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123.薔薇の棘⑪ Side.クリスティン
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ロキ陛下への復讐に成功した。
調査をした結果母親や貴族令嬢達に蛇蝎の如く嫌われていることが分かったから上手く近づき仲良くなって、シャイナー陛下がロキ陛下にされた件を相談したらすぐに同情してもらう事ができた。
皆で退位に追いやってやろうと盛り上がり、綿密に計画を立てた。
特に元王妃であるロキ陛下の母親の憎しみは大きかったので、ちょっと煽ってやったら『いっそ始末してカリンを王にしてしまいましょう』とにっこり笑ってくれた。
そこからは早かった。
貴族令嬢達の父親達を使いロキ陛下を避暑へと誘い出し、私達の手の者を配した別荘へと来てもらう。
そこへ私達が突撃し、対策をとる暇もなく立て続けに追い込んでやった。
本当なら媚薬で真っ赤になったところを言葉で嬲ってやりたかったが、気づかれて失敗に終わってしまった。
けれど次の下剤は成功し、食事もそこそこに席を立たせることができた。
後は弱ったところを男に襲わせて、そこをカリン陛下に目撃させて浮気だと騒ぎ立ててやろうと思っていたのだけれど…。
(ちょっと予定と変わってしまったのよね)
男に組み敷かれているところを目撃させるつもりだったのだけど…。
まさかロキ陛下が主導権を握るほどの猛者だとは思っていなかった。
とは言えそれ故に本人が望んで浮気したようにカリン陛下には見えたようだし、成功は成功だ。
更に戻ってきたカリン陛下を嵌めてそれを元に不和の種を撒いて、お前はガヴァムに必要ないと言ってやることもできた。
本当ならそこから心理的ショックを受けたロキ陛下を朝食の席に着かせて毒を盛ってやるつもりだったのだけど、その前に壊れてしまった。
(意外と脆かったわね)
護衛にあっという間に連れ去られ、毒を盛る暇が一切なかった。
とは言えそれくらいなら多少計画が早まっただけに過ぎない。
馬車で苦しむロキ陛下を街医者に連れて行くだろうことを想定し、馬車の車輪に細工をして、ある程度の距離を走れば外れるようにしておいたのだ。
崖のあたりで外れるのが理想だったけれど、もし失敗しても確実に始末できるよう野盗に襲わせようと手配も掛けてある。
元々人を信用していないロキ陛下の配下が最低限なのも情報として知っていたし、彼らがいたとしても絶対に逃げられないほどの人数を揃えたから確実に殺せるはず。
これでシャイナー陛下の恨みを晴らしてあげられる。
(シャイナー陛下。もうすぐ朗報を持って帰りますから、どうか待っていてくださいませね)
念のため疑いの目が自分に向かないようカリン陛下の前ではロキ陛下を心配する演技もちゃんとしておいたし、アンシャンテの公爵令嬢を関与の疑いだけで拘束するまではしないだろう。
国に帰ればこちらのものだ。
シャイナー陛下。私の愛をお捧げします────そう思いながら私は花のように笑った。
***
「クリスティン様~!ロキ陛下の訃報が全然届かないんですけれど、大丈夫でしょうか?」
「もしかして逃げられてしまったのかしら?」
「その可能性はあるかもしれませんわ。あの無能、ああ見えてしぶといんですのよ?」
「そうですわ。あんな壊れたふりをして毒を回避してきたくらいですもの。野盗も上手く撒いてしまったのかも…」
ガヴァムの令嬢達がそんな風に騒ぎ立てる。
そこへ元王妃が深く息を吐きながら仕方ないわねと言ってきた。
「もし万が一生き延びたとしてもまた手を打てばいいわ。どうせ今回の件で懲りたでしょう。退位は時間の問題よ。あとは跡継ぎのためと言って手を回しておけば誰かがあの無能を失脚させてカリンを王位につけてくれるはず…」
『大体カリンを差し置いて無能が王位に就いたこと自体が間違いだったのよ』と元王妃は嘲笑する。
我が子をここまで蔑める親も珍しい。
(まあ…私にとっては好都合だから構いませんけれど)
あんな母親を持ったロキ陛下に同情する気もないし、今回の件は全て自分の蒔いた種なのだから悪足搔きなどせずさっさとその命を散らせて欲しいものだ。
それにしてもどこに逃げたのだろう?
