……二週間目だけど、どんな感じ? そろそろ慣れた?」

 シャワーの温度を調節しながら尋ねると、一呼吸おいて「慣れたけど……なんかムラムラしやすくなった」と返ってきた。

「慣れたのに?」
「……なんていうか、シリコンとかなら違うんだろうけど、ステンレスだし、ちょっと動くと貞操帯? 付けてるのを実感するわけで……四六時中、ことあるごとに股間意識しちゃうんだよ。それで、その度に、あー、でも触れないんだな、って再認識してモヤモヤするっていうか……」
「ふうん、そういうものなんだ。仕事の邪魔になったりする?」
「んー、集中してる時は大丈夫」
「そっか。なら、よかった。プロジェクト成功して、今がガンバリ時だもんね!」
「うん、ありがとう」

 へへ、と笑う拓海に笑顔を向けながら、私はタオルの棚から緑の養生テープを取りだした。

「……萌? なにそれ」
「養生テープ」
「見ればわかるけど……何に使うの?」
「うん。あのね、この間は初めてだし、うっかり忘れちゃってたけど、貞操帯を外すときは射精管理する人がされる人の手を拘束しないといけないらしいの」
「拘束? 手を?」
「そう。自分で触ったり、興奮して管理者に襲いかかったりできないように。ということで、後ろ向いて」
「でも……」

 渋る拓海に「ルールだから。守れないならゲームオーバーだよ」と念を押せば、ノロノロと後ろを向く。
 背中でそろえた拓海の手首に養生テープを、ビッ、ビーッ、ピッ、と巻きつけて、ちぎる。
 ゆるいような気もするが、初めての拘束だ。最初はこんなもので良いだろう。

「……ここまでしなくても」

 小さなぼやきが耳に届いた。

「うん。じゃあ、こっち向いて」
「はいはい」
「腕、きつくない?」
「うん、まぁね」
「本当は、手錠とかでキチンとした方がいいんだろうけど……そこまでするのはちょっとねぇ。どう思う? 手錠、買った方がいいかな?」

 困惑気味に尋ねれば、ぶんぶんと拓海は首を振った。

「いや! これで良いと思うよ!」
「そう? よかった! じゃあ、鍵、外そうか」

 ホッとしたように笑いながら、ワインレッドのブラウスのボタンに手をかける。
 ぷちぷちと開けていく間、少しずつ露わになる胸に拓海の視線が注がれていることを意識する。

「……ぁ」

 いつもある位置にペンダントトップがないことに気がついたのだろう。
 鎖の先、鍵がどこに埋まっているのかも。

「……うっかりなくさないように、大事にしまっておいたの」

 ボタンを外しおえ、前をはだけて、細い鎖を左右から摘まみ、ゆっくりと引きあげる。拓海の顔を見つめながら。
 脇肉総動員セクシーブラックブラで普段以上に寄せてあげた胸の間、みっちりホールドされた鍵が上がってくる。
 ずりずりと硬い感触と期待に満ち満ちた拓海の視線に、ブラジャーの下で胸の先がチリリと疼く。

「……萌」
「何?」
「早く外して……もう痛い」
 
 ねだる声の切実さに、胸の奥まで甘く疼いた。



 軽く洗うだけで暴発寸前まで追いこまれたものに冷水シャワーを浴びせながら、そういえば手袋を忘れていたな、と思いだす。
 管理を始める前は「ゴム付きでも他の女の中に入れたものを素手で触るなんてムリ!」と思っていたのに。
 自分が管理している自分の所有物だという実感が、嫌悪感をやわらげてくれるのだろうか。

 ――いや。思いだしたら、ムカついてきた。

 すっかり忘れて、この状況を――たぶん――楽しんでいる拓海にも自分にも。
 キュッとシャワーをとめ、だいぶクールダウンした物を摘まんで、どぢゅりとローションを搾りだす。

「っ、だから、冷たいって……っ」
「適温だとすぐ出ちゃうでしょ? 拓海のためだよ」
「そうだけど……え、萌、何か怒ってる?」
「うん。ちょっと嫌なこと思いだしちゃって」
「そうなんだ……何か会社で嫌なことでもあった?」
「……まあね」
「そっか。……言いたくないならいいけど、悩みとかあったら相談してよ」
「……うん、ありがとう」

 おまえがいうな――とツッコミたくなるのを笑顔で流し、私は右手に怒りをこめて、ことさらゆっくりと丁寧にローションを塗りたくった。
 先っぽのくびれから、血管がビキビキに浮きあがった竿の根元まで。自分の指をパレットナイフにみたてて、ショートケーキに生クリームを塗るように、そうっとそうっと薄くまんべんなく伸ばしていく。
 握らず、扱かず、生殺しの刺激に上向いたものがビクビクと悶えるさまをジックリと見つめながら。

