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第四章 フォルクナー帝国編Ⅱ(只今恋愛&婚約期間堪能中)

69.どうしてメイビスが頭を抱えたのかわからない俺

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帝都の大通りを通り城へと向かうとそこにはすでに出迎えの人々が以前以上にずらりと並び、一斉にお帰りなさいませと頭を下げた。
やっぱりこの空気は慣れないから出来るだけ避けたい。

「もしかしてメイビスと出掛けると毎回出迎えがこれだったりする?」
「え?」
「それだったらケインと二人でこっそり帝都散策に行った方がいいかな…」
「んんっ…。お忍びで行くから大丈夫だ。ケインは俺の護衛と顔合わせなんかもあるし、明日は俺達二人だけで出掛けようか」

なるほど、お忍びか。それなら大丈夫かな?

「それとルマンドの部屋だけど、俺の部屋の隣にしてもらったから」
「隣か。それならメイビスの部屋で眠くなってもすぐに戻れるな」
「………しまった」
「え?」
「いや、なんでもない。ちょっと仕事のミスを思い出しただけだ」
「そうか?あ、そう言えばメイビスも王子の仕事があるよな」

うっかりしていたが、メイビスも年が明けたら20才になるらしいから仕事を今から少しずつやり始めていてもおかしくはない。
現にリュクスだって学園生の時から父の仕事について回ることがあった。
俺は第二王子だからどちらかというと視察とかの仕事についていくより、補佐として必要な書類仕事のやり方なんかを中心に教えられたけど…。
だからこそポーションの件を調べていくのもやりやすかった。
仕事は大事だ。

「俺、一応補佐の仕事として書類の見方とかわかってるから、もし手伝えることがあれば気軽に言ってくれよ」

まあ他国の王子に見せても困らない書類なんてほとんどないだろうけど、例えば検討中の案件とか第三者の目から見て何か気づけることとかもあるかもしれないし、使える面は使ってほしい。
だからそういう意味で言ったんだけど、メイビスが頭を抱えてしまったのを見てちょっと後悔してしまった。
でも何かを思いついたのか、徐に顔を上げたかと思うと唐突に何か国語ができるかを確認された。

「え?俺?五か国語くらいしかマスターしてないけど…」

俺が話せるのはこの大陸で公用語になっているアイン語と母の出身国である海の向こうにあるレイクウッドの公用語ミッテ語。後は学園でも習ったローラン語。個人的に好きなポンパ語とゲルド語だ。
でもそれを聞いたメイビスの目が驚いたように見開かれた。

「五か国語も?」
「うん。補佐だから言語は通訳レベルで覚えるべしって昔から言われてて、取り敢えずこの五か国語はマスターしたんだ。流暢に話せなくても翻訳だけでいいなら後ココット語とニナ語も大丈夫だけど。使える?」

五か国語のうちローラン語もゲルド語も別の大陸のメイン言語だ。ちなみにポンパ語は島国だけどそこそこ大きな国の公用語。ココット語とニナ語は古くから続く歴史ある国で使われている言葉で難しいんだけど、コミュニケーションをとるくらいには話せる。ちゃんと主要な大陸の言語は網羅してるつもりだから、仕事に生かせるなら使ってほしい。
だからそう言ったのに、メイビスはまた悩むように頭を抱えてしまった。
どうしよう…帝国で五か国語は少なかったのかな?
もっと十か国語以上マスターすべきだったか?困ったな。苦手じゃないけどちょっと時間は取ってもらわないと無理だ。まずはココット語とニナ語を完璧にしないとダメかな?

「あ~…メイビス?もし十か国語とか話せないとダメなんだったら努力はするし、ちょっと一年くらい猛勉強させてもらえないかな?」

後の三カ国後はどこがいいのかな?文法が似てたら覚えやすいし、発音を覚えるの自体は得意だから単語を詰め込んでいくのが勉強の肝になってくるんだけど……。冒険に出る時間とか遊ぶ時間を削ればきっと大丈夫だろう。
だからそう言ったのにメイビスがハッとしたように顔を上げて、大丈夫だからといつもの笑顔で言ってくれた。

「ルマンドのレベルが思っていた以上に高かったから驚いただけだ。良かったらあとで一緒に仕事の書類を見ようか?」
「本当か?」
「ああ。ちょうどポンパ語の書簡が外交官から翻訳されて回ってきてたんだが、言い回しが独特過ぎて言いたいことがさっぱりわからなかったんだ。力になってもらえたら嬉しい」
「なるほど。それくらいなら余裕だ」

ポンパ語は確かに独特の言い回しが多いんだけど、その分面白いのだ。
例えば『今すぐ行きます』がポンパ語では『飛んでいくから』になるし、『もうお腹いっぱい』が『頭の先から足先まで物が詰まってる』になる。
一番面白かったのは『相手が激怒した』が『火竜になって火を噴いた』になっていたやつだ。
人が火竜になるってどれだけ怒らせたんだよって大笑いしたっけ…。

多分書類の件も翻訳する時に直訳しすぎた箇所が多くなって、訳が分からなくなってしまったのだろう。




そして部屋へと案内されて荷解きをしてもらっている間に皇帝に挨拶をしに行く。
二度目とは言え、急な来訪で本当に申し訳ない。
そのせいかもしれないけれど、今回は謁見の間ではなく応接間での挨拶となった。
ここから長期で滞在させてもらうのにいいのだろうか?
そう思ってドキドキしながら対面したのに、皇帝は前回の威厳たっぷりな様子とは違い親しみやすい笑みを浮かべながら出迎えてくれた。

「ルマンド王子。息災で何よりだ。遊学の話はコーリック王とも話はついている。どうか我が家と思って自由に過ごしてくれ」
「ありがとうございます。ご期待を裏切らぬよう最善を尽くします」

最高の礼を尽くしきちんと頭を下げる俺に皇帝はうむうむと満足げに頷き、次いでメイビスへと目を向けた。
そして父王から預かっていた書類一式を丸ごと手渡す。

「こちらが遊学についての書類一式、こちらが婚約の書類一式となっているそうです」
「ふむ。婚約はまだ先だな。遊学の書類は先に処理してしまって、こちらは私が預かっておくとしよう」
「…………宜しくお願いします」
「そう不満げにするでない。大体まだ友情に毛が生えたようなものなのだろう?焦ったら逃げられてしまうぞ?」
「お戯れを」
「ははっ。なぁルマンド王子?」
「え?私ですか?」
「そうだ。メイビスとはまだまだ恋愛関係には至っていないだろう?」

そう問われてそれは確かにと頷かざるを得ない。
キスはしたけどそれだって数えるほどだし、恋人同士でするようなことは他には何もしていない。

「そうですね」

だから正直にそう答えたのにメイビスがちょっとショックを受けたような顔をして頭を抱え、皇帝は楽しげに笑っていたのでなんだか申し訳なかった。


****************

※補佐と言語の件
メイビスはルマンドがすでに仕事ができるレベルだったとは思ってもおらず、更にそこまで語学が堪能だとは知らなかったので、すでに外交官レベルなのかと驚き、それならその点をアピールしたら婚約者として周囲を簡単に説得できたんじゃとか色々ぐるぐる考えてただけ(思わぬ誤算で頭抱えてただけ)で、別にルマンドができないからと頭を抱えていたのではないのです。ルマンドはフォルクナー側から見ても結構優秀です。

最後の皇帝の指摘に対するルマンドの返事には本気で頭抱えていますけどね。


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