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31.愛剣との絆 Side.ユージィン
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共に戦場を駆け、共に戦い続けてきた愛剣が、目の前でキィンッという鋭い音と共に叩き折られ呆然となる。
「カイザーリード!!」
『相手はもう虫の息だ。何もできるはずがない』と油断していた自分のミスだ。
幼い頃から見慣れた愛しいその美しい刀身から輝きが失せ、自分との絆が断ち切られる。
愛剣を叩き折った敵国の将軍は満足げに笑って目を閉じたが、俺は勝利したという気持ちよりも絶望の方が強かった。
「カイ…カイザーリード…。すまない。すまない…」
ずっと共にと誓ったのに俺のせいで永遠に失ってしまった。
あんなに献身的に尽くしてくれていたのに、俺は一体どう詫びればいいのだろう?
そうして勝利と絶望を手に俺は王都へと帰還した。
隣国バルトロメオ国とこちらの国ジュリエンヌ国の戦争は結果的にこちらの勝利に終わりはしたが、その被害は甚大だった。
今他国から攻め込まれたら一たまりもない状況。
故に近隣の他国も巻き込んで調停役を立て、不戦条約を結びつつバルトロメオ国からは賠償金を受け取ることで決着がつけられた。
それに際し、バルトロメオ国の国王は次代へと移り、王太子が即位。
今のところ穏健派の国王の元、国の立て直しを図っている状況だ。
こちらはこちらで各所の復興が忙しく、そちらに構う余裕もない状況だった。
そして我がユグレシア家を筆頭に、いくつかの家門は戦争の功績を称えられ勲章を授与された。
非常に名誉なことだ。
けれど失ったカイザーリードは戻ることはない。
ダメ元でカイザーリードを作ってくれた工房へと足を運んだが、そこにいる者達にも『完全に魂が死んでいるため、修復は不可能です』と残念そうに首を振られてしまった。
「カイザーリード…」
そうして落ち込む俺に妻が寄り添いながら励ましてくれ、心の穴を埋めるように子作りに励んだ。
そして産まれたのが長男カイザーリードだ。
その子が腹に宿った瞬間から俺は感じていた。
この子はカイザーリードの生まれ変わりだと。
何故なら失ってしまったあの絆が再び感じられたから、まず間違いない。
(良かった…)
どんな形でも、カイザーリードは自分の元へと戻って来てくれた。
あんな風に命を散らせてしまった愛剣を、今度こそ慈しみ大切にしたい。
そんな気持ちで産まれてきてくれる日を今か今かと待ち望む。
そして産声と共に産まれた姿を一目見て、涙が零れ落ちた。
生命力に溢れ、色合いまでそっくりなその姿に心が震えてしまう。
(おかえり。カイザーリード)
今度は平和な世の中で誰よりも幸せになってほしい。
そんな思いで同じ名を授け、その成長を温かく見守った。
「父様~!」
小さな身体で可愛らしく甘えてくる姿に心癒される。
「カイ!」
抱き上げてやるとキャハハッと無邪気に笑い、『父様、大好き!』という言葉に骨抜きになった。
なんて愛おしいんだろう?
だから可愛がるのも当然なのに、妻は『カイばかり構って』と拗ねてしまい、その結果他の兄妹も作れば変わるかもと考えたらしく、その後下に二人も作る羽目になった。
俺はカイザーリードさえ居てくれればそれでよかったのに。
別に子供が嫌いなわけじゃないが、カイザーリードとの絆はそれほど大きなものだったのだ。
そんなカイザーリードが8才になった頃、いい加減うんざりし始めた妻が『カイに婚約者を作りましょう』と言い出した。
「え…」
「カイだっていつまでも父親ベッタリと言うわけにはいかないでしょう?将来それが原因で結婚ができなくなっては大変です。そろそろ親離れも考えてやらないと」
その言葉は地味にショックだった。
カイザーリードは長男だし、これから先もずっと一緒だと思っていたのに。
けれど妻の言い分にも一理あったため、折れざるを得なかった。
そうして渋々カイザーリードに結婚相手に望むものを聞きに行ったのだけど────。
「結婚?」
「そう。カイも大人になったら誰かと結婚してその人と生涯を共にするんだ」
「それって父様と母様みたいに?」
「そうだ。お互いに尊重し合える相手が望ましいが…」
できれば今はいらないとか言ってくれないだろうか?