「あのさ、萌、そういうの適当でいいからっ、早く、ちゃんと扱いて……!」
「そう? この間みたいにすぐ出ちゃったら勿体ないかなって思ったんだけど?」

 小首をかしげて上目遣いに尋ねれば、スッと拓海は視線をそらした。

「……どうする? 扱いていい? たぶん、すぐ出ちゃうだろうけど」

 追いこむように聞きながら、左手で根元を握り、右手で先っぽを包みこむように指を這わせた。

「ねぇ、どうする?」

 答えを待つ。
 拓海の唇が開いて、結んで、くっと噛みしめられて、はぁ、と吐息にゆるんで。

「……しごいて。がんばるから」

 悔しそうな「お願い」に心からの「いいよ」を返した。



 ゆっくりで十二回、少し速めて七回、指で裏筋をひっかけるようにして先っぽ集中、強め、速めで三十六回目の扱きで拓海は射精した。

 ――意外と、もった・・・な。

 ぴゅっ、ぴゅっ、と吐きだされるものを眺めながら、微笑ましいような気持ちになる。
 男のプライドをかけた耐久戦。
 最後の方は、精一杯下半身に力を入れて耐えようと踏んばっていたせいで、ガニ股気味になっていた。

 ――スマホで撮っておけばよかったかも。

 それこそ会社で嫌なことがあったときに見れば、ストレス解消になるだろう。
 ふふ、と笑いながら、最後の一滴まで搾りだすように根元を握って、ぐちゅりと扱きあげる。

「~~っ、ぅ、……っ」

 指の輪が先っぽを抜ける瞬間、反射のように拓海が腰を引き、「――ぁ」前のめりにバランスを崩した。
 ドッと肩にかかる重み。とっさにギュッと受けとめて、ゆっくりと拓海を座らせる。

「……大丈夫? 顎、ぶつけなかった? ごめんね。ローション使いすぎちゃったね」

 扱いている間に先走りと混じって、ボッタボッタとバスタブ内外に落ちていた。足を滑らせてもおかしくない。

「ん……大丈夫。ありがとう」

 照れくさそうに拓海が顔を上げて、のぞきこんでいた私と目が合った。

「……めぐみ」

 スッと拓海の顔が近付いて、スッと私は遠ざかる。
 あ、と声をもらした拓海の瞳が切なげに揺れる。

「……キス、しちゃダメ?」

 すがる声に首をかしげ、自分の心を探ってみる。
 見つかった答えは「まだ、イヤ」だった。
 もっと拓海が完全に私のものになったと思えるまで、したくない。

「萌、キスしたい」

 したくない、けれど。

「……口はダメ。でも……」

 私は膝立ちになって、ぽつぽつと白濁が飛んでしまったブラジャーに両手をかけて、「ここならいいよ」と上へと引きあげた。

「――っ」

 ぷるんと弾んだ胸の先に食らいつかれて息を呑む。
 吸われて、噛まれて、舐めまわされて、久しぶりの刺激に息が弾む。
 じゅっ、と強く吸いあげられて、胸を刺す甘い痺れに、ふらりと後ろに傾いて。

「んんっ」
 
 引きとめるように噛みつかれた。

「……もー、痛いよ」

 拓海の頭を抱いて、叱るように髪を引っぱってやれば、悪戯をした犬が許しを乞うようにペロペロと舐められる。

「ふふ、くすぐったい」

 笑いながら拓海の耳を爪の先でくすぐりかえす。
 んふ、と熱い鼻息が胸にかかって、ぷはり、と拓海が顔を上げた。

「……はぁ、萌、俺さ……」
「ん、なに?」
「やっぱ、萌のおっぱいが一番好きだわ」

 恍惚とした声に、とろけかけていた頭の芯が冷えた。

 ――へぇ。一番、ねぇ。

「ん、やばい。また勃った。……なぁ、萌、やっぱ一回だけじゃ足りないって。もう一回、出させてよ」

 甘ったるくねだる声に「だーめ」と口調だけは甘く返しながら「絶対させてやんない」と決意する。
 ルールをゆるめたら管理の意味がない。
 実家で昔飼っていた柴犬のモカはパピー教室に通わせ、お利口さんになったのに、その後、母が甘やかしたせいで、人間の食事中に「何食べてるの? ねえ、ちょうだい! ちょうだいってば! こんなに可愛いのに何でくれないの? 自分達だけずるい!」と吠えつづける子になってしまった。
 根負けした母がオカズをちょくちょく分けてあげつづけて、その結果、モカは腎臓を悪くして十歳で虹の橋に旅発つことになった。
 半端な躾は、ためにならない。
 躾は、される側のためにも厳しくしないといけないのだ。きっと。たぶん。あてつけなんかじゃなくて。

