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64.そしてカウントダウンは始まった。

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その後しっかりノートの内容を頭に入れ終わったところで解放されたため、父へと報告を入れ、今後のスケジュールも伝えておいた。
今度はちゃんとあちらへ行く許可も無事に取れたし、問題はないと思う。
ついでに『協力者にするならヴァーリアではなくエーデルトにしておけばよかったものを』なんて言われてしまった。
確かにそうしていたらフォローは完璧で、ジードリオ兄上もあんなに怒らなかったかもしれないが、全て後の祭りだ。
真摯に反省しよう。

それから俺はリオと昼食を一緒に摂りながら色々とあちらであったことを話した。

「あっちは魔素の量が凄くて、魔力過多症にならないか心配になったから即席で魔法を作ったんだ」
「ルルらしいな」

他にも楽しく魔法の話をして、新しい魔法開発がしたいんだと盛り上がっていたら途中で様子を見に来たであろうジードリオ兄上に遠目に睨まれた。
話の内容は聞こえていないはずだけど、俺ばっかり話してるのがダメだったんだろうか?
そんなに睨まれても基本的に俺達はいつもこんな感じだったんだし、しょうがないじゃないか。
リオも笑ってないで助けてくれればいいのに。

「リオ。ジードリオ兄上が怖いんだけど」
「心配して様子を見に来てくれたんだろう?優しいじゃないか」
「それはそうだけど、普段穏やかな人ほど怒ったら怖いって言うのがすっごくわかってさ…」
「そうか。そんなに怒ってたのか」
「もう怖いなんてもんじゃなかったんだ。まあ…それだけリオを悲しませてたってことなのかもしれないけど」
「ルル…」
「ゴメンな?」

そんな俺にリオは穏やかに微笑んで、もういいよと言ってくれる。

「あ、そうだ。ノートはいつ渡せばいい?」
「今はダメだな。後でもらおう」
「わかった」

その後ジードリオ兄上の姿がなくなってからそっとリオへとそのノートを差し出すと、すぐにパラパラと中身を見始めて、どことなく嬉しそうにしながらそっとページを閉じた。

「良くまとめられてる」
「すっごく細かいよな。リオのこと俺よりも詳しいんじゃないか?」
「そうだな。俺もそう思う」

それから暫くジードリオ兄上の話になって、その流れで『婚約者はいないのか?』と聞かれたから、今はいないと素直に答えた。
何年か前に兄の婚約は解消になっている。
先方の勝手な言い分ではあったものの、兄の有責だとチクチク責められたらしい。
俺からすれば週に一度は会いに行って、遠征の時は必ずこまめに手紙を書いて、贈り物も都度都度贈っていたというんだから十分だと思ったのだけど、それだけでは愛が足りないと言われたとかなんとか。
たとえ遠征に行っていたとしても、寂しいと言われたらなんとかして会いに来るのが婚約者の務めというのが相手の言い分だった。
ジードリオ兄上は光魔法と水魔法がメインだから、そんな無茶なことを言われても対処なんて無理だと最初からわかるだろうに。
馬で駆けたって時間がかかるし、付き合わされる護衛達だって大変だし、取り残された騎士達だって困ってしまう。
そんな諸々を考えもせず無理難題を口にして、さも自分は被害者だと訴えてきたその令嬢は、結果的に他に好きな男ができただけで、兄を切り捨てる理由が欲しかっただけだと後から聞いた。
それに大激怒したエーデルト兄上がジードリオ兄上に内緒でこっそり処罰を加えていたのを俺は知っている。

だってニコニコ笑顔で俺のところへやってきて『ルルナス。犯罪者を砂漠のど真ん中に転移させてやりたいんだが、そんな魔法は作れないか?』って言ってきたんだ。
言われたから作ったけど、その後は敢えては聞いてはいない。
きっと最低限の水と食料だけ持たされて砂漠に行かされたんだろうなとは思うけど、触らぬ神に祟りなし。
深くは追及しないで置いた。

まあそれは置いておいて、今はジードリオ兄上の話だ。

「ジードリオ兄上自身は優しくていい人なんだけど、婚約者には捨てられるし、兄弟の中でも騎士団でも仲裁役ばっかりやってるし、苦労性だからなかなか良い人と出会えないみたいで…」

弟からすれば、兄には良い人と出会って幸せになってほしいなと思ってるのだけど…。

「できれば兄上を支えてくれるような人がいいけど、兄上が自分から見つけに行くのは無理っぽいんだよな」
「そうなのか?」
「一回婚約解消になってるから、相手探しにも消極的なんだよ。なんだったら一生独身で騎士として生きていきそうな感じ」