そんな希望を持ちながら尋ねると、カイザーリードは無邪気な笑顔でこう言った。
「それなら父様と同じかそれ以上の人がいいです!」
「……!!」
「カッコ良くて綺麗で、強くて賢い。そんな相手なら結婚してもいいですよ?」
その表情にはハッキリと俺への好意が満ち溢れていて、感動に胸が熱くなってしまう。
「カイ…」
「僕は父様以上の人には会ったことがないし、世界で一番父様が大好きなので、もしそんな相手がいなかったらずっと一緒に居させてください」
(か、可愛すぎる!!うちの息子最高!!)
思わず抱きしめて頬ずりをしてしまったくらいだ。
妻はそんな姿にドン引きしていたけど知るものか。
俺とカイザーリードは前世から相思相愛だ!
「カイザーリード。父さんが絶対に条件を完璧に満たした相手を見つけてやるからな!」
こんなに可愛い息子のためなら消極的にならず、寧ろ積極的に相手を見極めて篩い落としていくべきだろうと俄然やる気が出た。
それから暫くカイザーリードの婚約者選びに忙しくなったが、誰も彼も条件に合う者はいない。
当然だ。
綺麗な子や賢い子はいても、カッコいい女の子も強い女の子もまずいない。
それだけで選択肢は男子に絞られる。
けれど今度は年相応のやんちゃさが条件を満たす邪魔をする。
この年で条件をクリアできる者などまずいないだろう。
そうして茶会に参加する度に申し込んでくる婚約者候補を一人また一人とふるい落としていく日々。
妻はカイザーリードの意見なんてどうでもいいからサッサと決めろと煩かったが、俺は妥協する気はなかった。
そもそもの話、カイザーリードを今度こそ幸せにしたいという気持ちはかなり大きなものだったのだ。
そこに口出しはしてほしくない。
そんなこんなで日々は過ぎ、カイザーリードが10才の頃、初めて有力な候補相手からの申し込みを受けた。
「カイザーリード!!」
『相手はもう虫の息だ。何もできるはずがない』と油断していた自分のミスだ。
幼い頃から見慣れた愛しいその美しい刀身から輝きが失せ、自分との絆が断ち切られる。
愛剣を叩き折った敵国の将軍は満足げに笑って目を閉じたが、俺は勝利したという気持ちよりも絶望の方が強かった。
「カイ…カイザーリード…。すまない。すまない…」
ずっと共にと誓ったのに俺のせいで永遠に失ってしまった。
あんなに献身的に尽くしてくれていたのに、俺は一体どう詫びればいいのだろう?
そうして勝利と絶望を手に俺は王都へと帰還した。
隣国バルトロメオ国とこちらの国ジュリエンヌ国の戦争は結果的にこちらの勝利に終わりはしたが、その被害は甚大だった。
今他国から攻め込まれたら一たまりもない状況。
故に近隣の他国も巻き込んで調停役を立て、不戦条約を結びつつバルトロメオ国からは賠償金を受け取ることで決着がつけられた。
それに際し、バルトロメオ国の国王は次代へと移り、王太子が即位。
今のところ穏健派の国王の元、国の立て直しを図っている状況だ。
こちらはこちらで各所の復興が忙しく、そちらに構う余裕もない状況だった。
そして我がユグレシア家を筆頭に、いくつかの家門は戦争の功績を称えられ勲章を授与された。
非常に名誉なことだ。
けれど失ったカイザーリードは戻ることはない。
ダメ元でカイザーリードを作ってくれた工房へと足を運んだが、そこにいる者達にも『完全に魂が死んでいるため、修復は不可能です』と残念そうに首を振られてしまった。
「カイザーリード…」
そうして落ち込む俺に妻が寄り添いながら励ましてくれ、心の穴を埋めるように子作りに励んだ。
そして産まれたのが長男カイザーリードだ。
その子が腹に宿った瞬間から俺は感じていた。
この子はカイザーリードの生まれ変わりだと。
何故なら失ってしまったあの絆が再び感じられたから、まず間違いない。
(良かった…)
どんな形でも、カイザーリードは自分の元へと戻って来てくれた。
あんな風に命を散らせてしまった愛剣を、今度こそ慈しみ大切にしたい。
そんな気持ちで産まれてきてくれる日を今か今かと待ち望む。
そして産声と共に産まれた姿を一目見て、涙が零れ落ちた。
生命力に溢れ、色合いまでそっくりなその姿に心が震えてしまう。
(おかえり。カイザーリード)
今度は平和な世の中で誰よりも幸せになってほしい。
そんな思いで同じ名を授け、その成長を温かく見守った。
「父様~!」
小さな身体で可愛らしく甘えてくる姿に心癒される。
「カイ!」
抱き上げてやるとキャハハッと無邪気に笑い、『父様、大好き!』という言葉に骨抜きになった。
なんて愛おしいんだろう?
