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150.他国からの客人⑯

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ドサッとオスカー王子をベッドにおろすと、キュリアス王子は衣服を緩めて楽な体勢を取らせてあげていた。
なかなか面倒見のいい人物だなと感心してしまう。

「ロキ陛下手伝ってくださってありがとうございました」
「いえ。これももてなしの一環ですから、お気になさらず」

さて。リヒターはまだ来てないけど、取り敢えず会場に戻ってカール王子達と一緒に探そうかと部屋を出ようとした。
けれど、そうする前にグイっと腕をひかれて気づけば扉を背にしながらキュリアス王子に壁ドン状態にされていた。

「ロキ陛下。勝手にお一人で行動しないよう護衛騎士に先程注意されていたでしょう?迎えが来るまでここに居てください」

確かに言われている内容は正しいかもしれないけど、この体勢で言う必要があったのかと甚だ疑問だった。
まるで誘惑するかのように俺を見つめ、もう片方の手でツツっと官能的に頬から唇へと指を走らせて来る様はどう見てもそういった行為への誘いにしか見えない。

「ロキ陛下…待っている間に、如何です?」

(う~ん…。さて、どうしよう?)

多分凄く自信があるんだと思うし、キュリアス王子はこれまでこういった駆け引きを多々楽しんできたんだろう。
だからこそ逃がす気はないと強く思っていそうだ。

(俺は兄上がいない閨には全く興味がないのに…)

そう思いながらつい溜息を吐いてしまう。

「残念ですが、兄上がいないベッドに興味がないんです」

ここは正直に言おう。
そう思ったけど、キュリアス王子はヤル気満々だった。

「カリン陛下がいらっしゃれば俺と寝るのも構わないと?」
「そうですね。キュリアス王子に犯されてあんあん啼く兄上を見るのは楽しいかもしれません」

兄がいるなら別にいいとは思う。
マンネリ解消になって兄も悦んでくれるかもしれないし、もしかしたら新しい責め方とかの勉強になるかもしれない。
想像してみると割と楽しそうだ。
後で兄に相談してみようか?

「……随分楽しいご趣味をお持ちのようですが、カリン陛下抜きでも楽しませる自信はありますよ?」

少し驚いたようだったけど、キュリアス王子はすぐに気を取り直して逃がすものかと言わんばかりに流し目で誘ってきた。
人によっては魅了されてこのまま流されてしまったりするのかな?
まあ俺の性癖から思い切り外れているから、俺は全くそそられないんだけど。
兄がOKしてくれれば後で呼んだらいいし、今はさっさと解放してもらえないだろうか?

「積極的なお誘いは是非兄上にお願いします。俺の前でしてくれるのなら全く構いませんので」

にこやかにそう言った俺にキュリアス王子が仕方がないと言わんばかりに顎に手を添え、強引に唇を重ねてくる。
強引とは言え別に乱暴なわけでもない。
チロリと唇を舐められ、誘うように何度もむように唇を重ねてくる感じだ。
しっかりこちらの反応も確かめながらしているし、なかなかの誘い上手。
いつぞやのレイプ犯とは大違いだ。
口の中に舌を忍ばせる隙を狙っている点においても手慣れている感が半端なかった。
こういうのがきっと本当の上級者なんだと思う。
まあ俺は兄とのキスの方が好きだし、いくら上手くてもちっとも萌えないんだけど。

(やっぱり自分から攻める方が好きだな)

突き飛ばすでもなくそうやって黙って受け入れ分析していたのだけど、そのせいで何やら勘違いされてしまったのかそのまま熱烈に舌まで入れられてしまった。
しまったなと思ったものの、まあ折角だしちょっと学んでからおいとましようとわざとそのキスに乗ってみることに。

(うん。なかなかのテクニシャンだ)

これならきっと兄も沢山悦んでくれそうだとついそんなことを考えてしまう。
テクニシャンに翻弄される兄を視姦するのは大好きだから、是非見てみたいと思った。

(これなら兄上を積極的に説得してみてもいいかも)