とは言えそれは流石に勿体ないし、きっと最終的には政略結婚で誰かとは結婚させられるのだろうけど。

「まあ俺達が心配したってしょうがない。どうせその内父上か母上がお節介な縁談でも用意するだろうし、なるようになるとは思うけど」
「…………そうか」

リオはそう言いながらそっと手元のノートへと視線を移した。


***


「じゃあ行ってきます」

一通り手はずを整え、いざ異世界へ。
今度ここへ戻ってくる時は、召喚されて連れ去られた皆と一緒だ。
必ず無事に帰ってくると約束して俺は魔法を唱えた。

すっかり慣れた白光に包まれて、俺はバドの元へと帰る。
たった一日二日会ってなかっただけなのに恋しく思うのは、バドが好きだからということに他ならない。
ちなみにお土産はバドがよく俺に差し入れてくれたお菓子だ。
懐かしいと言ってくれるだろうか?
そんなことを考えながら戻ったら、何故か兵達に囲まれてしまったんだけど、どうしてだろう?

(もしかしてバレたとか?)

帰還する計画がバレたのかと一瞬そう思ったものの、それはすぐに誤解だとわかった。
もしバレていたらきっと問答無用で牢屋行きだっただろうけど、そうはならなかったからだ。

「ルルナス王子!一体どこへ?!」

焦ったようにやってきた国王に俺は笑顔でこう答える。

「ちょっと忘れ物を取りに」
「忘れ物?」
「と言うより、バドとよく一緒に食べたお菓子を思い出したので、作ってもらってきたんです。思い出の品なので久しぶりに一緒に食べたいなと」
「そ、そうだったのか。いや。戻ってきてもらえて良かった」

なんだか気まずそうだけど、どうかしたんだろうか?

「そう言えばバドは?」
「バ、バドは今別の仕事を頼んでいてな。すぐに呼んでくるからのんびり待っていてもらいたい」
「わかりました」

大丈夫かなと思いながらも連れてきてもらって無事を確認する方がいいと判断し、そのまま任せることに。
そしてしばらく部屋で待っていたら、バドが疲れたようにやってきた。

「バド!」
「ルース…」

俺の姿を確認した途端、ホッとしたように表情を綻ばせた姿に大丈夫そうだとは思ったものの心配は心配で駆け寄ってしまう。

「大丈夫か?」
「ああ」
「本当に?」
「ああ。問題ない」

とは言えなんだかしんどそうだ。
そう思ったから俺はバドを連れてリセル嬢のところへ行くことにした。
なんだかぞろぞろ護衛っぽい者達がついてきたけど、知ったことではない。

「リセル嬢!治癒魔法を頼みたい」
「まあ、ルルナス王子!どこか具合でも?」
「バドが疲れているようで」

これでダメなら別の召喚者に医師がいるからそちらで診てもらおうと思いながらチェックしてもらうと、物凄く難しい顔をした後、『魔力をグイグイ抜かれる拷問でもされたのですか?』と言われた。

「拷問?」
「ええ。ルルナス王子もご存じかと思いますが、魔力を一気に使うと身体に疲労感が蓄積されますし、枯渇寸前まで魔力がなくなれば身体は必死になって魔素を取り込み始めます。その原理を使った拷問法がどうやらこの国にはあるらしく、もしかしたらと…」

その言葉に俺がサッとバドへと目をやったらあからさまに目を逸らされた。

「バド?」
「だ、大丈夫だ」
「ふ~ん?……リセル嬢。もしそんな拷問が行われていた場合、治療法は?」
「この国は魔素が多いので、休んでいれば自然に治ります。できるだけ横になっていれば問題はないでしょう」
「わかりました。ありがとうございます」

俺はリセル嬢へとお礼を言って、そのまま重力軽減の魔法を使いつつバドを抱き上げると、暴れるバドをさっさと部屋へと連れ帰って、大人しく寝ろと言い放った。

「ちゃんと寝ないと強制的に寝かしつけるぞ!」
「ルース…」
「ほら。添い寝してやるから」

どうせ頑なに俺の居場所を言わなかったとかそういう感じでそんな目にあったんだろう。
変に要領が悪いからそんな目に合うのだ。
あんな王、適当にあしらっておけばよかったのに。

「全く…バドは俺がいないとダメだな」

そう言う不器用なところも好きだけどと言ってそっと唇を重ねると、可愛く抱き着いてこられて胸がきゅんとした。

「ちゃんとしっかり追い詰めて、バドを虐めた報いは受けさせてやるからな」

ニッコリそう言って安心させようと思ったら何故かメチャクチャ止められたけど、復讐のカウントダウンは始まったのだ。
召喚者達の身内からもできる限りの報復をと言われたことだし、それにバドの分も上乗せしてやろう。
そう思いながら俺はフフッと笑った。

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