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第一章 セレン国編(只今傷心旅行中)
閑話1.魅了が解けた後 Side.王太子
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※皆様、沢山のお気に入り登録&コメントありがとうございます。
魅了が解けた後の王太子が気になるというコメントがあったので、閑話として一話入れさせて頂きます。
呑気なルマンドサイドとは違ってちょっとシリアス入ってるので、苦手な方はスルーでお願いします。
******************
その瞬間を何と表現したらいいのか────。
自分は確かに腕の中の彼女を愛していたはずだった。
だからこそ、婚約者であるアンネロッテを断罪するため卒業パーティーという人目のある中で糾弾することにしたのだ。
その判断は間違っていなかったはずだし、アンネロッテを敵視している者は他にも沢山いたから何も問題などないはずだったのだ。
それなのに────。
『ディスペル!』
その言葉を紡いだのは側妃の子であり、第二王子でもある俺の弟───ルマンドだった。
一瞬何故この場でその魔法を使ったのかわからなかった。
けれどそう思ったのは一瞬で、これまで愛しいただ一人の恋人と思っていた腕の中の彼女が急に得体のしれない女に感じられた瞬間、俺は蒼白になりながらその場へと頽れてしまった。
(そんな……)
愛を囁いていた自分はただ魅了の魔法に掛けられていただけだったとでもいうのだろうか?
信じられない。信じたくない。けれど────。
「リュ、リュクス様…!」
目に涙を浮かべながら不安げにこちらを見遣り、そっと手を伸ばす庇護欲が掻き立てられるその姿は以前と何も変わらないはずなのに、胸の中に溢れていたはずの愛おしいという気持ちが胸にぽっかりと穴が開いてしまったかのようにすべて失われていることに気がついて愕然としてしまった。
俺のこの気持ちは作られたものだったのか?
何が正しくて、何が間違っている?
頭が考えるのを放棄して、わからないわからないと壊れたように繰り返し続ける。
そんな中、近衛が動きルルーナを素早く取り押さえる姿が目に入った。
何故、何故、何故────。
何もわからない。
そうやって脱力し呆けている俺を近衛が助け起こして城へと連れ帰る。
俺は魅了から解放されて、その後茫然自失としたまま二週間近く自室へとこもり続けた。
******
俺が正気に返ったのは弟であるルマンドが家出をしたと聞いてからだ。
ルマンドはあの場で魅了を解除した後、置手紙一つを残して家出をしてしまったらしい。
『傷心旅行に出掛けてきます。暫くそっとしておいてください』
そんな一文だけの短い手紙────。
それを聞いた時、俺の中に怒りの炎を灯るのを感じた。
(何が傷心旅行だ!)
あいつがルルーナに惚れているのは知っていたが、まさか魅了されてのことではなく本気で惚れていたとでもいうのだろうか?
そんなルマンドが魅了を解除する魔法をあの場で使ったということは、あれに気がついたのはあの時だったということだろう。
傷心旅行と書いてあるからにはきっとルルに幻滅して失踪したのだと思われる。
ルマンドはいつだって自分は王位には興味ないからというスタンスは崩さず、昔から成績は二番手止まり。
魔法も上級魔法よりも中級魔法の方に興味があるからそっちの数を増やしたいと言って上級魔法を積極的に覚えようとはせず、将来は騎士団でも入ろうかなと剣の鍛錬の方に力を入れていた。
ここ一年ほどは休日は決まってフラフラと外へと出掛け、公的に王子としての役割を果たす時以外は下々の者達と気安く話してばかりいるような奴だった。
人気取りもいいところだ。
そんなところが俺は大嫌いで、ルルの事だって譲る気は一切おきなかった。
他にもライバルは沢山いたが、正直自分がライバル視していたのはルマンドだけだ。
熱い眼差しをルルへと向けるあいつの前で、ルルと親しく過ごし牽制する。
それだけであいつよりも自分の方が上なのだと、優越感に浸っていた。
今から思えば俺は確かにルルの魅了にかかっていたかもしれないが、どちらかというとルマンドに勝ちたかった気持ちの方が強かったように思う。
お前は俺の下だと、お前では絶対に俺に勝てないのだと言ってやりたかった。
それなのに────。
魅了に気づいたあいつと気づかなかった俺。
どちらが優秀かと問われたならば、それはあいつの方だろう。
(許せない、許せない、許せない!)