近くの街の診療所だろうか?
それとも一先ず宿屋にでも滞在しているのだろうか?
そちらにも手を回した方がいいのかもしれない。
上手く元王妃達を動かして人を使わせたいと思った。
「王太后様。良かったらこの後皆で気晴らしに街へお買い物にでも出掛けませんこと?」
「まあ、いいわね。あの無能のせいで気分が悪かったからちょうどいいわ。綺麗なものを見ると気分も晴れるものね。是非行きましょうか」
そして馬車の車輪を使用人に点検してもらい、護衛を引き連れ安全に使える馬車に乗って四人で街へと繰り出した。
馬車の中での話題は当然ロキ陛下の悪口がメインだ。
皆『いい気味だ』とばかりにクスクス笑っている。
途中野盗の連中に遭遇したが、こちらの護衛が話をしたところロキ陛下達はここにやってこなかったと言われたので金だけ握らせて解散させることに。
「どこに行ったのかしら?」
「もしかして山中で野垂れ死んでいるのでは?」
「あら、でも護衛の者がいたはずよ?」
「でも彼らもロキ陛下を見捨てて逃げたのかもしれなくてよ?」
「ああ、それはあるかもしれないわね。あんな無能に仕えても何も良いことなどないですもの。オホホホホ」
そうして私達は気分よく街へとやってきた。
けれど……。
「申し訳ございませんが、早めの昼休憩に入るところですのでどうぞお引き取りを」
「あら。折角客が来たのに閉めるなんて勿体ないわよ?開けてちょうだい」
「申し訳ございません。失礼いたします」
最初に入ろうとした宝石店でいきなりそんなことを言われてしまう。
いくら昼休憩とは言え、店を閉めるなんてなんだかおかしい。
けれど歓迎されていないことはその表情から見て取ることができた。
「仕方がないわ。他に行ってみましょう?」
そう言って他の店へも足を運んでみるものの、行く店行く店が全部私達が店先に来た途端『帰ってくれ』の一点張り。
しかも中には冷たい眼差しや憎々し気な眼差しを向けてくる店主までいて理解不能だった。
『流石におかしいでしょう?!』と私達も段々イライラが募ってきた。
そしてとあるドレス店でとうとうこう言われてしまった。
「あんたらか。ロキ陛下を殺そうとしたって連中は」
「え?」
「どういうことですの?」
「どうもこうもないよ。全く。さあ帰った帰った!あんたらに売る物はうちには一つもないよ」
どうしてここでロキ陛下の名が出てくるのだろう?
あの男とドレスのお店が全く繋がらない。
けれどその後も私達は冷たい目で商人達に見られるばかり。
「どういうことなの?」
これには元王妃も訝しげな表情を隠せないようで、取り敢えず高級レストランでお茶でもして落ち着きましょうかと言うことになったのだけれど……。
「お引き取り下さい」
ここでまでいきなりそう言われてしまった。
「どういうこと?他の客は中に入っているじゃないの」
「そうよ!お茶だけじゃなく普通に食事だってしているわ!」
「貴女方にお出しするような物は当店では扱っておりません」
「ふざけないでちょうだい!」
そう────侯爵家の令嬢が食い下がった時だった。
ブシャァアアッ!
私達を狙い打つかのように、突然勢いよくホースで大量の水が撒かれた。
「きゃぁあああっ!」
見ると窓際に置かれた植物に水やりをしていたらしき男が、ホースを手に怒りの形相でこちらを見遣っている。
「さっさと帰りやがれ!バカ女共が!俺達の生活を良くしてくれたロキ陛下を殺そうとしてただで済むと思うなよ?!」
「なっ、なんですってぇ?!」
「酷いですわ!この国を良くしてくださっているのはカリン陛下であってあの無能ではありませんことよ?!」
「はぁ?!寝言は寝て言いやがれ!腐った悪女共にロキ陛下の偉大さがわかってたまるか!」
正直この言葉には揃って怒りを隠せなかった。
(どうして正義であるはずの私達がこんな目に合わなければならないの?!)