そんな事を思いつつ隙を見て彼の舌を絡めとり、そのまま吸い上げた。
もうお試しはこの辺でおしまいで良いだろう。

「んっ…」
「ふふっ。かなりお上手ですね」
「……ロキ陛下はなかなか食えないお方のようだ」
「俺なんてまだまだですよ。もう解放していただいても?」

今はお呼びじゃないとばかりに笑顔であしらう。
けれどそれを受けてキュリアス王子もまた嗤った。

「……益々欲しくなった」

その言葉と共にキュリアス王子はあくどい笑みを浮かべたかと思うと、いきなり拳を腹へと叩き込んでくる。

ドスッ!

「うっ…」

このパターンは流石に想定外だ。
咄嗟に腹筋を締めたから別に大したダメージは受けてないけど、強引だと言わざるを得ない。

(はぁ…面倒臭いな)

このタイプは初めてだし様子を見た方がいいんだろうか?
取り敢えず油断してもらうためにそのまま腹を押さえ力を抜いて床に蹲る俺に、キュリアス王子が楽し気に笑いながら言い放ってくる。

「ロキ陛下。俺は欲しいものは何がなんでも手に入れる主義なんです。そこのオスカーも学生時代に気絶させて恥ずかしい格好で縛ってやった後、脅しながら犯してやったんですよ?王族だからこそ周囲に言えないことってありますよね?」

なるほど。
どうやらキュリアス王子はかなり質の悪い人だったらしい。

(まあ俺もこっち方面はあまり人のことは言えないけど)

キュリアス王子は俺の身体をグイッと引っ張り上げて肩に担ぎ上げると、迷うことなく部屋を出てしまう。

「いつまでもここに居て無粋な邪魔が入ったら面白くない。まあ…ロロイアの薬はよく効くからオスカーは起きないだろうが…。ロキ陛下、俺の部屋でゆっくり楽しもう」

キュリアス王子は本性を現しながらそんなことを言ってくるが、なんだかオスカー王子にも一服盛ったかのような言い様だ。
もしかしたら自分とあそこで会わなければ、この王子はオスカー王子をそのまま犯そうとしていたんじゃないだろうか?
普通に酔い潰したわけでなく、わざわざ薬を使ったならその可能性は否定できないだろう。
そしてリヒターが戻ってくる前に俺を自室に連れ去って抱きたいと────そういうことのようだ。
とんだクズ王子だなぁと思いながら仕方なく攫われていく。
最早攫われること自体が慣れっこになってしまって、妙な余裕さえ感じてしまっていた。

(また兄上に心配されそうだし、ここはタイミングを見計らって暗器を試すか)

暗器と言っても今使おうとしているのは別に危険なものではない。
カークが痺れ薬の調合の仕方も教えてくれて、助けが間に合わなかったら迷わずそれを塗った針を相手に刺すように言われているのだ。
下に降ろしてもらったタイミングでプスッと刺せば問題はないだろう。

そんなカークはと言うと────キュリアス王子の暗部と戦っていた。
既に三人くらいは倒しているようだけど、数が多いからなかなか大変そうだ。
腕を上げたとはいえ一人で相手取るには多勢に無勢。
こっちを早めに抜け出して手伝った方がいいんだろうか?
最近は鞭だけでなく暗器も練習しているから懐から飛び道具を出したら加勢はできるけど、それをやるとやりすぎかな?悩む。
直接襲われたわけでもないのに他国の暗部を攻撃していいのかよくわからないし、また今度兄に聞いてみよう。

「ロキ様!!」

焦ったように割と大きな声で必死に呼ばれるけど、こっちは別にそんなに心配しなくても大丈夫なのに。

「ククッ。暗部が一人とは…随分呑気だな」
「まあ自衛できるので」
「ハハハッ!」

どうやら冗談だと思われたらしく大ウケされた。
この人も大概呑気だなと思う。
そんなやり取りをしていると、バタバタとした足音と共にまさかのシャイナーとレオがやってきた。

