悪徳令嬢と捨てられない犬

犬咲

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どうか捨てないで。

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「ふざけやがって……今さら……ふざけやがって」

 ぶつぶつと繰りかえしながら、ジャックは私のささやかな胸をつかみ、つんと寒さにとがった薔薇色の先端をひねりあげた。

「っ、ぅう、ぁあっ」

 ぐりぐりと嬲られて響く、強い刺激は痛みのようで、少しの甘さが混じっているようで、じわりと視界が滲む。
 このような状況でも、心のどこかで嬉しいと思ってしまう自分がいた。
 たとえ、世界の強制がなかったとしても、公爵家の娘である私がジャックと結ばれる未来は望めなかっただろう。
 会ったこともない男に嫁がされ、散らされるはずだった純潔を、今夜、彼に捧げられるのならば、きっと悔いはない。
 たとえ、彼にとっては、ただの復讐だとしても。
 
「乳首ひねられて感じてるのか? この淫乱が……!」

 冷たくなじる声に涙があふれ、ギュッと目をつむり顔を反らすが、がしりと頬をつかまれ、正面へと戻された。

「逃げるなよ。復讐させてくれるんだろう? 全部、ちゃんと見て、受けとめてくれよ」

 胸から腹へと滑る骨ばった手が脚の間へと潜りこみ、くちゅりと響いた水音に、ジャックの眉がひそめられる。
 恥ずかしさのあまり消えいりたくなった。

「……さすが、高貴なお嬢様は、ずいぶんと感度がよろしいことで。犬だの屑だの役立たずだの罵っていた相手に触られて、何でこんなに濡れてるんですかねぇ?」

 なぁ、教えてくれよ――と言いながら、ジャックはわざと音を立てるようにして、ぐちゅぐちゅと割れ目をなぞり、ひくつく蜜口に指を差しいれた。
 異物感とぴりりとした痛みに、ひぐ、と息をのみ、逃げようとした腰をつかまれ、狭い入り口をほぐすようにかき乱される。

「ぅ、っうう、あ、おねが、もっとやさし、くっ」

 急いた動きに息を喘がせて乞えば、ぴたりとジャックの手がとまり、ホッとしたのは一瞬で。
 ぐちりと指が抜け、膝をつかまれて、広げられたと思うと鋭い痛みが私を貫いた。
 きゃあ、と上げた声はジャックの手のひらに遮られた。

「っ、きっつ」

 は、と熱い息をつき、ジャックは獰猛な笑みを浮かべた。

「なぁ、痛いか? 痛いよな? あなたが襲ってこいっていったあの女……なんて名前だったか……あの御令嬢にあなたが与えようとしたのと同じ痛みだよ。自業自得だ。……くそっ、何が、嫁にいけない身体にしてこいだ……人の気も知らないで……!」

 がしりと腰をつかまれ、突きあげられて、もがいたつまさきが宙をかく。
 脱げた靴が転がり、ぱしゃんと水の音が響いた。

「はぁ、……はは、ざまあみろ」
「ジャック……っ」
「残念だったなぁ、愛する王子様にとっておいた純潔を、こんな犬に奪われて。くやしいよなぁ? ……目ぇ閉じないで、ちゃんと見ろよ! 今、あなたを抱いてるのは俺なんだよ!」

 ジャックの言葉にも動きにも容赦がなかった。
 憎しみを恨みをぶつけるように、獲物を貪るように、がつがつと腰を叩きつけられ、ボロボロと涙があふれる。
 心も身体も引きさかれそうに痛かった。

「ぁ、うっ、ぅう、ごめんなさ――」
「謝られても許せるかよ。何もかも、今さらすぎるんだよ!」
「ご、ごめんなさ……っ、ごめんなさい……!」
「謝るなって、言ってるだろう!」

 それでも謝罪の言葉をこぼすと、片手で喉をつかまれ、絞めあげられた。

「っ、ぐ――」

 息がとまり、頭の芯が白くかすんでゆく。

「あなたの情けなんていらなかったのに……!」

 がくがくと揺れる視界で、黒く燃えるジャックの瞳を見つめる。

「俺にだって伝手くらいあった! あなたが、あんな業突く張りの婆の足元に這いつくばる必要なんてなかったんだ! 今さら天国に、少しでも近付こうとでも思ったのか? 今さら、やさしくなんてしやがって! 最後まで屑でいてくれれば、俺は、さっぱりあなたのことなんて忘れて、あなたを捨てられたかもしれないのに!」

 怒りに染まった顔が歪み、ふっと指の力が緩んだ。

「捨てられたかも、しれないのに……っ」

 ぎりり、と奥歯を噛みしめて、ジャックは呻くように呟いた。

「……あなたが俺を捨てても、俺はあなたを捨てられない」

 夜の湖のように揺らいだ瞳から、ぽたりと落ちた熱い滴が私の頬を濡らした。

「……愛してる。ずっと、どうしても、あなたを愛しているんだ」
「捨てないで」

 気付けば、そう口にしていた。

「イライザ、さま……?」
「どうか捨てないで。あなたとずっと、一緒にいたい」

 今度こそ、世界にも邪魔をされずに彼だけを愛したい。
 まなざしに願いをこめて伝えれば、漆黒の瞳が見開かれて。
 ふ、と息をのみ、大きく身を震わせて、ジャックは私の腰を強く引きよせた。

「ぁああっ」

 深みをえぐられ叫んだ唇にジャックの唇が重なって、くしゃりと頭を背を強くかきいだかれながら。
 私は、身の内で爆ぜる彼の熱を感じていた。
 
 
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