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43.帰還魔法

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研究に研究を重ね、無事に帰還魔法は完成した。
帰還魔法の種類は二つ。

一つはバドを向こうに送り返す魔法。
もう一つは向こうに召喚されてしまった者達をこちらの世界に引き戻す魔法だ。

こちらは本当に苦心した。
異世界に干渉するスペル。
こちらの魔素を体内に持つ者限定で呼び戻すスペル。
これまで向こうに召喚されてきた人数を一度に呼んでも大丈夫な魔力を蓄積させておくスペル。
考えうる範囲で限界までそんなスペルを詰め込んだ。

ちなみにバドの国の召喚魔法は約35年前から行われている為、既に向こうで家族を作っている場合や商売をしていたり、責任ある立場になっていたりする場合もある。
そういった者達は多分あちらに残ることを選択するはずだけど、それでも帰りたいという人も中にはいると思うし意思確認は必須だ。

それと、各地に散ってしまった者達もバドの国に呼び戻さないといけない。
当初の予定だったら場合により他国にも協力してもらわなければならなかったかもしれないけど、その辺りは俺が行けば万事解決。
捜索用の魔法も作ってみたから、すぐに居場所の特定はできるはず。
その魔法陣に通信もできるスペルも盛り込んだから意思確認もできると思う。
この辺りは魔法開発者の強みだろう。

とは言え俺が向こうに行くのはこっちで皆が油断したタイミングを狙うから、大体1、2週間くらい先だと思うし、バドにはその間できることをやってもらいたいと思う。
主に俺が向こうに行った際の衣食住の確保と言ったところか。

当然ながら、向こうの王がそう簡単に皆をこちらに戻すことについて承諾するとは思っていない。
それこそリオが言っていたように、下手に馬鹿正直に言ったら俺は即監禁されて秘密裏に殺されてもおかしくはない。
だからここは上手く取り繕う必要がある。

まず、俺は天才魔法使いという形で向こうへ行き『魔法陣の誤作動で間違って異世界に来てしまったバドを元の世界に戻し、無事に戻れたのかを確認するためにやってきた』という体裁を作る。
取り敢えずこれで『第一王子を戻してくれた恩人』的立場を確保すれば然程警戒はされないのではと考えた。

その上でこれまで召喚された者達の無事もついでに確認したいと伝え、家族から預かった手紙を渡したいと交渉。
極自然な形で皆に接触する。
その際に万が一監視が付けられたとしても大丈夫なように、手紙の方に特殊な魔法語(魔力を通さないと読めない)で日時と場所を指定して表記。
帰りたい者だけ集まってもらう形に。

後は城でお世話になりながら各所に散ってしまった者達を捜索。
連絡を取って意思を確認。
場合により闇魔法で影伝いに空間を渡って迎えに行き、指定日が来るまで城下町の宿屋で待機していてもらう予定。

そして指定日に集まった面々を一気に帰還魔法を使いあちらに戻せば俺の仕事は終わりとなる。
なかなか大変かもしれないが、なんとか成し遂げたいと思う。




「バド」

そしてあっという間に準備期間は終わりを迎え、今日はバドを向こうに送り返す日だ。
長いようで短かった気のする日々。
今日のバドは初めに召喚された日に着ていた服をその身にまとっている。
相変わらずジャラジャラした変な服だが、こうしてみるとバドはそんな服も自然に着こなしていて良く似合っていた。

向こうで魔素摂取障害が悪化しないよう昨夜はしっかり補給しておいたし、その際にしっかり二人で打ち合わせもやっておいた。
だからここで俺が言うべき言葉は『またな』ではなく別れの言葉だったりする。
皆にバレないよう、これでお別れという雰囲気を出さなければならないし、仕方がない。

(でもそっか…)

バドが来てからバタバタした日々を送ってきたけれど、それも今日で終わりになる。
もう帰還魔法の研究もしなくて済むようになって、バドと言い合いをすることもなくなって、平穏な日々が戻るのだ。
それがほんの束の間のものだとわかってはいても、何故か少し寂しいような気持ちになって首を傾げた。

(どうせすぐに再会できるのに…)

変なのと思いながら俺はフルッと首を振り、帰還魔法の行使のために杖を構える。
これは別になくても構わないのだけど、初めての魔法をより安定化させるために補助的に用意した。
念には念をと言うやつだ。

「バド。向こうに無事に帰ったら、ちゃんと向こうで皆に手紙を渡してくれよな」
「…ああ」
「体に気をつけて」

そう言ったらバドはスッと俺に歩み寄ってきて、そっと抱き寄せたかと思うとそのまま俺の唇を塞いできた。
そしてどこか不安そうに瞳を揺らし、ドキッとするような言葉を口にした。

「ルース。俺はお前が好きだ。それを…忘れないで欲しい」

バドは自分の力だけでこちらには来られない。
もしかしたら、後追いで俺が本当にバドの世界へ来れるのかという不安が込み上げてきたのかもしれない。
俺が向こうに行けなかったら、俺達はこれが永遠の別れになる。
だからこそ言いたくなったのだろう。

そんなバドに向け、俺は安心させるために精一杯の笑みを浮かべた。

「バド。お前の気持ち、ちゃんと受け取った。後はよろしくな」

そうして別れの挨拶を済ませ、指定位置へとお互いに移動して最後にそっと見つめ合う。
それは暫しの別れの合図でもあった。

俺はそのまま迷うことなくバドを元の世界に送り返す魔法を発動させる。
必要なスペルは全て魔法陣に組み込んであるから長い呪文なんて必要ない。
俺はただ短くこう口にするだけ────。

【帰還魔法、発動!】

それと共に魔法陣が白く光り輝き、その光はバドの身をあっという間に包み込むと、パチンと泡がはじけるような音と共にその姿を元の場所へと返した。

後に残ったのは静寂。
さっきまで感じていたバドの魔力の痕跡は綺麗さっぱり消え失せて、探索魔法で探してもこの世界のどこにもバドの魔力は感じられない。
それ即ち、この魔法の成功を表しているのだけれど…。

「ルル」

ふわりと後ろからリオが俺を抱きしめてくる。

「泣くな」

その言葉で初めて俺は自分の目から涙がこぼれているのを知り、不思議に思った。

(バドとはまたすぐに会えるのに、どうして俺は泣いているんだろう?)

それがわからなくて、俺は戸惑いながらリオの腕の中でポロポロと涙を溢し続けたのだった。


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