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17.パーティー当日

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待ちに待ったマリオン王子との再会の日。
俺はしっかりめかし込んでパーティーへと臨んだ。
バドも一緒だ。

バドとは言い合いになったあの日から少しだけ関係がギクシャクしている。
正直気にはなるものの、バドの方も特にあれから何も言ってこないから気にしないようにしていた。
と言うよりも、もの言いたげにどこか切なさが滲んだような目を向けられるから、どう接したらいいのかがわからないのだ。
目は口ほどに物を言うとはよくも言ったものだと思う。

(言いたいことがあるなら言えよ!)

お陰でここ最近俺はバドのその顔がチラチラ頭をよぎって仕方がなかった。

(もっと初恋相手のことを考えたかったのに!)

最初は俺と喧嘩したから魔力がもらえなくなるかもと不安になっているのかと思って、そこは保証するから心配するなと言ってやったのに、どうやらそうでもないらしく『そこは信用している』と返された。
なら帰還魔法の方で何か不安なのかと思い、それも訊いてみたらどうやらそれとも違ったらしく『ルースの魔法の才能は本物だし、何も疑ってないから大人しく待ってる』と返された。
信用されているのは嬉しいけど、じゃあ何をそんなに憂いてるんだと言いたくなる。
正直俺からしたらそれくらいしか思い当たるものがないし、思いつかないからこそそれ以上何も言えなくなってしまった。

仕方なくバドが差し入れして帰った後、研究室の面々に『最近バドの様子がおかしいんだけど、どうしたらいいかな?』と相談したら、『優しくしてあげたらいいんじゃないですか?』なんて返された。
やっぱり俺のこのぎこちない態度が悪いんだろうか?
でも初恋の件であれこれ言われて腹が立ったのは事実だし、あれから日も経っているから今更掘り返すのもなと思えて、結局何も言えずのままここまで来てしまった。

「はぁ……」

とは言え今日という記念すべき日にお互い楽しめないのも良くない。
ここは俺が大人しく折れよう。

「バド。今日は折角のパーティーだ。お互い気持ちを切り替えて楽しもう」
「…………そうだな。そうしよう」

(なんだよその間は?!)

言いたいことがあるなら言えよ!!
そしてやっぱり煮え切らないバドに俺は腹を立て、もういいやと諦めることにした。
折角の再会の日なのに、これ以上バドに付き合うのも馬鹿らしくなってしまったのだ。
今日だけはバドのことは頭から追い出して、パーティーを満喫しよう。
そう結論付けた俺の前に兄達と姉がやってきた。
ちなみに俺は四人兄弟の末っ子だ。
だから割と好き勝手させてもらっているし、可愛がってももらっている。

「ルルナス」
「兄上。ご無沙汰しております」
「本当にな。お前ときたら研究室に入り浸りだから、なかなか会えない」
「城にいる兄上が会えないなら俺なんてもっとですよ?俺は外に出てばっかりなんですから」

一番上の兄と二番目の兄がそんな風に言ってくる。
そんな二人に朗らかに笑みを向け、姉が窘めてくれる。

「お二人とも。ルルナスが困っておりますわ」
「ああ、すまない。それで…そっちが異世界からの客人だな」

そう言って兄の目が俺の隣にいたバドへと向けられる。
実は兄達はバドに会ったことがなかったりする。
今回の逆召喚の件は俺に一任されていたというのもあって、まあ言ってみればこの国の誰でもなんだけど、異世界人に対して嫌悪の感情が大きいからできるだけ最低限の関わりにさせてもらっているといった感じなのだ。
どうせ帰還魔法が完成したら帰ってもらうんだし、バドが滞在中、お互い変に嫌な思いをしない方がいいだろうと考えての配慮。
でも兄達からしたら気になってはいたんだろう。
個人的に接触して問題を起こした姉の件があるから普段は接触してこなかったものの、パーティーに出席すると聞きつけチャンスとばかりに会いに来たと見た。