「もうこんな場所、二度と来ませんわ!」
きっと何らかの方法で先にこちらへとやってきたロキ陛下があることないこと言い触らしたのだろう。
けれどここにいるのは所詮は平民達。
彼らをいくら味方につけようと貴族である自分達を敵に回してただで済むと思ってはいないはず。
「帰ったらお父様達に言って懲らしめてやりますわ!」
皆が皆怒りに燃えながら馬車へと向かう。
綺麗に結い上げた髪も美しい化粧も可愛らしいドレスも、全てが台無しだった。
しかも水を吸ったドレスはとても重くて絞ろうにもそう簡単には絞れそうにない。
このままでは風邪を引いてしまうし、早めに別荘に帰った方がいいだろう。
そう思って馬車を急がせ別荘へとなんとか辿り着く。
すると戻って早々カリン陛下が蔑んだ目でこちらを見て来て「因果応報だな」などと言い放ってきた。
とてもずぶ濡れの可哀想な令嬢達にかける言葉ではない。
「あんまりですわ!」
カリン陛下に想いを寄せていた伯爵令嬢がワッと本気で泣くが、そんな彼女にもカリン陛下の態度は何一つ変わらなかった。
「俺は先に食事を頂いたので、母上達とは同席しませんので」
失礼しますとだけ言ってカリン陛下はその場を去って行く。
せめて気遣う言葉の一つや二つかけるべき状況だろうに、あまりにも冷たい態度に傷つき、自分まで涙がにじんでしまった。
それから全員四苦八苦しながらびしょ濡れのドレスを脱いで湯浴みをしたけれど、やはり冷えてしまったのか皆風邪気味になってしまった。
「温かいスープが飲みたいわ」
「そうね。同感ですわ」
そう言ってシェフに言って体が温まる消化の良い食べ物を用意してもらって、毒見もササッとしてもらった上で食べたのだけれど────。
「うっ…」
「うぅ…お、お腹が……」
四人揃って腹痛に襲われて、トイレに閉じこもる羽目になってしまった。
落ち着いてから毒見係に「どういうことなの?!」と問い詰めはしたものの、自分は大丈夫だったし、風邪がお腹にきただけではと言われてしまった。
けれど四人同時になんて絶対におかしいし、納得がいくはずがない。
あまりにも腹が立ったのか、その毒見係は処分しておくようにと元王妃が命じていた。
当然だと思う。
****************
※元々いた毒見係は既に裏稼業の者達に始末されているので、ここにいるのは成り代わっている裏稼業の男だったりします。
調査をした結果母親や貴族令嬢達に蛇蝎の如く嫌われていることが分かったから上手く近づき仲良くなって、シャイナー陛下がロキ陛下にされた件を相談したらすぐに同情してもらう事ができた。
皆で退位に追いやってやろうと盛り上がり、綿密に計画を立てた。
特に元王妃であるロキ陛下の母親の憎しみは大きかったので、ちょっと煽ってやったら『いっそ始末してカリンを王にしてしまいましょう』とにっこり笑ってくれた。
そこからは早かった。
貴族令嬢達の父親達を使いロキ陛下を避暑へと誘い出し、私達の手の者を配した別荘へと来てもらう。
そこへ私達が突撃し、対策をとる暇もなく立て続けに追い込んでやった。
本当なら媚薬で真っ赤になったところを言葉で嬲ってやりたかったが、気づかれて失敗に終わってしまった。
けれど次の下剤は成功し、食事もそこそこに席を立たせることができた。
後は弱ったところを男に襲わせて、そこをカリン陛下に目撃させて浮気だと騒ぎ立ててやろうと思っていたのだけれど…。
(ちょっと予定と変わってしまったのよね)
男に組み敷かれているところを目撃させるつもりだったのだけど…。
まさかロキ陛下が主導権を握るほどの猛者だとは思っていなかった。
とは言えそれ故に本人が望んで浮気したようにカリン陛下には見えたようだし、成功は成功だ。
更に戻ってきたカリン陛下を嵌めてそれを元に不和の種を撒いて、お前はガヴァムに必要ないと言ってやることもできた。
本当ならそこから心理的ショックを受けたロキ陛下を朝食の席に着かせて毒を盛ってやるつもりだったのだけど、その前に壊れてしまった。
(意外と脆かったわね)
護衛にあっという間に連れ去られ、毒を盛る暇が一切なかった。
とは言えそれくらいなら多少計画が早まっただけに過ぎない。
馬車で苦しむロキ陛下を街医者に連れて行くだろうことを想定し、馬車の車輪に細工をして、ある程度の距離を走れば外れるようにしておいたのだ。