だから可愛がるのも当然なのに、妻は『カイばかり構って』と拗ねてしまい、その結果他の兄妹も作れば変わるかもと考えたらしく、その後下に二人も作る羽目になった。
俺はカイザーリードさえ居てくれればそれでよかったのに。
別に子供が嫌いなわけじゃないが、カイザーリードとの絆はそれほど大きなものだったのだ。
そんなカイザーリードが8才になった頃、いい加減うんざりし始めた妻が『カイに婚約者を作りましょう』と言い出した。
「え…」
「カイだっていつまでも父親ベッタリと言うわけにはいかないでしょう?将来それが原因で結婚ができなくなっては大変です。そろそろ親離れも考えてやらないと」
その言葉は地味にショックだった。
カイザーリードは長男だし、これから先もずっと一緒だと思っていたのに。
けれど妻の言い分にも一理あったため、折れざるを得なかった。
そうして渋々カイザーリードに結婚相手に望むものを聞きに行ったのだけど────。
「結婚?」
「そう。カイも大人になったら誰かと結婚してその人と生涯を共にするんだ」
「それって父様と母様みたいに?」
「そうだ。お互いに尊重し合える相手が望ましいが…」
できれば今はいらないとか言ってくれないだろうか?
そんな希望を持ちながら尋ねると、カイザーリードは無邪気な笑顔でこう言った。
「それなら父様と同じかそれ以上の人がいいです!」
「……!!」
「カッコ良くて綺麗で、強くて賢い。そんな相手なら結婚してもいいですよ?」
その表情にはハッキリと俺への好意が満ち溢れていて、感動に胸が熱くなってしまう。
「カイ…」
「僕は父様以上の人には会ったことがないし、世界で一番父様が大好きなので、もしそんな相手がいなかったらずっと一緒に居させてください」
(か、可愛すぎる!!うちの息子最高!!)
思わず抱きしめて頬ずりをしてしまったくらいだ。
妻はそんな姿にドン引きしていたけど知るものか。
俺とカイザーリードは前世から相思相愛だ!
「カイザーリード。父さんが絶対に条件を完璧に満たした相手を見つけてやるからな!」
こんなに可愛い息子のためなら消極的にならず、寧ろ積極的に相手を見極めて篩い落としていくべきだろうと俄然やる気が出た。
それから暫くカイザーリードの婚約者選びに忙しくなったが、誰も彼も条件に合う者はいない。
当然だ。
綺麗な子や賢い子はいても、カッコいい女の子も強い女の子もまずいない。
それだけで選択肢は男子に絞られる。
けれど今度は年相応のやんちゃさが条件を満たす邪魔をする。
この年で条件をクリアできる者などまずいないだろう。
そうして茶会に参加する度に申し込んでくる婚約者候補を一人また一人とふるい落としていく日々。
妻はカイザーリードの意見なんてどうでもいいからサッサと決めろと煩かったが、俺は妥協する気はなかった。
そもそもの話、カイザーリードを今度こそ幸せにしたいという気持ちはかなり大きなものだったのだ。
そこに口出しはしてほしくない。
そんなこんなで日々は過ぎ、カイザーリードが10才の頃、初めて有力な候補相手からの申し込みを受けた。
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