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66.ルルとの再会 Side.リオ

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ジードリオ王子との日々を送り、日毎にルルへの気持ちを整理する。
前ほど辛くないのはジードリオ王子のお陰だ。
最近ではルルの姿をしたジードリオ王子とのやり取りを楽しむ余裕も出てきた。
ルルとは全然違う反応を引き出すのも割と楽しい。
ルルとやってみたかったことはジードリオ王子がほぼ叶えてくれたから、これからはジードリオ王子自身を知りたいと思い始めていた。

そんな中、夜の散歩中に中庭へ出たところで眩い光と共にルルが現れ、思わず目を瞠る。
ルルの元気そうな変わらぬ姿に安堵すると共に、落ち着いていたはずの恋心がズクリと疼くのを感じた。
けれど以前のように暴走するような激情ではない。
込み上げてくるのは切なく苦い思いだ。

ルルの表情に俺への恋慕は見られない。
ジードリオ王子が演じてくれているルルは本当に俺を愛おしそうに見つめてくるから、その違いは明らかだった。

(あのルルは本物のルルじゃない)

それがよくわかった。
けれどそこに悲しみはない。
だからこそ俺は落ち着いて動けたのだろう。

「リオ。ただいま」
「……おかえり」

屈託なく笑いながらこちらを見るルル。
そうだ。ルルはこんな感じだった。
まだひと月も経っていないのになんだかとても懐かしく感じてしまう。

「寒いだろう?温かくしていないと風邪を引くぞ?」
「ありがとう」

肌寒くなってきたのに薄着なルルに気づき、そっと肩掛けをかけてやると可愛く笑って礼を言うルル。
そんな姿に以前の自分なら一喜一憂しただろう。
でも今の自分の心は穏やかだ。

「リオ。急にいなくなってゴメンな」
「……ああ」

どこかバツが悪そうに言ってくる姿に、少しでも申し訳ないと思ってくれていたのかと思いつつ、無事を確かめるようにそっと抱き寄せ『無事でよかった』と口にした。

幻ではないルルを腕に閉じ込め、その温もりをしっかりと感じ取る。
けれど最初に感じた恋情は鳴りを潜め、今ではすっかり落ち着いている。

自分の中でルルが大切なことに変わりはない。
好きだと言う気持ちもまだくすぶってはいる。
けれど瞼の裏に浮かぶのは、ここ数日の偽りのルルの姿だった。

(おかしなものだな)

そのルルの姿が俺の心を支えてくれているなんて…。

そんな俺にルルは『時間が大丈夫なら少し話したい』と告げてきた。
きっと強引にあちらへ行ってしまった手前、俺に説明しようとしてくれたのだろう。
こういう真面目なところも俺は好きだったなと思い出す。

それからベンチへと二人で移動し、ルルが状況の説明をしてくれた。
とは言えわからないことも少なからずあった。
そもそも俺はルルからの手紙を受け取ってはいない。
ヴァーリア王女に預けたようだが、俺の手元に来なかったということはジードリオ王子が止めたのかもしれない。
ルルが姿を消した当初の俺の精神状態が散々だったのは誰が見ても明らかだったし、優しさから渡さなかった可能性が非常に高いと思った。

何はともあれ、ルルはあちらで召喚されてしまった者達と接触を図ったらしい。
彼らはルルの姿を見て、国に帰れるとも聞いて、涙を流して喜んだそうだ。
手紙だけでは得られなかったであろう安心感を与えられたとルルは穏やかに語った。

そして今回こちらに帰ってきたのは確実に彼らをこちらに戻すための打ち合わせのためだと言う。
つまり、またすぐにあちらへ戻ると言うことらしい。
ルルは言い出したら聞かない。
それは今回の件でも明らかだ。
それなのに『行かせてほしい』なんて言ってきたから思わず苦笑してしまった。
反対しても、どうせ行くと決めているのだろうに。
ルルなりに俺を気遣って言ってくれたのだろうとわかっていても、中途半端な優しさはこちらを困らせるだけだ。
これまでずっとこれに振り回されてきた自分はきっとまだまだ子供過ぎたのだろう。
精一杯背伸びして大人ぶってはきたけれど、きっとジードリオ王子ならこんなルルを前にしても振り回されたりはしないはずだ。