こんな形で姿を消すような馬鹿な奴に負けてたまるか!
勝ち逃げなんて許さない。
俺はお前を蹴落として、王になるんだ!
そんな思いで城内を歩いていると、その声は突然俺の耳へと飛び込んできた。
「やはりルマンド殿下の方が出来る方だったな。魅了に気づかれてすぐさま解除へと動かれたらしいぞ」
「リュクス殿下は魅了に掛けられて全く気づいておられなかったのだろう?あれでは隙がありすぎて王には向かんな」
「陛下もその点は報告を受けて悩まれていたそうだ」
「リュクス殿下はすっかり腑抜けてしまわれたご様子…」
「ではルマンド殿下が…?」
「その可能性は出てきたと言えるだろう」
「だがヴィヴィアン王妃がお許しになるだろうか?」
ぼそぼそと小さな声で話されていても、静かな回廊では意外なほどにその音は響く。
その中でも、特に聞き捨てならない言葉があった。
(父上が……?)
悩んでいるということは継承順位が変わる可能性があるということだ。
自分はこんなことで王太子の座から滑り落ちるというのだろうか?
魅了に気づかなかったという、ただその一点で?
「ふっ…ふはははは、あはははははっ!」
たかだか一度の失態でこれまでの積み重ねがすべて台無しになる。
そんなことがあってたまるものか!
突然響いた笑声に場にいた者達がギョッとしながらこちらへと目を向け、それが王太子である自分だと気づくと我先にとその場から逃げ出していった。
(許せない、許せない、許せない!)
悔しさから頬を滑り落ちていく涙は止まることを知らぬかのようにとめどなく流れ続ける。
その日俺は……ルマンドを追うように城から抜け出し、外の世界へと飛び出した────。
魅了が解けた後の王太子が気になるというコメントがあったので、閑話として一話入れさせて頂きます。
呑気なルマンドサイドとは違ってちょっとシリアス入ってるので、苦手な方はスルーでお願いします。
******************
その瞬間を何と表現したらいいのか────。
自分は確かに腕の中の彼女を愛していたはずだった。
だからこそ、婚約者であるアンネロッテを断罪するため卒業パーティーという人目のある中で糾弾することにしたのだ。
その判断は間違っていなかったはずだし、アンネロッテを敵視している者は他にも沢山いたから何も問題などないはずだったのだ。
それなのに────。
『ディスペル!』
その言葉を紡いだのは側妃の子であり、第二王子でもある俺の弟───ルマンドだった。
一瞬何故この場でその魔法を使ったのかわからなかった。
けれどそう思ったのは一瞬で、これまで愛しいただ一人の恋人と思っていた腕の中の彼女が急に得体のしれない女に感じられた瞬間、俺は蒼白になりながらその場へと頽れてしまった。
(そんな……)
愛を囁いていた自分はただ魅了の魔法に掛けられていただけだったとでもいうのだろうか?
信じられない。信じたくない。けれど────。
「リュ、リュクス様…!」
目に涙を浮かべながら不安げにこちらを見遣り、そっと手を伸ばす庇護欲が掻き立てられるその姿は以前と何も変わらないはずなのに、胸の中に溢れていたはずの愛おしいという気持ちが胸にぽっかりと穴が開いてしまったかのようにすべて失われていることに気がついて愕然としてしまった。
俺のこの気持ちは作られたものだったのか?
何が正しくて、何が間違っている?