「初めまして。この国の第一王子、エーデルトだ」
「俺は第二王子のジードリオ」
「私はヴァーリアよ」
「姉上……」

兄二人は兎も角、姉の態度は相変わらずだ。
全く友好的ではない。

「ロードクルス=バド=スルーダだ。よろしく」

バドはバドで向こう式の挨拶だと思うけど、なんで後ろで手を組んで胸をそらしているんだ?
どう見ても『親しくする気などない!』と言っているようにしか見えない。
友好的に握手の一つでもしてくれればいいのに。
とは言えもしかしたら何か別の意味があるのかもと思って尋ねたら案の定文化の違いが発覚した。
聞けば、これは相手を害す気はないという意思表示の挨拶で、最高の礼儀を払っているポーズらしい。
まあ説明されたらそういうものなのかとわからなくもないんだけど、こっちの常識から言ったら『本当か?』と思えて仕方がなかった。

「あ~…兄上、姉上。どうもこれも文化の違いらしく、害をなす気はないので安心してくださいという意味合いがあるそうです」
「…そうか。やはり異世界とここでは大きく常識が違いそうだな」
「はい。どうぞお目こぼしください」

フォローは入れたものの、兄達の表情は微妙だった。
さもありなん。

そんな微妙な空気の中、俺達の方へとやってきた人物がいた。

カツンッカツンッとゆっくりとした足取りでこちらへとやってきたのは、プラチナ色の髪に金の瞳をした懐かしい色合いを持つ一人の男。
整った容姿からは色気が滲んで昔のような可愛らしさは一切ないけれど、その瞳は俺を懐かしむように見つめていたから、これがマリオン王子だと一目でわかった。

「ご歓談中失礼します。ご挨拶をさせていただいても構わないでしょうか?」
「ああ!マリオン王子。ようこそ我が国へ」

そうして兄達がにこやかに挨拶を交わし始める。
その間俺はそれが終わるのを傍で待っていたんだけど、ふと隣のバドが気になってそちらへと目をやっていた。

(って、お前は何を見惚れてるんだ?!)

まあ気持ちはわからなくもない。
マリオン王子は普通にイケメンだ。
バドがクールビューティー系だとしたら、マリオン王子は色気を滲ませたイケメン枠だと思う。
俺とは全然タイプも違うから、年上の女が好みのバドからしたら魅力的に映ったのかもしれない。

(年下だけどな)

とは言えこれで俺だけがおかしいわけじゃないとわかったことだろう。
後で揶揄ってやろう。
そんなことを考えていたら、いつの間にか挨拶を終えたマリオン王子が話しかけてきた。

「ルルナス王子」
「マリオン王子。久しぶり。昔会ったのを覚えているだろうか?」
「気楽に話してほしい。もちろん覚えている。あれは記念すべき初恋の瞬間だったから」
「え?」
「あの日、魔法を嬉しそうに試すルルナス王子の笑顔が眩しくて、一目で恋に落ちたんだ。だから今日会えるのを凄く楽しみにしていた」

正直そんなことを言われるなんて思ってもみなかった。
まさかお互いにあれが初恋だったなんて。

「エーデルト王子達からは許可を頂けたから、少し庭園で話せないか?」

そんなことを言われながら俺は笑顔で手を引かれ、ごく自然に連れて行かれそうになったのだけど、それを止めたのはバドだった。

「ルース。俺には紹介してくれないのか?」

その呼びかけにマリオン王子の足がぴたりと止まる。

「ルース?」
「あ、それバドがつけた俺の愛称なんだ」
「初めまして。ロードクルス=バド=スルーダだ」

そう言いながら今度は笑顔で握手を求めるバド。
普通に握手できるなら最初からやれよとつい思ってしまう。
兄達にもそんな風にしてくれればよかったのに。

そんなバドにマリオン王子も笑顔で握手で応え、自己紹介をした。

「ネルフィン国王子、マリオン=ディオ=ネルルンだ。よろしく」

そして挨拶は終わったとばかりに再度俺の手を取り直し、マリオン王子はバドへと言った。

「噂によるとスルーダ殿は異世界から来られたとか。こちらのパーティーは真新しく目に映ることでしょう。どうぞ存分にお楽しみください」
「言われなくてもそのつもりだ」
「ではこちらはこれから旧交を深めに参りますので、失礼します」

ニコッと笑いあっさり俺を連れ去るマリオン王子。
なんだか物凄く手慣れている。
あまりにもスマートに俺を攫って行くから驚きすぎてバドが固まってるぞ?

(その間抜け顔も可愛いな)

そんなことを思いながら俺はマリオン王子と一緒に庭園へと向かったのだった。


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