「「ロキ!!」」

血相を変えて走ってきた姿を見るに、多分たまたまカークの焦った声が耳に届いて駆けつけてくれたんだろう。

「キュリアス王子?!ロキをどこに連れて行く気だ!」
「ロキを離せ!」

これはキュリアス王子的にも想定外の状況のはず。
二人が騒いだお陰でそれを聞きつけた騎士達も多数駆けつけてきたし、こうなったら流石にキュリアス王子も何もできないだろう。
そう思ったのだけど…。

「ご挨拶ですね。任意でロキ陛下とこれから楽しい時間を過ごす予定なので、邪魔しないでいただけますか?」

思い切り開き直った笑顔で言い切られた。
それが通用すると思っているところが凄い。

(う~ん…?)

もしかして俺があまりにも焦ったり暴れたり逃げようとしたりしないから、何か勘違いしてるんだろうか?
ちゃんと言ったつもりだったのだけど…。

「あの、キュリアス王子?」
「なんですか?ロキ陛下」
「先程言ったと思うんですが、俺は兄上と一緒じゃないと誰とも寝ませんよ?」
「焦らすのが得意だな。そこもまた是非屈服させてみたい。さっさと行こうか」
「はあ…」

どうやら言っても無駄のようだ。
こちらが年下と見て甘く見てるんだろう、きっと。

(もういいか。面倒だしさっさと刺しちゃおう)

狙い通りしっかり油断してくれているから逃げるのなんて簡単だ。

プスッ。

痺れ薬は即効性があるからすぐさまキュリアス王子の腕から力が抜けていく。

「な…っ」
「油断しちゃダメですよ?」

そのまま全身に痺れが回り床へと崩れ落ちていくキュリアス王子。
それに巻き込まれる前に、俺は踏み台よろしく蹴り飛ばし、バク転で脱出した。
リヒターにも付き合ってもらったカークとの遊びが役立って良かったと思う。

「キュリアス王子?どこぞのシャイナー陛下より質が悪いので、申し訳ないですが一旦拘束させて頂きますね?」
「ぐっ…!」

悔しそうに睨まれるけど、元々合意したわけでも何でもないんだから恨まないでほしい。
パーティー主催国の国王を勝手に自分の思い通りにしようとする方が悪い。
大人しくしていたら兄との閨に呼んであげたのにと思いながらそのまま踏みつけ、思い切り縛り上げてしまう。

「ロキ…いつも懐に縄を入れてるの?」

レオが呆れたように言ってくるけど、あれば便利だし別にいいと思うけど。

「捕縛に使ったり脱出に使ったり色々便利でしょう?」
「まあ…そうだけどさ」

疲れたような顔でレオはこちらを見てくるけどどうしてだろう?

「ロキ…俺もついでに……」
「シャイナーはややこしいので黙っていてください」

レオとは対照的にシャイナーの表情はキラキラと輝いている。
キュリアス王子の方をそんなにうっとりした表情で羨ましそうに見ないでほしい。
シャイナーの場合キャサリン嬢にやってもらえばいいのに。

そんなやり取りをしているうちに、騎士達がカークと協力してキュリアス王子の暗部達も捕まえてくれたからやっと一息つくことができた。

(はあ…疲れた)

もう今日はこのまま兄の顔だけ見て寝てしまいたいけど、例のテリーと言う人物は無事に見つかったんだろうか?
そんな事を思いながら俺はキュリアス王子の痺れが早く取れますようにとグリグリ踏んでいたのだけど、この時はまだ、後からやってくる兄とリヒターに叱られてお仕置きされるなんて全く思ってもみなかったのだった。


****************

※周りから見ると隙だらけだけど、あくまでもロキ的にはちゃんと断ってるつもり(^_^;)

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