頭が考えるのを放棄して、わからないわからないと壊れたように繰り返し続ける。
そんな中、近衛が動きルルーナを素早く取り押さえる姿が目に入った。
何故、何故、何故────。
何もわからない。
そうやって脱力し呆けている俺を近衛が助け起こして城へと連れ帰る。
俺は魅了から解放されて、その後茫然自失としたまま二週間近く自室へとこもり続けた。
******
俺が正気に返ったのは弟であるルマンドが家出をしたと聞いてからだ。
ルマンドはあの場で魅了を解除した後、置手紙一つを残して家出をしてしまったらしい。
『傷心旅行に出掛けてきます。暫くそっとしておいてください』
そんな一文だけの短い手紙────。
それを聞いた時、俺の中に怒りの炎を灯るのを感じた。
(何が傷心旅行だ!)
あいつがルルーナに惚れているのは知っていたが、まさか魅了されてのことではなく本気で惚れていたとでもいうのだろうか?
そんなルマンドが魅了を解除する魔法をあの場で使ったということは、あれに気がついたのはあの時だったということだろう。
傷心旅行と書いてあるからにはきっとルルに幻滅して失踪したのだと思われる。
ルマンドはいつだって自分は王位には興味ないからというスタンスは崩さず、昔から成績は二番手止まり。
魔法も上級魔法よりも中級魔法の方に興味があるからそっちの数を増やしたいと言って上級魔法を積極的に覚えようとはせず、将来は騎士団でも入ろうかなと剣の鍛錬の方に力を入れていた。
ここ一年ほどは休日は決まってフラフラと外へと出掛け、公的に王子としての役割を果たす時以外は下々の者達と気安く話してばかりいるような奴だった。
人気取りもいいところだ。
そんなところが俺は大嫌いで、ルルの事だって譲る気は一切おきなかった。
他にもライバルは沢山いたが、正直自分がライバル視していたのはルマンドだけだ。
熱い眼差しをルルへと向けるあいつの前で、ルルと親しく過ごし牽制する。
それだけであいつよりも自分の方が上なのだと、優越感に浸っていた。
今から思えば俺は確かにルルの魅了にかかっていたかもしれないが、どちらかというとルマンドに勝ちたかった気持ちの方が強かったように思う。
お前は俺の下だと、お前では絶対に俺に勝てないのだと言ってやりたかった。
それなのに────。
魅了に気づいたあいつと気づかなかった俺。
どちらが優秀かと問われたならば、それはあいつの方だろう。
(許せない、許せない、許せない!)
こんな形で姿を消すような馬鹿な奴に負けてたまるか!
勝ち逃げなんて許さない。
俺はお前を蹴落として、王になるんだ!
そんな思いで城内を歩いていると、その声は突然俺の耳へと飛び込んできた。
「やはりルマンド殿下の方が出来る方だったな。魅了に気づかれてすぐさま解除へと動かれたらしいぞ」
「リュクス殿下は魅了に掛けられて全く気づいておられなかったのだろう?あれでは隙がありすぎて王には向かんな」
「陛下もその点は報告を受けて悩まれていたそうだ」
「リュクス殿下はすっかり腑抜けてしまわれたご様子…」
「ではルマンド殿下が…?」
「その可能性は出てきたと言えるだろう」
「だがヴィヴィアン王妃がお許しになるだろうか?」
ぼそぼそと小さな声で話されていても、静かな回廊では意外なほどにその音は響く。
その中でも、特に聞き捨てならない言葉があった。
(父上が……?)
悩んでいるということは継承順位が変わる可能性があるということだ。
自分はこんなことで王太子の座から滑り落ちるというのだろうか?
魅了に気づかなかったという、ただその一点で?
「ふっ…ふはははは、あはははははっ!」
たかだか一度の失態でこれまでの積み重ねがすべて台無しになる。
そんなことがあってたまるものか!
突然響いた笑声に場にいた者達がギョッとしながらこちらへと目を向け、それが王太子である自分だと気づくと我先にとその場から逃げ出していった。
(許せない、許せない、許せない!)
悔しさから頬を滑り落ちていく涙は止まることを知らぬかのようにとめどなく流れ続ける。
その日俺は……ルマンドを追うように城から抜け出し、外の世界へと飛び出した────。
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