崖のあたりで外れるのが理想だったけれど、もし失敗しても確実に始末できるよう野盗に襲わせようと手配も掛けてある。
元々人を信用していないロキ陛下の配下が最低限なのも情報として知っていたし、彼らがいたとしても絶対に逃げられないほどの人数を揃えたから確実に殺せるはず。
これでシャイナー陛下の恨みを晴らしてあげられる。
(シャイナー陛下。もうすぐ朗報を持って帰りますから、どうか待っていてくださいませね)
念のため疑いの目が自分に向かないようカリン陛下の前ではロキ陛下を心配する演技もちゃんとしておいたし、アンシャンテの公爵令嬢を関与の疑いだけで拘束するまではしないだろう。
国に帰ればこちらのものだ。
シャイナー陛下。私の愛をお捧げします────そう思いながら私は花のように笑った。
***
「クリスティン様~!ロキ陛下の訃報が全然届かないんですけれど、大丈夫でしょうか?」
「もしかして逃げられてしまったのかしら?」
「その可能性はあるかもしれませんわ。あの無能、ああ見えてしぶといんですのよ?」
「そうですわ。あんな壊れたふりをして毒を回避してきたくらいですもの。野盗も上手く撒いてしまったのかも…」
ガヴァムの令嬢達がそんな風に騒ぎ立てる。
そこへ元王妃が深く息を吐きながら仕方ないわねと言ってきた。
「もし万が一生き延びたとしてもまた手を打てばいいわ。どうせ今回の件で懲りたでしょう。退位は時間の問題よ。あとは跡継ぎのためと言って手を回しておけば誰かがあの無能を失脚させてカリンを王位につけてくれるはず…」
『大体カリンを差し置いて無能が王位に就いたこと自体が間違いだったのよ』と元王妃は嘲笑する。
我が子をここまで蔑める親も珍しい。
(まあ…私にとっては好都合だから構いませんけれど)
あんな母親を持ったロキ陛下に同情する気もないし、今回の件は全て自分の蒔いた種なのだから悪足搔きなどせずさっさとその命を散らせて欲しいものだ。
それにしてもどこに逃げたのだろう?
近くの街の診療所だろうか?
それとも一先ず宿屋にでも滞在しているのだろうか?
そちらにも手を回した方がいいのかもしれない。
上手く元王妃達を動かして人を使わせたいと思った。
「王太后様。良かったらこの後皆で気晴らしに街へお買い物にでも出掛けませんこと?」
「まあ、いいわね。あの無能のせいで気分が悪かったからちょうどいいわ。綺麗なものを見ると気分も晴れるものね。是非行きましょうか」
そして馬車の車輪を使用人に点検してもらい、護衛を引き連れ安全に使える馬車に乗って四人で街へと繰り出した。
馬車の中での話題は当然ロキ陛下の悪口がメインだ。
皆『いい気味だ』とばかりにクスクス笑っている。
途中野盗の連中に遭遇したが、こちらの護衛が話をしたところロキ陛下達はここにやってこなかったと言われたので金だけ握らせて解散させることに。
「どこに行ったのかしら?」
「もしかして山中で野垂れ死んでいるのでは?」
「あら、でも護衛の者がいたはずよ?」
「でも彼らもロキ陛下を見捨てて逃げたのかもしれなくてよ?」
「ああ、それはあるかもしれないわね。あんな無能に仕えても何も良いことなどないですもの。オホホホホ」
そうして私達は気分よく街へとやってきた。
けれど……。
「申し訳ございませんが、早めの昼休憩に入るところですのでどうぞお引き取りを」
「あら。折角客が来たのに閉めるなんて勿体ないわよ?開けてちょうだい」
「申し訳ございません。失礼いたします」
最初に入ろうとした宝石店でいきなりそんなことを言われてしまう。
いくら昼休憩とは言え、店を閉めるなんてなんだかおかしい。
けれど歓迎されていないことはその表情から見て取ることができた。
「仕方がないわ。他に行ってみましょう?」
そう言って他の店へも足を運んでみるものの、行く店行く店が全部私達が店先に来た途端『帰ってくれ』の一点張り。
しかも中には冷たい眼差しや憎々し気な眼差しを向けてくる店主までいて理解不能だった。
『流石におかしいでしょう?!』と私達も段々イライラが募ってきた。
そしてとあるドレス店でとうとうこう言われてしまった。
「あんたらか。ロキ陛下を殺そうとしたって連中は」
「え?」
「どういうことですの?」
「どうもこうもないよ。全く。さあ帰った帰った!あんたらに売る物はうちには一つもないよ」
どうしてここでロキ陛下の名が出てくるのだろう?
