上 下
18 / 77

17.パーティー当日

しおりを挟む
待ちに待ったマリオン王子との再会の日。
俺はしっかりめかし込んでパーティーへと臨んだ。
バドも一緒だ。

バドとは言い合いになったあの日から少しだけ関係がギクシャクしている。
正直気にはなるものの、バドの方も特にあれから何も言ってこないから気にしないようにしていた。
と言うよりも、もの言いたげにどこか切なさが滲んだような目を向けられるから、どう接したらいいのかがわからないのだ。
目は口ほどに物を言うとはよくも言ったものだと思う。

(言いたいことがあるなら言えよ!)

お陰でここ最近俺はバドのその顔がチラチラ頭をよぎって仕方がなかった。

(もっと初恋相手のことを考えたかったのに!)

最初は俺と喧嘩したから魔力がもらえなくなるかもと不安になっているのかと思って、そこは保証するから心配するなと言ってやったのに、どうやらそうでもないらしく『そこは信用している』と返された。
なら帰還魔法の方で何か不安なのかと思い、それも訊いてみたらどうやらそれとも違ったらしく『ルースの魔法の才能は本物だし、何も疑ってないから大人しく待ってる』と返された。
信用されているのは嬉しいけど、じゃあ何をそんなに憂いてるんだと言いたくなる。
正直俺からしたらそれくらいしか思い当たるものがないし、思いつかないからこそそれ以上何も言えなくなってしまった。

仕方なくバドが差し入れして帰った後、研究室の面々に『最近バドの様子がおかしいんだけど、どうしたらいいかな?』と相談したら、『優しくしてあげたらいいんじゃないですか?』なんて返された。
やっぱり俺のこのぎこちない態度が悪いんだろうか?
でも初恋の件であれこれ言われて腹が立ったのは事実だし、あれから日も経っているから今更掘り返すのもなと思えて、結局何も言えずのままここまで来てしまった。

「はぁ……」

とは言え今日という記念すべき日にお互い楽しめないのも良くない。
ここは俺が大人しく折れよう。

「バド。今日は折角のパーティーだ。お互い気持ちを切り替えて楽しもう」
「…………そうだな。そうしよう」

(なんだよその間は?!)

言いたいことがあるなら言えよ!!
そしてやっぱり煮え切らないバドに俺は腹を立て、もういいやと諦めることにした。
折角の再会の日なのに、これ以上バドに付き合うのも馬鹿らしくなってしまったのだ。
今日だけはバドのことは頭から追い出して、パーティーを満喫しよう。
そう結論付けた俺の前に兄達と姉がやってきた。
ちなみに俺は四人兄弟の末っ子だ。
だから割と好き勝手させてもらっているし、可愛がってももらっている。

「ルルナス」
「兄上。ご無沙汰しております」
「本当にな。お前ときたら研究室に入り浸りだから、なかなか会えない」
「城にいる兄上が会えないなら俺なんてもっとですよ?俺は外に出てばっかりなんですから」

一番上の兄と二番目の兄がそんな風に言ってくる。
そんな二人に朗らかに笑みを向け、姉が窘めてくれる。

「お二人とも。ルルナスが困っておりますわ」
「ああ、すまない。それで…そっちが異世界からの客人だな」

そう言って兄の目が俺の隣にいたバドへと向けられる。
実は兄達はバドに会ったことがなかったりする。
今回の逆召喚の件は俺に一任されていたというのもあって、まあ言ってみればこの国の誰でもなんだけど、異世界人に対して嫌悪の感情が大きいからできるだけ最低限の関わりにさせてもらっているといった感じなのだ。
どうせ帰還魔法が完成したら帰ってもらうんだし、バドが滞在中、お互い変に嫌な思いをしない方がいいだろうと考えての配慮。
でも兄達からしたら気になってはいたんだろう。
個人的に接触して問題を起こした姉の件があるから普段は接触してこなかったものの、パーティーに出席すると聞きつけチャンスとばかりに会いに来たと見た。

「初めまして。この国の第一王子、エーデルトだ」
「俺は第二王子のジードリオ」
「私はヴァーリアよ」
「姉上……」

兄二人は兎も角、姉の態度は相変わらずだ。
全く友好的ではない。

「ロードクルス=バド=スルーダだ。よろしく」

バドはバドで向こう式の挨拶だと思うけど、なんで後ろで手を組んで胸をそらしているんだ?
どう見ても『親しくする気などない!』と言っているようにしか見えない。
友好的に握手の一つでもしてくれればいいのに。
とは言えもしかしたら何か別の意味があるのかもと思って尋ねたら案の定文化の違いが発覚した。
聞けば、これは相手を害す気はないという意思表示の挨拶で、最高の礼儀を払っているポーズらしい。
まあ説明されたらそういうものなのかとわからなくもないんだけど、こっちの常識から言ったら『本当か?』と思えて仕方がなかった。

「あ~…兄上、姉上。どうもこれも文化の違いらしく、害をなす気はないので安心してくださいという意味合いがあるそうです」
「…そうか。やはり異世界とここでは大きく常識が違いそうだな」
「はい。どうぞお目こぼしください」

フォローは入れたものの、兄達の表情は微妙だった。
さもありなん。

そんな微妙な空気の中、俺達の方へとやってきた人物がいた。

カツンッカツンッとゆっくりとした足取りでこちらへとやってきたのは、プラチナ色の髪に金の瞳をした懐かしい色合いを持つ一人の男。
整った容姿からは色気が滲んで昔のような可愛らしさは一切ないけれど、その瞳は俺を懐かしむように見つめていたから、これがマリオン王子だと一目でわかった。

「ご歓談中失礼します。ご挨拶をさせていただいても構わないでしょうか?」
「ああ!マリオン王子。ようこそ我が国へ」

そうして兄達がにこやかに挨拶を交わし始める。
その間俺はそれが終わるのを傍で待っていたんだけど、ふと隣のバドが気になってそちらへと目をやっていた。

(って、お前は何を見惚れてるんだ?!)