「一回だけ。それが、ルールだよ。PKで一回蹴ったのに、ボールが戻ってきたからもう一回蹴らせて、ってごねたら退場させられちゃうでしょう? それと一緒だよ」

 やさしくやさしく拓海の頭を撫でながら、言いきかす。

「……わかった」
「よかった。……あー、でも、私も、おっぱい吸われてちょっと興奮してきちゃった」
「えっ」

 パッと拓海が顔を上げる。

「じゃ、じゃあ、俺と――」

 期待に満ち満ちた瞳をしっかりと見つめかえしながら、ニコリと微笑んだ。

「だから、自分でするね」

 え、と目を見開く拓海を置いて立ちあがり、タオルの棚の奥、使っていないメイクポーチを取って、チャックを開けて手を入れる。

「ほらこれ、去年のハロウィンの拓海からのプレゼント」

 パステルピンクのミニローター。拓海と三回使っただけだから、電池は充分残っているはずだ。
 親指サイズのローター部分を指でつまんで、見せびらかすように拓海の前に戻って膝をつく。
 右手にローター、伸びた線、左手にコントローラー。ぽちりとスイッチを入れて、響くモーター音に拓海の喉が大きく動いた。

「……おっぱいは、拓海に任せるね」

 甘くねだりながら、コントローラーを床に置き、左手で拓海の頭を引きよせた。

「めぐ――」

 ぎゅっと押しつけ、口を塞ぐ。

「拓海は一回イッたでしょ? 次は私の番。ね、きもちよくして?」

 耳たぶをくすぐり、首筋に軽く爪を立てれば、ぶるりと拓海の背が震えた。
 ちゅ、と吸いつかれたのを合図に、右手を脚の間にすべらせる。

「――っ、ん」

 軽く脚の付け根をなぞるだけで、伝わる振動に息が乱れる。
 乾いたところに当てるのは痛いだろうと、そっと指先で確かめてみれば、自分でもビックリするほど濡れていた。
 ぬるりとすくった蜜をクリトリスにまぶして、その軽い刺激にさえ喉が鳴る。
 直接当てたらどれほど気持ちいいだろう。
 はあ、と大きく息を吐いて、吸って、よし、と押しつけた。

「~~っ、ぁ、はっ、んん、ぁ、あっ」

 言葉にならない声と喘ぎがあふれ、ヴヴヴと響く振動音と水音に混じる。
 興奮しきった状態で与えられる刺激は強烈で、勝手に逃げる腰を自分で追いかけて押しあてて、また逃げて。はたからみればローターの快感に腰をくねらせているようにしか見えないだろう。

「……っ、エッロ」

 拓海の目にも、きっとそう映っている。
 かぷりと食いつかれた胸にかかる拓海の息が、舌の動きが荒々しいものへと変わる。

 ――あぁ、拓海も興奮してるんだ。

 一回出したとは思えない、急角度で上向くものを目にして、きゅん、と甘い疼きが強まる。
 以前は、拓海の前で乱れることが恥ずかしくて、怖かった。変な顔になっていないかな、嫌われたりしないかな、と。
 不感症気味なのかもしれない、と悩んだこともあった。でも、たぶん違う。余計なことを考えすぎていただけだ。

 ――だって、今は、こんなに気持ちいい。

 目をつむり、与えられる快感を貪って。
 ローターの振動と拓海の舌。
 二つの快感が混じりあって、背筋を這いあがる痺れが頭にまで届いて――私は、イッた。
 ぎゅっと拓海の頭を抱きしめて、髪をつかみながら。自分のことだけを考えて。
 これじゃ、ほとんどオナニーと変わらない。
 それなのに、今までで一番、気持ちがよかった。



「……めぐみ」

 かすれた呼び声に恍惚からさめる。
 痺れる身体を動かして、ローターのスイッチを切る。それから、はぁあ、と息をついた。

「……ありがと、拓海。すっごく、よかった」

 えへへ、と笑うと「そっか、よかった」と拓海は笑って、目を伏せた。
 眉を寄せ、俯く表情が苦しそうで、少しだけ可哀想になる。
 でも、我慢だ。

「……拓海」
「わかってる」

 拓海が溜め息をついた。

「一回だけって、ルールだもんな。……わかってるから、ちゃんと……わかってる」

 ぽつぽつと自分に言いきかすように繰りかえす。

「そう、よかった」

 うなだれる拓海の頬を撫で、湿った髪に指を沈める。

「……じゃあ、また来週ね」

 顔を寄せ、甘く耳元で囁けば、拓海は何かを言いかけ、のみこんで、へらりと泣きそうな顔で笑ってみせた。

「うん、楽しみにしてる」と。



 こうして、第二週も終わった。

 まだ、半分。
 たった二週間なのに。
 拓海の管理を始める前の自分が、どんなだったか。
 もう思いだせない、戻れないくらい、何もかもが変わってきていた。
 
 
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