あの男とドレスのお店が全く繋がらない。
けれどその後も私達は冷たい目で商人達に見られるばかり。
「どういうことなの?」
これには元王妃も訝しげな表情を隠せないようで、取り敢えず高級レストランでお茶でもして落ち着きましょうかと言うことになったのだけれど……。
「お引き取り下さい」
ここでまでいきなりそう言われてしまった。
「どういうこと?他の客は中に入っているじゃないの」
「そうよ!お茶だけじゃなく普通に食事だってしているわ!」
「貴女方にお出しするような物は当店では扱っておりません」
「ふざけないでちょうだい!」
そう────侯爵家の令嬢が食い下がった時だった。
ブシャァアアッ!
私達を狙い打つかのように、突然勢いよくホースで大量の水が撒かれた。
「きゃぁあああっ!」
見ると窓際に置かれた植物に水やりをしていたらしき男が、ホースを手に怒りの形相でこちらを見遣っている。
「さっさと帰りやがれ!バカ女共が!俺達の生活を良くしてくれたロキ陛下を殺そうとしてただで済むと思うなよ?!」
「なっ、なんですってぇ?!」
「酷いですわ!この国を良くしてくださっているのはカリン陛下であってあの無能ではありませんことよ?!」
「はぁ?!寝言は寝て言いやがれ!腐った悪女共にロキ陛下の偉大さがわかってたまるか!」
正直この言葉には揃って怒りを隠せなかった。
(どうして正義であるはずの私達がこんな目に合わなければならないの?!)
「もうこんな場所、二度と来ませんわ!」
きっと何らかの方法で先にこちらへとやってきたロキ陛下があることないこと言い触らしたのだろう。
けれどここにいるのは所詮は平民達。
彼らをいくら味方につけようと貴族である自分達を敵に回してただで済むと思ってはいないはず。
「帰ったらお父様達に言って懲らしめてやりますわ!」
皆が皆怒りに燃えながら馬車へと向かう。
綺麗に結い上げた髪も美しい化粧も可愛らしいドレスも、全てが台無しだった。
しかも水を吸ったドレスはとても重くて絞ろうにもそう簡単には絞れそうにない。
このままでは風邪を引いてしまうし、早めに別荘に帰った方がいいだろう。
そう思って馬車を急がせ別荘へとなんとか辿り着く。
すると戻って早々カリン陛下が蔑んだ目でこちらを見て来て「因果応報だな」などと言い放ってきた。
とてもずぶ濡れの可哀想な令嬢達にかける言葉ではない。
「あんまりですわ!」
カリン陛下に想いを寄せていた伯爵令嬢がワッと本気で泣くが、そんな彼女にもカリン陛下の態度は何一つ変わらなかった。
「俺は先に食事を頂いたので、母上達とは同席しませんので」
失礼しますとだけ言ってカリン陛下はその場を去って行く。
せめて気遣う言葉の一つや二つかけるべき状況だろうに、あまりにも冷たい態度に傷つき、自分まで涙がにじんでしまった。
それから全員四苦八苦しながらびしょ濡れのドレスを脱いで湯浴みをしたけれど、やはり冷えてしまったのか皆風邪気味になってしまった。
「温かいスープが飲みたいわ」
「そうね。同感ですわ」
そう言ってシェフに言って体が温まる消化の良い食べ物を用意してもらって、毒見もササッとしてもらった上で食べたのだけれど────。
「うっ…」
「うぅ…お、お腹が……」
四人揃って腹痛に襲われて、トイレに閉じこもる羽目になってしまった。
落ち着いてから毒見係に「どういうことなの?!」と問い詰めはしたものの、自分は大丈夫だったし、風邪がお腹にきただけではと言われてしまった。
けれど四人同時になんて絶対におかしいし、納得がいくはずがない。
あまりにも腹が立ったのか、その毒見係は処分しておくようにと元王妃が命じていた。
当然だと思う。
****************
※元々いた毒見係は既に裏稼業の者達に始末されているので、ここにいるのは成り代わっている裏稼業の男だったりします。
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