まあ気持ちはわからなくもない。
マリオン王子は普通にイケメンだ。
バドがクールビューティー系だとしたら、マリオン王子は色気を滲ませたイケメン枠だと思う。
俺とは全然タイプも違うから、年上の女が好みのバドからしたら魅力的に映ったのかもしれない。

(年下だけどな)

とは言えこれで俺だけがおかしいわけじゃないとわかったことだろう。
後で揶揄ってやろう。
そんなことを考えていたら、いつの間にか挨拶を終えたマリオン王子が話しかけてきた。

「ルルナス王子」
「マリオン王子。久しぶり。昔会ったのを覚えているだろうか?」
「気楽に話してほしい。もちろん覚えている。あれは記念すべき初恋の瞬間だったから」
「え?」
「あの日、魔法を嬉しそうに試すルルナス王子の笑顔が眩しくて、一目で恋に落ちたんだ。だから今日会えるのを凄く楽しみにしていた」

正直そんなことを言われるなんて思ってもみなかった。
まさかお互いにあれが初恋だったなんて。

「エーデルト王子達からは許可を頂けたから、少し庭園で話せないか?」

そんなことを言われながら俺は笑顔で手を引かれ、ごく自然に連れて行かれそうになったのだけど、それを止めたのはバドだった。

「ルース。俺には紹介してくれないのか?」

その呼びかけにマリオン王子の足がぴたりと止まる。

「ルース?」
「あ、それバドがつけた俺の愛称なんだ」
「初めまして。ロードクルス=バド=スルーダだ」

そう言いながら今度は笑顔で握手を求めるバド。
普通に握手できるなら最初からやれよとつい思ってしまう。
兄達にもそんな風にしてくれればよかったのに。

そんなバドにマリオン王子も笑顔で握手で応え、自己紹介をした。

「ネルフィン国王子、マリオン=ディオ=ネルルンだ。よろしく」

そして挨拶は終わったとばかりに再度俺の手を取り直し、マリオン王子はバドへと言った。

「噂によるとスルーダ殿は異世界から来られたとか。こちらのパーティーは真新しく目に映ることでしょう。どうぞ存分にお楽しみください」
「言われなくてもそのつもりだ」
「ではこちらはこれから旧交を深めに参りますので、失礼します」

ニコッと笑いあっさり俺を連れ去るマリオン王子。
なんだか物凄く手慣れている。
あまりにもスマートに俺を攫って行くから驚きすぎてバドが固まってるぞ?

(その間抜け顔も可愛いな)

そんなことを思いながら俺はマリオン王子と一緒に庭園へと向かったのだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

これまでもこれからも

ばたかっぷ
BL
平凡な相澤太一と成績優秀な多岐川暁人は全寮制の学園に通う幼馴染み。変わらない日常は暁人が生徒会に入ったことから少しずつ変わりはじめた…。 人気者×平凡の幼馴染みもの。王道学園が舞台ですが王道的展開はありません。 えっち無し(温~いキスシーン程度) 軽めの暴力描写とちょっとのお馬鹿さが有りますσ(^◇^;)

虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

転移者を助けたら(物理的にも)身動きが取れなくなった件について。

キノア9g
BL
完結済 主人公受。異世界転移者サラリーマン×ウサギ獣人。 エロなし。プロローグ、エンディングを含め全10話。 ある日、ウサギ獣人の冒険者ラビエルは、森の中で倒れていた異世界からの転移者・直樹を助けたことをきっかけに、予想外の運命に巻き込まれてしまう。亡き愛兎「チャッピー」と自分を重ねてくる直樹に戸惑いつつも、ラビエルは彼の一途で不器用な優しさに次第に心惹かれていく。異世界の知識を駆使して王国を発展させる直樹と、彼を支えるラビエルの甘くも切ない日常が繰り広げられる――。優しさと愛が交差する異世界ラブストーリー、ここに開幕!

にーちゃんとおれ

なずとず
BL
おれが6歳の時に出来たにーちゃんは、他に居ないぐらい素敵なにーちゃんだった。そんなにーちゃんをおれは、いつのまにか、そういう目で見てしまっていたんだ。 血の繋がっていない兄弟のお話。  ちょっとゆるい弟の高梨アキト(弟)×真面目系ないいお兄ちゃんのリク(兄)です アキト一人称視点で軽めのお話になります 6歳差、24歳と18歳時点です

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。 「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」 魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。 俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/11……完結 2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位 2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位 2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位 2023/09/21……連載開始

処理中です...