「……本当は行って欲しくないが、どうせルルは何を言われても行く気なんだろう?」

こうして現実を突きつけて答えを待つと思う。

「ああ」
「じゃあ止めても無駄じゃないか」
「ゴメン」

そして自分のやっていることをちゃんと本人にわからせるんだ。

(あの人は概ねそういう人だ)

優しいだけじゃなく、諭すこともできる人。
それがジードリオ王子だと思う。
いつのまにか俺の中で彼の存在が大きくなっていたことに苦笑が漏れた。
自分はどれだけ弱っていたのだろうか?

そして俺は目の前でしょんぼりしながら反省するルルを見て、一つの願いを口にすることにした。

「その代わり、ルルに頼みたいことがある」
「なんだ?」
「明日、きっとジードリオ王子がルルにノートを渡してくると思うんだ」
「ノート?」
「そう。俺のことが詳細に書かれたノートだ。できればそれを俺にもらえないか?」

あの人はあのノートにどんな風に俺のことを記したのだろう?
きっとルルに引き継ぐためにと丁寧に書いたのだとは思うけど、実際にこの目で見て確認してみたかった。
そのためにも状況を全く分かっていないルルにきちんと説明をしなくてはいけない。

そう思いながら俺はこれまでの経緯を一つ一つ丁寧にルルへと語った。
驚き戸惑うルルの姿を新鮮に思いつつ、ジードリオ王子の扮するルルとの違いを改めて思い知る。

「それにしても…兄上も思い切ったことをしたなぁ」

それはまあ俺もそう思う。
けれどそれもこれもルルの尻拭い兼俺の為だ。

「リオは素直に騙されてくれるタイプじゃないことくらい分かると思うんだけど」

そんなルルの言葉に俺は思わずクスリと笑ってしまう。

「ジードリオ王子は俺のそういう面は知らないんだから仕方がない」

(俺も見せてないしな)

ルルよりも俺のことを知ってくれているジードリオ王子だけれど、きっと俺にそういった一面があるなんて思いもしないだろう。
あの人はある意味純粋だから。

「あ~…兄上は基本的に子供は子供って見てるところがあるしな」
「でもそんなジードリオ王子の優しさに俺は救われたよ」
「そっか。それならよかった」

穏やかな空気が俺達二人の間に流れて、俺はそろそろケジメをつけなければなと吹っ切るように覚悟を決めた。
このままダラダラと中途半端に気持ちを引きずるよりも、ここですっきりさせてしまおう。
きっとその方がいい。

「ルル」
「ん?」
「…………正直に答えてほしい」

その言葉にルルがハッとしてこちらを見てくる。
そんなルルに真剣な目で俺は尋ねた。

「ルルは俺よりあの男の方が好きか?」

その問いに、ルルは誤魔化すことなくストレートに答えてくれる。

「ああ。俺はバドが好きだ」
「それは…もう覆ることはないんだな?」
「ああ。ゴメン」

ゆるぎない言葉にツキンと胸が痛む。
けれど以前振られた時とは違い、俺はその言葉を素直に受け入れることができた。

「いや…いいんだ。振られる覚悟はちゃんとできていた。こんな風に落ち着いて聞けたのもきっとジードリオ王子のお陰だと思う」

彼のお陰で俺は気持ちの整理ができたし、こうして自分の気持ちにケジメをつけるべくルルに向き合うこともできた。

(これで…やっと前に進める)

「ルル。さっきのノートの件は忘れないでくれ」

そして俺はそっとベンチから立ち上がり、一つの恋に終止符を打った。



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