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47.バルトロメオ国にて

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ルシアンに会うためにバルトロメオ国へとやってきた。
ここまでの道のりは長かったものの、従兄妹二人と一緒だったからか比較的平穏に来れたように思う。

「カイ。俺達と来て正解だったな」
「そうよ。予想はしていたけど、一人だったら絶対に危険だったわ」

屋敷を出る前と出た後の二人の感想は全く変わらなかった。
でもそう言われるのには訳がある。

乗り合い馬車の乗り方も知らなかったから、街ゆく人に尋ねてみたら何故か騙されそうになって、裏路地に連れて行かれそうになり、寸でのところでダニエルに助けられた。

馬車に乗ったら乗ったで親切な人と知り合いになれたからあれこれ話をしたんだけど、乗り継ぎの街に着いた際、知り合いの商人に紹介してあげると言われて引き合わされ、旅の食料などを補充しようと思ったら、何故か割引ではなく割高価格で購入させられそうになり、ダイアンが『高過ぎるわ!』と値切りに値切って事なきを得たりした。

他にも細々したことはあったけど、多分一人だったら色々危なかったとは思う。

「本当、カイは目が離せないな」
「ちょっと目を離した隙に何度も攫われそうになってたから心配でしょうがないわ」

確かにちょっとダニエルが食べ物を、ダイアンが飲み物を買いにいってて、俺が場所取りでベンチで待ってた時も、逆に俺が何かを買いに行った時も、親切そうな人が話しかけてきてどこかに連れて行こうと言葉巧みに誘いはかけられたけど────。

「ちゃんと断ってたのに」
「ああいうのは絶対に諦めないのよ?一度目をつけたら強引にでも連れて行こうとするの。ツレが居たら渋々諦めるけど、絶対にそうとは限らないわ。ちゃんと気をつけておかないと」
「そっか…」

これまでは家と学園の往復だけの生活だったし、ルシアンとの遠出も常にルシアンと一緒だったから全く気にしたことはなかった。
どうやら俺は随分な箱入り息子だったらしい。

(魔剣と違って人って大変なんだな)

まあ魔剣だって盗まれることはあるんだけど、契約しないとその本領は発揮されないからそういうことは稀だ。
だから人の方が大変だなと思う。
それでも何故従兄妹達ではなく俺を攫おうとするのかはよくわからなかった。
そんなに隙だらけに見えるんだろうか?
女性より隙だらけに見えると言うのはちょっと納得がいかないけど、まあ二人に比べたら子供っぽく見えて攫いやすそうに思われるのかもと一先ず考えることにした。

(俺だってルシアンみたいにもうちょっと身長さえ伸びれば…)

そう思いながら今日の宿を取りにいく。
ここに来るまで何度もやった手続きだし、手慣れたものだ。
ちなみにダニエルから普通の宿と連れ込み宿の違いも教えてもらったから、そこは抜かりない。
食べ物や物の相場だってもうわかってるし、はぐれたり攫われてしまった時の対処法だってしっかり覚えたから大丈夫だ。

(ルシアンに会ったら色々聞いてもらいたいな)

俺の成長っぷりを是非自慢したい。
そして旅の中で俺の知る世界は酷く狭いものだったのだと知った。
まあ魔剣時代は屋敷の中でのことと、戦場でのことくらいしか把握できていなかったし、転生後は出掛けても茶会か学園、それとルシアンとの旅行くらいのもので、後は屋敷でのんびりと言った生活だったから仕方のないことなのかもしれない。
今回はそう言った意味で視野を広めるいい機会になったと思う。
考え方も前向きになって、もう主人と離れ離れになったら生きていけないなんて絶望感に襲われる心配もなくなった。
今なら呼び出されるまで待機していなければならなかった魔剣じゃなく、自分で動ける人になったんだから、自分から会いに行けばよかっただけなのになと軽く考えられるようになれた。
あんなに深刻に悩んで出した答えが、世界を知るだけであっさりしたものに変わってしまって、俺自身驚いたくらいだ。
魔剣には魔剣の良さが、人には人の良さがある。
そう思った旅路だった。

「じゃあカイ。取り敢えずルシアンにここまで来たって手紙に書け。俺が届けに行ってやる」
「え?」
「ダイアンはカイについててやってくれ。大丈夫だとは思うがここは一応元敵国だし、油断はしない方がいい」
「わかったわ」

それはそれでダニエルも危ないんじゃないだろうか?
そう思って口にすると、自分なら大丈夫だと笑って言ってきた。

「これでもダイアンよりは強いし、ちゃんと剣は持ってくから」
「……わかった」

そして俺はルシアンへと手紙を書き、バルトロメオ国まで従兄妹と一緒に来ているから会いたいと綴った。


***


【Side.***】

とうとうルシアン=ジェレアクトの婚約者がここまでやってきた。
ここに来るまで待ちきれず、何度か途中攫えそうなら攫ってこいと指示は出してきたが、都度邪魔が入って無理だったのだ。
だがチャンスはある。
そう思い、自ら制服を着て奴の従兄と接触を図ることに。

学園の入り口付近で『人を待っている』と守衛に告げ待機し、その従兄がやってくるのを見計らってさりげなくぶつかりに行った。

「うわっ」
「すみません。ぼんやりしていました」
「いや。こっちこそ気づかず悪かった。大丈夫か?」
「ありがとうございます」

気遣う男に素直に謝り、俺は気にしていないと笑みを見せた。

「君、ここの生徒か?」
「はい」
「何年だ?」
「一年です」
「……ジュリエンヌ国からの留学生を知っているか?」
「ああ、あのとても優秀な!ルシアン=ジェレアクトのことですよね?」
「…!知ってるのか」
「同じクラスなんです」
「そうか。仲は良いのか?」
「仲が良い…とまでは。挨拶をするくらいの仲ですよ?」
「挨拶はするんだな。よし」

あからさまに仲が良いと言ってしまえば嘘っぽいが、この程度なら頼みやすいと思ってもらえるだろう。
そう思い、あくまでもさり気なく無害を装った。
すると狙い通り男は俺へと手紙を預けてくる。

「すまないが、この手紙をルシアンに渡してもらえないだろうか?」
「これは?」
「婚約者からの手紙なんだが、守衛に頼んでも届けてもらえるかどうか不安でね。君に頼んだ方が確実に読んでもらえると思って」
「婚約者からの。そんな大事なものを俺なんかに預けても?」
「ああ。すまないが頼まれてくれないか?」
「わかりました。ではこれは責任をもって預からせていただきます」
「よろしく頼むよ」

そう言って男は俺へと手紙を託し、笑顔で手を振って戻っていった。
随分な甘ちゃんだ。

(まあ確かに守衛に頼むよりは確実だろうがな)

頼んだ相手が悪かった。ただそれだけの話だ。

「ククッ。さて、油断している今が最大のチャンスだ。計画を実行に移そうか」

そして俺は当然のように手紙を握り潰し、早速婚約者へと接触すべく動き始めた。


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